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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー71






 魔族アザトースがネージュ・ロアロアの身体を奪い、姿をくらましてから一週間が経とうとしていた。


 王の勅命を受け領主ルゴールドの特別編成部隊がアザトースの捜索に当たってはいるが未だに奴の手掛かりすら掴めていない。


 当然のことながら領地対抗戦は続く準決勝、決勝戦共に中止が決まった。


王国はすぐさま緘口令を敷き今回の事件の火消しに矢っけになっていたが、剣聖であるネージュ・ロアが魔族に乗っ取られるという衝撃的なニュースはあっという間にオスタリカ中に広がり、毎夜毎夜酒場では様々な噂話や憶測が飛び交っていた。


 

 アザトース、奴が口にした“この世界のどこかに隠れている陰険な神を探す”というあの言葉。


 それが何かの例えなのか、それとも言葉通りの意味なのか。


兎に角、頭の片隅に置いておいた方が良さそうなのは確かなようだ。



 それはさておき、よくやく身体の傷も癒え、俺は久しぶりにオスタリカの街へと足を延ばしていた。



あの戦いで俺も全治一か月以上という重傷を負っていたが、メリダの回復魔法のおかげで僅か一週間足らずで治ってしまった。



 それから俺よりも重傷だったラフィティア、ドワ娘、メリダ、ヴェル、それにセレナも日常生活を送れる程度には回復している。


 一応念の為屋敷内で安静にはしているが数日中にはメリダから外出の許可も出るだろう。


皆が久しぶりの静かな日常を過ごす中、ドワ娘だけは長い間屋敷から出られず鬱憤が溜まっていたようで毎日酒を飲み酔いつぶれていた。



 ……何とも呆れるばかりだが、まぁ、元気な事はいい事だ。


 

 「土産、待っておるからの」



 というドワ娘の台詞を聞き流しつつ魔導帆船に乗り込むと早々に屋敷を出発する。



 魔導帆船から見る街の景色はいつもと変わりないように思えたが、領地対抗戦が急遽中止となりあれだけ賑わっていた観光客の姿もまばらになっていた。



平和で長閑な日常にホッとしつつも、身なりを整え隣に座るセレナの表情はどこか浮かない。


 あれだけの事があったのだ。


 当然と言えば当然だろう。


いくら剣聖と言えど身体の傷は癒えてもそう簡単に心の傷は癒えやしない。



 あの時の俺の判断が正しかったのかは分からないが、それが彼女の心の負担なってしまっているのは間違いない。

 

 

 街中を通り過ぎ、もうすぐ王の待つ特別区へと到着する。


 こうして俺とセレナの二人で街に出たのはユークリッド王に謁見する為だった。


 

 「セレナ、右腕の、調子はどうだ」


 「……そうですね。今のところ特に問題ありません」


 「そうか、それなら良かった」


 「はい」


「……なぁ、セレナ」


「はい」


「……助けるためとはいえ勝手な事をして悪かったな」


「――! あなたが、オルメヴィーラ公が謝る事など何一つありません! 私を、私を救うためにしてくれたこと、感謝こそすれ悪く思うことなど万に一つもありません!」


 確かにセレナには俺を悪く思う気持ちなどこれっぽっちもないのだろう。


 けど――


 「私は考えるのです。どうしてロアではなく私がここにあるのかと。彼女と剣を合わせた時、私は感じました。ロアはいつかこうなる事を知っていたのだと。いつか自分の身体が魔族のものに落ちると」


 「そう、かもしれないな」


 「彼女には一族に対する強い恨みの念があったかもしれませんが、王国を、領民たちを守りたいという気持ちは本当だったはず。だからこそこの右腕を私に託したのだと思います」


 「右腕を託す、か」


 「彼女は家族を守る為、魔族と契約した。けれど自分の力のせいで誰か大切な人の命が失われるのは許せなかった。自分と同じような思いをもう二度と誰にもしてほしくはなかったのだと思います」


 「そうだな」



 いつか必ず奪われる運命なら、力を託せるに値する者が現れるまでは――。

 


 そしてロアはセレナと剣を合わせ確信した。


 セレナ、お前しかいないと。



 「この腕を通して彼女の想いを感じるのです。今はまだこの手で剣すら握る事も出来ない私ですが、必ず――」


 自分に言い聞かせるように紡ぐ言葉には彼女の強い気持ちが垣間見ていた。



 「オルメヴィーラ公、あなたとこうしてお話が出来て良かった。……ロアの為にも私はもう迷いません。彼女が命を賭してこの力を託してくれたのですから」


 「そうだな」


 「ありがとう、ロア。あなたの望んだ世界を必ずや成して見せます。だからその時までどうかわたしを見守っていてください」


 

 





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