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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー65





 

 ――どうやらクロの影は繋がった相手の思念や意識を感じ取ることが出来るようだ。

 



 伸びた影は骨が軋むほど何重にもアザトースの身体に巻き付き、奴の全身を強く締め上げていた。



 グロスター領の双子の魔剣士さえいとも簡単に捕らえたクロの影。



 一瞬、アザトースすら拘束することに成功したかのように思えたが、奴が手で軽く振り払うとクロの影はあっという間に霧散し掻き消えてしまった。



 「面白い力、興味。でも、私には効かない、当然」


 「やはり一筋縄ではいかぬようじゃな」


 「あぁ」


 「ごめんなさい、ご主人様。クロの影じゃアレを縛ることは出来ないみたい」



 足元の影から姿を現したクロは申し訳なさそうに頭を垂れた。



 クロの影も効果なし、か。


 さて、どうする。


 

 俺が見たロアの記憶の思念とアザトースの言葉。


 そして目の前にあるのは魔族と契約し、己の全てを差し出したロアの姿。




 何が真実なのか俺にも分からない。


 けど、もうやるしかない。


 アレは既に人間と呼べる存在ではないのだから。





 ――彼女の右腕、右手に一つずつ。


 そして左腕、左手にも一つずつ。


 さらには体の中央と下腹部にも。



 ロアの身体に浮き出た六つの赤い眼球。


 しかし、彼女の両目に瞳はなく額中央に大きな穴が開いているだけであった。



 「どうしてこうも魔族と縁があるのかの」


 「それはこっちが聞きたい」



 「――オルメヴィーラ公、それからフレデリカ。申し訳ありませんが、私の援護お願いします」



 「どうするつもりだ、セレナ。まさか、本当にロアを斬るのか」


 「えぇ。それしか方法がないというのなら」


 「人間が魔族に、なんて話聞いたこともないからの。その逆もまた然り、か」


 「もし仮にこの世界のどこかにロアを元に戻す何らかの方法があるのだとしても、今彼女を止めなければ多くの犠牲が出ます」


 「……本当にいいんだな?」


 「無論。ロアが私と逆の立場だったとしても同じ判断を下すでしょう。剣聖の力は王国、そして領民を守るためにあるのですから」


 「わかった」



 また闘技場には逃げ遅れた人が大勢いる。


 ここで俺たちが奴を食い止めなければ、どうなるかは火を見るよりも明らか。



 「――ラック様!」


 「来るな! ラフィテア」


 

 俺は剣を手にアザトースとの戦闘に参加しようと立ち上がるラフィテアを制止する。


 彼女の気持ちはありがたいが先の戦いで負傷したラフィテアでははっきり言って足手まといだ。


 ましてや傍らには未だに意識を取り戻さないヴェルもいる。



 「メリダ!」



 ――二人を頼む。



 普段なら小言の一つでも言いそうなものだが、メリダは祈るような視線をセレナに送るとそれから黙って強く頷いた。


 

 「はぁ、やれやれ。こうなったら仕方ない。やれるだけやるとするかの。じゃが、二人共、分かっておるとは思うが、――アレは、化け物じゃぞ」


 「えぇ、分かっています」



 魔力を解き放った彼女と対峙するとよく分かる。


 こいつは化け物だ。



 先程までの対抗戦とはまるで比べ物にならない緊張感。


 アザトースから感じる力の波動が並の魔族ではないことを物語っている。


もしかしたら第六天魔の一人と言っていたあのメフィストに匹敵するかもしれない。



「この力どれ程のものか、期待。この場にいる全員を皆殺しにして、実感」


 

 体中の眼球が一斉にこちら向き、嬉しそうに目を細める。



 「――その顔で、その口で、その声で、それ以上、喋るな」



 打ち震えるセレナが静かに声を荒げた刹那、暴風を纏った剣がアザトースの首を切り落としていた。






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