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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー58







 「――イータ!」



 シータの呼び声にイータは一瞬目を合わせ頷くと、それだけですべてを理解したかのように互いに連携し剣を振るう。



 影から現れた無限の刃をシータはいとも簡単に剣で薙ぎ払い対処していく。



 剣と影が幾重にも重なり火花散る中、彼女の剣がクロの影を切り裂き、影の刃は形を失い崩れ去る。



 だが、いくら切り伏せようともそれは所詮実体を持たない影。



 拮抗しているかに見えた影とシータの攻防も徐々にクロが圧倒していく。



 クロの止む事無い波状攻撃に対し、完璧なまでの対応をしているかの様に見えたシータだったが、彼女が剣を振り抜いた刹那、シータは今まで感じていた手ごたえを失っていた。



 クロが放ったその一撃は空虚な本物の影。



 彼女の振り抜いた剣は空を斬り、意表を突かれたシータの動きに綻びが生まれる。



 左右それぞれから際限なく現れる影はどれが実体のある刃なのか、ただの影なのか、一瞬で見極めるのは不可能に近い。



 僅かな揺らぎと乱れ。




 そして遂に――



 クロの刃がシータを捉え、赤い鮮血が空に舞っていた。



 一瞬、顔を歪め苦悶の表情を浮かべたシータだったが、しかしそれでも彼女は動きを止めることなく襲い来る刃を切り伏せていく。


 

 一見するとクロとシータの戦いは未だに拮抗しているようにも見えたが、この時既にクロは彼女を支配しようとしていた。



 シータは同じ轍を踏むまいとクロの影には細心の注意を払っていた。



 影刃だけでなく自分を捉えようと地面の上を蛇の様に動き回り伸びる影を器用に躱していくとイータと付かず離れず、それでいて互いが互いをフォローし見事な連携を見せていく。



 無駄のない可憐なステップで剣を振るい、指先で操る炎で影を払う。


 

 一進一退、互いに繰り広げられる激しい攻防も、気が付けば空高く昇っていた太陽は次第に傾き夕焼けに影が伸びていった。



 何万という観客たち、そして闘技場の高い壁が会場全体を黒い影で覆っていく。



 それはすなわち



 ――影の世界



 間もなく訪れる闇の領域。



 気づいた時にはもう既に彼女に逃げ場はなく、シータは四方八方から襲い来る影にその身を囚われていた。



 

 「――我は大地の眷属にして、万物の源たる地母神の子」



 黄昏の風に乗り少女の歌声が耳に届く。



 蔦が日の光を求め巻き付き伸びる様にシータの身体をクロの影が纏わりついていく。


 シータが慌てて手で影を振り払おうと、地面に蠢く影をいくら切り払おうとも、無限に湧き出る影を取り払う術はない。



 たとえそれが彼女たちの放つ獄炎であっても闇の進行を止める事は出来ない。

 


 「――我望む。行く手を阻む愚か者を元始の地に還さんことを」


 

 水牢でのセレナとロアの死闘、炎を操る双子の魔剣士を前にドワーフの少女は杖を振るい、詩を紡いでいく。



 必死の抵抗も虚しく全身をクロの影に覆われたシータは一切身動きすることが出来なくなり、持っていた剣すら虚しく足元に転がり影に飲み込まれてしまった。



 

 「――我望む。母なる大地の恵みを忘れた罪深きものに罰を与えんことを」

 


 深く目を瞑り、意識を集中させ、フレデリカは地面にトネリコの杖を突き立て高らかに声を上げる。



 「――母なる大地の精霊! 生命の息吹を吹き込まれし、神の下僕よ! わらわの言葉に耳を傾け! そして盟約に従いここに顕現せよ!」 



 少女に集まった膨大な魔素が大地に巨大で緻密な魔方陣を形作っていく。


 魔法の完成と共に淡い光が周囲を照らすと、大地が轟音の唸りを上げ得体のしれない何かが這い生まれ出てきた。 



 影に取り込まれたシータを横目に何とか俺の一撃を凌いだイータだったが、目の前に現れた巨大なゴーレムに焦りの色を隠せずにはいられなかった。







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