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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー45







 クリュスの氷剣を受ける度にラフィテアの動きは鈍り、右、左、右と交互に撃ち込まれる斬撃を何とか切り払い凌ぐが、ラフィテアは追い込まれるようにどんどん後退していく。



 ――いくら左肩にダメージを負ったとはいえ、あの消耗の仕方は普通じゃない。





 致命傷を避けるべくラフィテアも必死にクリュスの攻撃を防いではいるが、このままでは倒されるのは時間の問題かもしれない。


 


 「あやつは何をしておる!」



 窮地に立たされ追い詰められたラフィテアにドワ娘はイライラした様子で握った拳、人差し指第二関節辺りを強く噛んでみせた。



 「このままではまずいかもしれません」



 隣で戦況を見守っていたセレナの顔にも焦りの色が見て取れる。




 「彼女の怪我をした左腕を見てください」


 「左腕?」



 力なくだらりとぶら下がったままの左腕。



 氷剣によって出来た痛々しい傷口からは赤い血が染みだし腕を伝って地面に向かい流れ落ちていく。


 彼女が左肩にダメージを負ったのは確かだが、ラフィテアのあの異常なまでの消耗はそれだけではとても説明がつかない。



 なら他に何か原因があるはず。


 赤く染まった左肩。


 震える腕。


 滴り落ちる赤い血。


 血?



 「“氷結の刃” あれはやはり只の剣ではないようです」



 「――ラフィテアの血が、凍ってる」



 足元を赤く染めているはずの血液は地面に落下することなくラフィテアの指先で赤く凍り付いている。



 「おそらく氷剣が纏う冷気が傷口から流れ出した血液を凍らせた」


 「それじゃ、ラフィテアお姉さまは」


 「えぇ。クリュスの攻撃を受ける度にあの冷気に蝕まれ体力を奪われていったのでしょう」



 体内で温められた血液を一瞬で凍らせるほどの強烈な冷気は例えその身に攻撃を受けずとも容赦なく身体の熱を奪っていく。



 斬撃や殴打に強い風の衣であっても冷気を防ぐことは出来やしない。



 つまりクリュスは初めからこれを狙っていたのだ。



 いくら攻撃を防がれようが躱されようが“氷結の刃”は徐々にそして確実にラフィテアの体力を奪っていく。


 両手に氷剣を持ち手数で攻めたのもラフィテアを防戦一方にさせる為。


 気づいた時には身体は自由を失い、あとはゆっくり獲物を料理していくだけ。



 ラフィテアがクリュスの剣を左肩に受けた時には既にラフィテアは彼女の術中に嵌っていた。



 これが彼らの実力。


 磨かれた技や魔法だけでなく適応力の高さ。


 勝つための最適解を導き出す力。



 肩を上下させ白い息を吐くラフィテアはどうにかクリュスの一撃を防いでみせたが、その右腕すらも青く凍りつき、とうとう長剣を握る事さえ出来なくなってしまっていた。


 地面に転がった長剣を踏みつけ氷剣を振りかざすクリュス・ミーナ。


 クリュスを見るラフィテアの目にはもう僅かな光すら残されてはいない。



 「――これで終わり」



 クリュスの口が終焉を告げる。



 「ラフィテアお姉さまぁぁぁ!」

 

 「ラフィテア!」


 

 ド派手な魔法の攻防から一転、このあっけない幕切れに観客たちは思わず溜息を漏らした。



 それはそうだろう。



 この試合で決着がついてしまえばチーム戦を残してグロスター領の決勝進出が決まってしまうのだ。


 ネージュ・ロアとセレナ・ベータグラムの一戦を期待していた人々にとってこの結末は失望以外に他ならない。

 

 最後まで見届けることなく席を立とうとする大勢の観客たち。


 彼等の口から出るのは罵声、罵倒、諦め声に、そして溜め息。 



この野次と愚痴しか飛び交わぬ混沌の中、一人の少女の馬鹿でかい声が突然会場すべてを支配した。



 「――この、耳長がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 その叫びにも似た少女の声に席を立った人々も何事かと足を止め振り返り、雑音溢れた闘技場はしんと静まり返った。



 「なんじゃ! なんじゃ! その情けない姿は! いっつも、いっつも、偉そうな事ばかり言っておるくせに! あぁ、情けない! 情けないったらありゃしない!


 ドワーフ族をいつも小馬鹿にするお前がわらわは大嫌いじゃ! 本当に本当に大嫌いじゃ! これに懲りたら今度から自分の弱さを恥じてわらわの事をフレデリカ様と敬うがよい! 心の広いこのわらわがおぬしを扱き使ってやる! 聞こえてるか、この耳長エルフが!」  


 

 「フレデリカ、お前!」


 「ラフィテアお姉さまがあんなにも苦しんでいるというのにあなたって人は、信じられませんわ」


 「ふん! わらわの知ったことではない」



 「――こ、これだからドワーフは大嫌いなんです」


 

 意識を刈り取られ今にも倒れる寸前だったラフィテアは、ドワ娘の声に正気を取り戻すとよろめきながらも間一髪のところでクリュスの攻撃を躱していた。



 「お姉さま!」


 「ラフィテア!」


 「……なんじゃ、耳長。てっきりやられたのかと思ったのに相変わらずしぶとい奴じゃの」


 「大きなお世話です。それより、いい加減私の事を“耳長”と呼ぶのは止めていただけませんか」


 「なぜ、わらわがおぬしの願いを聞いてやらねばならぬのじゃ」


 「これは願いではありません。命令です」


 「命令? 耳長、おぬしも随分と面白い冗談を言うようになったの。なぜわらわが弱っちいおぬしの命令を聞かねばならぬのじゃ。わらわに言うことを聞かせられるのはわらわの認めた者だけ。グロスター領相手に苦戦している様ではとてもとても」


 「……よくわかりました。では実力で言うことを聞かせれば良いのですね」


 「それがおぬしに出来れば、の話じゃがな」


 「なるほど。そういう事でしたら私も負けるわけにはいきませんね。それにここで負けるような事があれば後々何を言われるか分かったものではありませんから」



 戦意を取り戻し力強い眼光を宿したラフィテアはすかさず手をかざしクリュスに向かって詠唱を始める。


 “風の刃”―ウィンド・カッター―



 威力は低いが詠唱も短く消費魔素も少ない風属性の攻撃魔法。


 この魔法でクリュスにダメージを与えようなどと彼女は微塵も思っていないだろう。


 きっとこれはまだ戦えるという彼女なりの意思表示。



 身を翻しラフィテアの風魔法を躱したクリュスは素早く氷剣を振り抜くと氷の刃がラフィテアの頬を切り裂き鮮血が飛び散る。



 「――この状況で私に勝つつもり?」


 「はい。でないとあのドワーフに一生馬鹿にされそうですから。そのような屈辱、私には耐えられません」


 「二人は仲が良いのね」


 「あなたにはそう見えるのですか」


 「えぇ、見えるわ」


 「そうですか。それは甚だ心外ですね。その大きな誤解今すぐにでも解いておきたい所ですがそれは決着がついてからにしましょう」


 「あなたに勝ち目はない。それでもやるの?」


 「勿論です」


 「……そう。なら容赦はしない」


 「結構です。そうでなければあなたを倒す意味がありませんから」



 ラフィテアはそう言って顔を歪ませながら剣を拾い上げると再び得物を構えクリュスと対峙してみせた。







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