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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー42




 オスタリカに到着し領地対抗戦が始まって以降、これだけ自由な時間があるのは初めてだ。


 順調とまではいかないまでも俺たちは何とか準決勝の舞台に駒を進めた。



 あと数日で出来ることと言えば、相手の情報分析と対策、それから武器や防具の手入れ、コンディションの調整くらいのものだろう。


 

 酒を禁じられたドワ娘は余程する事が無いのか、日がな一日菓子を食べては日向で惰眠を貪り、セレナはロアとの一戦に向けて頭の中で何度もシミュレーションを繰り返している。


 

 俺とラフィテアは相変わらず事務仕事に追われていたがメリダも書類整理を手伝ってくれ今は幾分余裕がある。


 サビーナからの定期報告書もこれといって問題もなく村長曰く万事順調らしい。


 どうも村長の言葉は信用出来ないのだが、シーナやセドの報告書からも特に問題らしい問題は見当たらない。



 数ヶ月間留守にしているがみんなそれぞれ頑張ってくれているようだ。


 書類に目を通しているとサビーナ村の報告書とは別に分厚めの資料が俺宛に届いていた。



 どうもノジカからのものらしい。



 何かと思ってページを捲るとそこには俺の頼んだ学院の設計図や進捗状況が事細かく記されていた。


 学院の建設もおおむね順調の様で、このまま進めば俺たちが戻る頃には9割がた完成するらしい。


 

 ラフィテアと共に資料に目を通し内部の設備や細かな問題の改善案を書き込み追加の経費にサインすると再びサビーナ村に送り返す。



 ようやくオルメヴィーラに学び舎が完成する。


 これであの辺一帯の子供たちに勉強を教えることが出来るのだ。


 領地の発展を目指す以上、子供たちの教育は絶対に欠かせないからな。



 オルメヴィーラ領、そしてエンティナ領には小さな寺子屋はいくつかあったようだが学校はなく、また王都にある学院に通えるのは貴族か一部の大金持ちの子供たちだけであった。


 食糧事情が安定し、領民も増え、経済がまわり始めた今、次に必要なのは教育。


 クロマ商会の定期輸送を利用し、エンティナ領からも子供を通わせられればあの一帯はこれからますます豊かになっていくに違いない。



 シーナやセド、ヴェル達が笑顔で学院に通える社会を俺が作らないとな。



 どうやら領地対抗戦が終わっても、俺に休む時間はなさそうだ。




 夕食の時間になりティグリスの用意してくれた食事がテーブルを彩り、いつもの面々が今日あった他愛もない話に花を咲かせる。



 だが、少女の姿だけが未だそこにない。



 毎日のようにメリダやオスタリカの医者にヴェルの容態を見てもらっているが、返ってくる答えはいつも変わらず


 

 「――特に異常は見当たりません」



 彼等のその言葉は一時俺を安心させるが、何時まで経っても目を覚まさない少女の姿は俺をどうしようもなく不安にさせた。

 

  

 夢を見ているのか、時折手を伸ばし悪夢にうなされるヴェルの手をそっと握ってやると少女は直ぐに落ち着きを取り戻し安心したように再び寝息をたてる。



 ヴェルには俺と会う以前の記憶がない。



 名前すら憶えていない。



 空から降ってきたというこの少女はドワーフのザックに拾われ、初めに見た者を親だと思う雛の習性のように目の前にいた俺に懐いた。



 無垢な目で俺を見つめパパと呼ぶこの少女を俺は再び戦いの場に送り出すべきなのだろうか。


 それは彼女に限った話ではない。


 俺は俺の身勝手で皆を巻き込んでしまったのだろうか。


 なにが正解だったのか俺にもわからない。



 だが、この領地対抗戦で優勝することが多くの領民たちの幸せになると信じて俺はここにいる。


 そして彼女たちもそんな俺を信じて付いてきてくれたのだ。



 だから俺は覚悟を持たなければならない。


 俺が迷っていては信じて付いてきてくれた彼女たちに申し訳が立たない。



 フレデリカに聞かれたら、何を今更と言われるかもしれない。


 そう、何を今更だ。


 もう後戻りはできない。


 セーブ地点からやり直しは出来ないのだ。


 

 ヴェルが目を覚まし再び剣を握るなら俺は迷う事は止める。



 出来る限り彼女たちを守り戦う。



 決して後悔のないように。



 




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