領地対抗戦ー41
ツールナスタ領との戦いでは思わぬ苦戦を強いられたが、それでもオルメヴィーラ領は前評判を覆し何とか予選トーナメントを一位で通過し、そして同グループ二位は初戦の相手ヴォルテール領という結果になった。
金で集めた連中とは言えツールナスタ領も準決勝に進出できるだけの力を有していたというのに俺たちとの一戦でチームは半壊しそのまま対抗戦を棄権したようだ。
本来の目的を見誤った者の末路。
当然と言えば当然の結末なのだが正直後味は悪い。
それから気になるBグループの結果なのだが、あちらでも大波乱が巻き起こっていた。
Bグループの一位通過は断トツの一番人気であるネージュ・ロア率いるグロスター領――ではなく、ヴァルター公爵のクレモント領が首位通過していたのである。
ネージュ・ロアの実力は疑うべくもないが領地対抗戦はチーム戦により高い勝利ポイントが割り振られている。
個人戦である一戦、二戦目ともにグロスター領が勝利を収めたが最終戦を辛うじてクレモント領が手にした為、僅か1ポイントの差でクレモント領の準決勝一位が決まった。
グロスター領に一位通過してもらいたかった。
これが今の俺の偽らざる本音である。
「――別にどちらが一位通過しようが関係ないじゃろ」
「関係大有りですわ」
「なぜじゃ?」
「フレデリカ、あなたはラック様の話を何も聞いてないのですか」
「失礼な! いつもちゃんと聞いておる。ただ、酒を飲むとちょっとばかり記憶をなくすだけじゃ」
「はぁ、開いた口が塞がらないとは正にこの事ですね」
ラフィテアは額に手を当て首を振りながら大きくため息を付いた。
「準決勝はわたくしたちAグループ一位とBグループの二位、それからAグループの2位とBグループの1位がぶつかりますの」
「……だからなんだというのじゃ?」
「あなた、ここまで言っても分かりませんの?」
「つまり彼等が二位通過になってしまったせいで私たちは準決勝でネージュ・ロア様率いるグロスター領と戦わなければならなくなったのです」
「なんじゃ、そんなことか」
「なんじゃって、あなたロア様の力を知りませんの?」
「ロアの実力? そんなの知らんし知りたいとも思わん。大体、準決勝で当たろうが決勝で当たろうがどちらもさして違いはないじゃろ。そうではないのか?」
「何を言って――」
「いや、ドワ娘の言う通りだ」
俺たちが目指しているのはあくまで領地対抗戦“優勝”
この二文字だけだ。
決勝の舞台に上がることが目的じゃない。
仮にグロスター領が一位通過だったとしてもほぼ間違いなく決勝でぶつかる。
早いか、遅いか。
要はそれだけの差でしかない。
「どうせグロスター領とやり合うのは分かっていたからな。決勝戦が少し前倒しになったと思えば問題ない」
「まぁ、そうとも言えなくもないですけど」
「それに既にもうやる気満々になっておる者も一人おるようじゃしな」
酒を一飲みしたドワ娘の視線の先には一週間後の対戦を既に待ち望む剣聖の姿があった。
「セレナお姉さま」
メリダはロアとの一戦を熱望するセレナの横顔を仰ぎ見ると、それまでの表情とは打って変わって頬を赤くし見惚れている。
「準決勝まですこし時間に余裕がある。相手はグロスター領だ。それぞれ怪我を治し、疲れを取って万全の状態で臨む。いいな?」
「わらわはいつでも準備万端じゃ」
「フレデリカ、お前は対抗戦が終わるまで禁酒だぞ」
「な、何故じゃ! ツールナスタとの決着がついたというのにどうしてわらわにばかりそんな酷い仕打ちをする!」
「二日酔いで準決勝を棄権なんて洒落にならないからな」
「いくらなんでもわらわもそこまで愚かではない!」
「ラフィテア、頼む」
「はい、ラック様」
ラフィテアは指示に従いドワ娘の持っていた酒を取りあげると、部屋に置いてあった酒瓶をスォロ、ルァナと一緒に全て綺麗に片付け始める。
「耳長、何をするのじゃ! わらわのコレクションを返すんじゃ!」
「これはラック様のご命令です」
「うぬぬぬ! 何でもかんでもあやつの言う事を聞きおって! さてはお前! エルフではなくあやつの犬になり下がったのじゃな! そうなんじゃな!」
「何を言っても無駄ですよ。フレデリカ。さぁ、スォロ、ルァナ。これを全て処分してください」
「はーい」
「そんな殺生な!」
一人両膝をつき手を伸ばしながら咽び泣くドワ娘を少しだけ可哀想に思ったが、これも対抗戦優勝の為。
許せ、フレデリカ。
さてドワ娘の茶番劇は放っておくとして――
「セレナ、怪我の具合はどうなんだ?」
「メリダの回復魔法のおかげで傷の方はもう」
セレナの言葉通り捲り上げた腕には目に付く様な傷跡は殆どなくなっている。
「セレナお姉さま、傷口が塞がったと言ってもあれだけの怪我を負ったのです。まだまだ傷は癒えていませんわ」
「メリダ、セレナの傷はどのくらいで完治しそうなんだ?」
「そうですわね。身体を動かさず安静にしていれば、多分一週間程度で治るはずですわ」
準決勝にはギリギリ間に合いそうだな。
「セレナ。一秒でも早く剣を握りたいだろうが、いまは治療が先決だぞ」
「えぇ、分かっています、オルメヴィーラ公。今の状態で勝てる程彼女は甘くない。それは私が一番良くわかっています」
「それならいい」
セレナは震える右腕を強く抑え高ぶる心を落ち着かせる為、深く息を吸い込みゆっくりと吐き出していく。
「メリダ、セレナの事頼んだぞ」
「あなたに言われるまでもありませんわ。わたくしのすべての愛をもってセレナお姉さまの治療にあたらせていただきます」
それはそれで心配なんだが。
何にせよ、これで俺たちも万全の状態で準決勝に臨めそうだ。
いや、まだ一つ。
大きな問題が残っていた。
それは――
未だに目を覚まさない幼き少女。
俺は静かに寝息を立てるヴェルの横に腰を掛けると起こさないよう頭を優しく撫でた。
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