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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー35





 


 見るからに非力なネザー・ナビットにとって、敵の急所を狙うのは常套手段であると言える。


 ヴェルが油断していたわけではない。


 ネザー・ナビットが一枚上手だったのだろう。



 懐に飛び込んだネザー・ナビットの一閃はヴェルの首筋の頸動脈を一ミリの狂いもなく捉えていた。



 俺には分かる。

 

 それは長い年月によって磨かれた正確無比な一殺。




 ヴェルの首から噴き出した赤い血はナビの持つナイフを赤く染め、彼女は満足した様子でゆっくり血を舐め上げていく。


 音もなく崩れ落ちたヴェルを跨ぐように立つと彼女はナイフを握り直しまだかすかに動く心臓にずぶりと突き立てる。


 少女の悲鳴などまるで聞こえていないのか、ナビは心臓を抉るようにナイフを無造作に動かし湧き出る赤い血に笑いが止まらない


 血の狂人。


 得物をふり抜いた刹那、彼女の瞳に映る狂気の色が俺の思考に流れ込んできた。

 

 それがネザー・ナビットの思い描いた結末、いや妄想とでも言うべきか。

 


だが、彼女の一撃が少女に致命傷を負わすことはなかった。



 ネザー・ナビットがこれまで感じたことがないような手応えと鈍い音。


 何がどうなっているのか。


 その一瞬の疑問と状況確認が彼女の思考を鈍らせる。



 不意を突かれたヴェルだったが慌てることなくすぐさま体勢を整え大剣を半回転させると、自分の肩幅よりも広い刀身の側面でネザー・ナビットを力任せに叩きつけた。


 

剣から放たれた猛烈な突風は唸り声をあげ、瞬く間に闘技場を駆け抜けていく。



 咄嗟に飛び退き辛うじて直撃を避けたナビだったが、その強烈な剣圧と風圧は彼女を数十メートルも吹き飛ばしていた。



 たった数十秒の攻防。


 しかし、先程のセレナの一戦に続き、またもや好ゲームを期待させる展開に観客の誰もが彼女たちに釘付けになっていた。



 「おっかしいなぁ。確かに殺ったと思ったんだけど……」



 ナビは手にしたナイフとヴェルを交互に見比べ、しばらく頭をひねっていたが考えるのを放棄したのか再び得物を構えると楽しそうに笑って見せた。



 「いししっ! まぁ、いいか! 分からないならもう一度試せばいいよね」


 「ヴェル、絶対に負けない」


 「いいね。いいよ、おチビちゃん! 殺し合いっていうのはこうでなくちゃね」


 

 互いの視線がぶつかると同時に二人は駆け出し、再びヴェルの大剣がネザー・ナビットを襲う。


 ヴェルの剣は技、速度共に申し分ない。


 あれ程の大剣を振るっているにも関わらず、剣速はかなりのものだ。


 そして一撃の威力。


 あのウロヴォロスの首を叩き切ってしまった斬撃は魔族や魔物にも十分通じるだろう。



 だが、やはりあの鉄塊、いくらヴェルとは言え限界がある。



 巨大な魔物には無類の強さを発揮するが俺やネザー・ナビットのような身軽な相手では分が悪い。


 当たれば一撃必殺。



 だが、当たらなければどうという事はない。


 そして超接近戦において、あの武器はやはり使い勝手が非常に悪い。



 まぁ、相手もそれを承知の上でヴェルに彼女をぶつけてきたのだろう。


 ナビはわざとヴェルとの距離を保ちながら、まるでスリルを味わうかのように少女の攻撃を躱し続けていく。


 一撃、一撃を観察しつつ、隙を見て飛び込む。


 まるで先程の展開を再現しているかのよう状況。


 ヴェルが大剣を振り上げた瞬間、懐に潜り込んだネザー・ナビットはニヤリと笑い、もう一度少女の首に這わせ素早くナイフを振り抜いた。




 「――やっぱり、ダメっぽいね」



 間違いなくナビの刃は少女を捉えていた。


 だが、ヴェルは掠り傷さえ追う事無く、再び平然と剣を振るう。

 

 首、太もも、右腕、左腕、足首、ナビが少女の身体をいくら切り刻もうともヴェルの肌に傷を負わせることは出来ない。



 「ほんと、どうなってるん? おチビちゃんの身体」



 再び距離を取ったネザー・ナビットだったが流石に驚きの表情を隠せない。

 

 彼女が唖然とするのも無理はない。


 この俺でさえ驚いているのだから。


 確かにヴェルの丈夫さは普通じゃないと思っていたが、まさかあの斬撃さえ防いでしまうとは。



 「――ヴェル、あの娘は一体何者なのでしょうか?」



傷の手当てを受けていたセレナは俺の隣に立つと物憂げな様子でヴェルの試合を見つめていた。



 「セレナ、もう大丈夫なのか?」


 「えぇ、問題ありません」


 「大丈夫じゃありません、セレナお姉さま! いくらお姉さまでも安静にしていませんと、すぐに傷口が開いてしまいますわ!」


 「わかっています、メリダ」


 「本当に無理はダメですからね、お姉さま」



 メリダの忠告もあまり耳に入っていないのか、セレナは彼女の頭を優しく撫でるとすぐさま会場へと視線を戻していた。



 「――セレナ、お前はあれを見てもあまり驚かないんだな」


 「えぇ。ヴェルとは毎日のように剣を合わせていましたから。私の斬撃でさえヴェルの肌に傷を負わすことは出来ませんでした」


 「真剣を使って訓練していたのか!?」


 「……模造ではなく真剣を使う事で得られるものも多いのです」


 「そりゃ、そうだけどな」


 「もちろん手加減はしています。ですが、実戦形式に危険はつきもの。それにある程度追い込まなければヴェルの成長に繋がりませんから」

 


 セレナは加減していたというがヴェルを相手に真剣で勝負するなど俺には到底出来そうもない。



 「ヴェルが打撃に強い事は認識していましたが、並みの斬撃でも彼女に傷を負わせることは出来ません」


 「そうなのか」


 「はい。一度本気で彼女を斬りつけた際も私の剣では全く歯が立ちませんでしたから」



  おい、おい、おい!



 「セレナ、それでヴェルの腕を切り飛ばしていたらどうするつもりだったんだよ」


 「もちろん段階を踏んで試したので心配には及びません」


 「段階を、ってな」


 「危険な行為だったことは認めますが、ヴェルの事はもっと知っておくべきだと考えています。彼女自身の為にも、そしてオルメヴィーラの為にも」


 

 ヴェル自身、そしてオルメヴィーラの為にもか。



 ヴェル、お前は本当に何者なんだ?



 「――うーん、困ったね。どうもあたしのナイフじゃおチビちゃんには傷一つ付けられないみたい。折角これで遊ぼうと思ってたのに残念。……仕方ない。アレを使うか」



 ネザー・ナビットは口惜しそうに愛用のナイフをしまうと、ヴェルを牽制しながらゆっくり周囲を歩き始めた。



 「あっという間に終わっちゃうから正直詰まらないんだよね。まぁ、しょうがないか。これもお仕事、お仕事」







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