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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー34







 「いししっ! あたしはネザー。ネザー・ナビット。皆にはナビって呼ばれてるんよ。――おチビちゃんのお名前は?」


 腰の両側に長い杖の様な筆をぶら下げ不用心にもヴェルの間合いに入った少女は満面の笑みを浮かべ彼女の名前を訪ねた。



 「ヴェルの名前はヴェル・オルメヴィーラ」


 「へぇ、おチビちゃん。ヴェルちゃんって言うんだ。ふーん、いい名前ね」


 「パパにつけてもらった大切な名前」


 「そっかぁ、なら大切にしなきゃね。んじゃ、そろそろ始めようか、楽しい殺し合いを」



 ナビはゆったりとした袖から柄のない両刃の短剣を二本取り出すと手の甲で器用にくるくるくるくると回し始めた。



 「どう? 上手でしょう。これ、あたしのお気に入りなんよ。殺した相手の血をいっぱい吸わせてやっとこの色になったんだ。おチビちゃんの血はきっととっても綺麗だから、もっともっと良い色になると思うんよ」


  ナビは嬉しそうにナイフを舌なめずりするとゆっくり歩きながらヴェルへと近づいていく。



 「おチビちゃん、すごく強いんでしょ? 前の試合もその前の試合も凄かったって聞いたんよ。あたし久しぶりに手ごたえのありそうな相手でワクワクしてるんよ。だから、だから、お願い。すぐに死んじゃダメ、だからね!」




 

 「――ラフィテア、知っているなら教えてくれ。さっきの一戦、セレナは一体何をしたんだ」



 セレナが見せた本当の実力。



 苦戦するかと思われた矢先、彼女の剣はヴァルカスを軽く圧倒してしまった。



「ラック様は格闘技術の一つに掌を使って敵の内部から破壊する技があるのをご存じでしょうか?」



 格闘技術?


 中国拳法で言う八卦掌のようなものだろうか。



「あぁ、何となくだが聞いたことはある」


「セレナ様も剣聖とはいえやはり女性。男性には到底力では及びません。まして相手が魔族や魔物となれば殊更」



 並みの相手ならともなく鉄壁を誇る重戦士や先程の獣人族、ダンタリオンの地下迷宮で遭遇したウロヴォロスのような相手では残念ながら彼女の刃は届かない。



「防御の強固な相手に対し磨き上げた己の剣が無力だと言うのなら、それ以外の道を探るしかありません」


「その答えがさっきの技、という訳か」


「はい。あれは風渦撃掌。――剣に超高密度の空気を纏わせ螺旋の力を付与し斬撃と共に放つセレナ様の奥義。強烈な空気の渦は相手に触れた瞬間、螺旋の力が解き放たれ、すべての衝撃は敵の内側へと伝わります」



「つまり装甲の堅いヴァルカスのような相手には特に有効な技なんだな」


「そうです。しかし利点はそれだけはありません。この技は言わば目に見えない風の砲弾。風渦撃掌が白い閃光のセレナ様と組み合わさる事でこの技は決して避けることの出来ない防御不能な攻撃へと変わるのです」



 回避そして防御不能な攻撃か。



 確かに彼女の言う通り、本気を出したセレナを前にヴァルカスは完全に成す術を失っていた。


 しかし、この技は今のセレナには負担が大き過ぎる。


 風渦撃掌はあの高速移動があっての技と言っていい。


 いかに風の砲弾が見えなくとも、彼女の太刀筋で軌道はおおよそ見当がついてしまう。


 これは彼女にとって諸刃の剣。


 出来れば切りたくない最後の切り札といった所か。



 だがヴァルカスとの一戦、彼女は切り札を使わざるおえなかった。


 つまりそれはヴァルカスがそれ程の強敵だったという証。



俺の視線の先にはネザー・ナビットがナイフを手に嬉しそうにはしゃいでいる。



 ――ヴェル、絶対に無茶はするなよ。




 「さて、お手並み拝見、拝見」



 ナビはくるりと回したナイフを逆手に持ち、笑顔のままヴェルへと斬りかかる。


 素早いというより軽快な身のこなしという表現の方が正しいのだろう。


 あっという間に間合いに入ると急所目掛け的確に得物を振るう。


 だが、毎日のようにセレナと訓練を積んできたヴェルにとってナビの攻撃を躱すことなど容易であった。



 彼女は危なげな様子もなくすべて攻撃を躱すと、そのまま後方へ飛び退き持っていた剣を力いっぱいふり抜いてみせた。



 突然、巨大な黒い何かがナビの頭上に落ちてきた。


 少女が携えていたそれが本当に剣と呼べる代物なのか、その瞬間までネザー・ナビットは疑っていたに違いない。


 振り下ろされた巨大な鉄塊は目の前にあるものをすべて破壊していく。


 俺自身、目の前で起こっていることが現実なのか未だに信じられない時がある。


 あの小柄な少女が身の丈の数倍以上もある剣を軽々と扱っている。


 日々の修練の賜物か、その技術、スピード、威力ともに格段の成長を遂げていた。


 剣速こそ俺やセレナ、ラフィテアには到底及ばないが、あの斬撃スピードに剣の重さが加わる事で途轍もない威力を生み出している。


 ヴェルの剣が地面に触れた瞬間、数メートルにわたって地裂が走り、細かい岩石が宙を舞う。



 「すごい、すごいよ、おチビちゃん。その小さな身体のどこにそんな力があるん? 楽しい、すっごく楽しいね。――でもでも、まだまだこれからだよ」



 ナビは振り下ろされた大剣をわざとすれすれのところで躱すとそのままひょいと刃の上に飛び乗りヴェルを真っすぐ見下ろしている。



 「――ヴェル!」



 ナビの刃は俺の声が届くよりもコンマ数秒早かった。



 ナビはヴェルが反応するよりも早く刃の上を駆け抜けると、勢いそのまま彼女の首元目掛けその鋭いナイフをふり抜いていみせた。









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