領地対抗戦ー30
奴等は主催者の立場を利用して対戦の組み合わせを裏で自由にいじることが出来る。
もし、ルゴールドがツールナスタ領の勝利を最優先に考えるのならば、こちらの戦力を分析した上で奴等にとって有利な組み合わせとなる可能性が高い。
ポイントも考慮するとまずチーム戦に剣聖であるセレナが入る可能性はゼロだろう。
そして俺の暗殺と勝利という漁夫の利を得ようと考えれば俺は間違いなくチーム戦になる。
一対一の状況よりも数的有利を作った方が確実だからな。
さて、あと残り3人。
これをどう考えるかだが、チーム戦はかなりの確率で俺とドワ娘、そしてラフィテアの組み合わせになるはずだ。
一戦目、二戦目のどちらかにフレデリカをもってきてポイントを確実に狙うことも考えはしたが、それよりもこちらのチーム戦の戦力ダウンを図った方がツールナスタ領にとっては望ましいだろう。
「本当にこの通りになりますの?」
「あくまで想定さ」
「奴等は組み合わせをいじっている事がこちらにバレているなど微塵も思ってもいないはず」
「十分可能性はあるでしょう」
「……ちょっと待て」
「なんだ、ドワ娘」
「明日の組み合わせを考え作戦会議をするのはいい。――じゃが、なんでわらわがチーム戦に入ると戦力ダウンになるんじゃ!」
「いや、そういうつもりじゃなくてだな――」
「フレデリカ、あなたバラマールでの一戦、まさか忘れたのですか?」
「う、うぐっ、……あ、あれはじゃな!」
「フレデリカ、今回の対抗戦は後衛にとって非常に不利なものとなっています。一対一の個人戦、限られた範囲での戦い。ですが、効果的に魔法を発動させることが出来ればその威力は絶大です」
「そう、そうじゃ!」
「ですから、相手も最初に脅威である後衛を潰そうとするのです」
「うむ、当然じゃな」
「私はフレデリカ、あなたが劣るとは全く考えていません。ただ、本来の力を存分に発揮できないことを相手は知っているのです」
「な、なんて卑劣な奴等なんじゃ!」
いや、作戦としては至極真っ当な事だと思うけどな。
「組み合わせは兎も角、明日の試合、奴等が何をしてくるか分かったもんじゃない。……みんなくれぐれも注意してくれ」
ツールナスタ領とのこの一戦。
奴等にとって一番望むべき結果は試合に勝ち、俺が死ぬこと。
もし、暗殺に失敗したとしても試合にさえ勝てばそれでいい。
ルゴールドはそう考えているはずだ。
例外はあれど、領主はみな領地対抗戦での優勝を望んでいる。
地位、名誉、金、褒美。
つまりルゴールドにとっても俺の死などあくまでおまけなのだ。
俺が死に領主が不在となったとしてもオルメヴィーラ領がどうなるかなどルゴールドの一存では決まるものではない。
あそこを欲しがる領主は他にもいる。
奴なら色々根回しをしているかもしれないが、他の領主の反対があっては強引に推し進めることなど出来ない。
ましてや、ユークリッド王がそれを許しはしないだろう。
準決勝への切符を賭けた大一番。
大方の予想を覆しここまで圧倒的な勝利を収めてきたオルメヴィーラ領の一戦に会場は更なる熱気に包まれていた。
試合直前に引いた対戦カードがスクリーンに表示されると、どよめきと共に観客の声援はますます大きくなっていく。
映し出された対戦表にラフィテアは微笑をこぼし、メリダは些か驚いた様子で見やっている。
「当然じゃな」
ドワ娘とヴェルは二人横に並ぶと腕を組み、何故か自慢げにうんうんと頷いていた。
どうやらここまでは俺の思っていた通りの展開になったようだ。
セレナが戦いの舞台に上がると会場のボルテージは彼女の人気も相まっていきなり最高潮に達したが、そんな熱気を打ち消してしまうほど異様な姿の男が目の前に現れたのである。
身長はセレナの倍ほどもあり、目を見張るのはその大きさよりもその男の体を覆うごつごつとした筋肉。
極限にまで鍛え上げたであろうそれは、明らかに常人のものではなかった。
――だが、観客をざわつかせたのはその男の肉体などではなかった。
男は口先の尖った特異な兜で顔を覆い隠し、全身は足の先から指の先まで灰褐色の毛で覆われ鉤爪を模した武器を腰にぶら下げている。
「なんて大きい獣人族ですの」
メリダも思わず驚きの声を漏らさずにはいられなかった。
もはやそれは獣人族と言うより巨大な狼の獣。
俺の知っている獣人族の誰とも男は違って見えた。
剣聖のセレナを前に牙を剥き出しにし、闘争本能を露わにしたそれは両手両足を地面につけ四足の構えを取ると試合開始の合図と同時に彼女に襲い掛かったのである。
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