領地対抗戦ー26
黒い影が二つ。
街中の明かりを避け暗がりを駆けていく。
襲撃を成功させるには相手の不意を突くことが重要である。
それが敵陣の懐に飛び込んで急襲するならなおの事。
対象者の暗殺に失敗し仲間が駆け付けたとなれば、残された手段はそう多くはない。
その場で全員を皆殺しにするか、一目散に逃げだすか。
余程の事がない限り、後者を選択する場合が殆どだろう。
激しく金属のぶつかり合う音が数合聞こえたかと思うと、ガラスの割れる音ともに何者かが屋敷の外へと飛び出し走り去っていく。
「ご主人様、どうする?」
「頼む、クロ」
「了解」
クロはこの短いやり取りだけですべてを理解すると分身体を影に潜り込ませラフィテアを襲った襲撃犯を追走し始めた。
一方、目の前の黒ずくめの男は短剣を構えこちらを牽制していたが、俺たちと同じくもう一人の刺客が襲撃に失敗したのを察知すると、自身もあっさり目的を放棄し躊躇することなく闇夜にダイブしたのである。
「――ラック様!」
緊張感のある声と共に剣を構え駆けこんできたラフィテアとセレナだったが、この部屋に俺たち以外に誰もいないことを確認するとホッと一息し剣を収めた。
「ラフィテア、セレナ、無事か?」
「はい。クロのおかげで何とか」
シースルーのネグリジェを身に着けていた二人は襟元や裾のあたりがはだけていたものの、どうやら怪我はないようだ。
「これから奴等の後を追う。二人は俺が戻ってくるまでここの警戒を頼む」
「ラック様お一人で追うつもりなのですか?」
「そのつもりだ。もちろんクロにも手伝ってもらうけどな」
「オルメヴィーラ公、相手は二人。私も一緒に――」
「いや、ここをあまり手薄にはしたくない。ドワ娘もこんな状態だ。それにスォロやルァナ達もいる」
「……そうですね。わかりました」
「心配しなくてもそこまで無茶なしないさ。ただ、俺たちに手を出したんだ。それなりの報いは受けてもらうけどな」
「――ご主人様、そろそろ追わないと二人を見失っちゃうよ」
「わかってる」
「二人共よろしく頼んだぞ」
「ラック様、くれぐれも無理をなさらずに」
「あぁ、わかってる」
素早く身支度を済ませクロを肩に乗せると、二人の後を追って一人屋敷を後にする。
あの黒ずくめの装束などきっと早々に処分しているだろうが、クロが奴等の影に潜み追跡している以上、どんな格好をしようがどこに隠れようが俺たちから逃げる術はない。
どうやら二人は一切合流することなく各々別行動をしているようで、一般人に紛れオスタリカの街を徘徊している。
もちろん、それは追手がかかる事を想定しての行動だろう。
すぐさま捕まえ殺ってしまうのは簡単だが出来る限り情報は得たい。
誰が雇い主で、目的は何なのか。
殺るのはその後でも遅くはない。
奴等の警戒網に引っかからないよう遠くから監視をしつつ、二人が警戒を解き巣に戻るまでのんびり待つ。
巣に戻ってしまえば、あとはまとめて害虫を駆除するだけだ。
はてさて、どんな獲物がかかることやら。
例の二人が街を彷徨すること数刻——
東雲の空から軽い風が吹き朝露が草を染める頃、ようやく事態は動き出した。
どこにでもいる様な行商人の格好をした二人は示し合わせたかのように同じ荷馬車に乗り込むとそのままとある屋敷の敷地内へと入っていく。
そこはオスタリカでも貴族や大富豪と言った身分の高い者たちが住まう特別なエリア。
一般人は特別な許可がない限り立ち入ることを許されていない場所。
この門、そしてこの屋敷。
ここは俺たちがオスタリカに来て初めて訪れた場所。
そう、ここは――
この屋敷の主はツールナスタ領を治める領主ツールナスタ・ルゴールド。
ツールナスタの家紋が刻まれた荷馬車から何食わぬ顔で降りてきた男たちは、周囲に注意を払う事無く屋敷に入っていった。
思っていた以上の大物が釣れたな。
――ツールナスタ・ルゴールドか。
とは言え、相手がルゴールドとなるとそう簡単に手出しは出来ない。
乗り込んで問い詰めたところで確たる証拠でもなければ、白を切られかねない。
さて、どうする。
「――ご主人様、中に入らないの?」
「入りたいのは山々だけど、勝手に入るのはまずいんだ」
「そうなの?」
「ここはツールナスタ領主の屋敷だからな。せめて屋敷中の様子さえわかれば……」
「中の様子? それならクロに任せてよ」
クロに?
……そう言えば以前、モレアルで渋滞に捕まった時、クロが商人たちの影に潜み会話を盗み聞き、いや、もとい情報を探ってくれた事があったな。
「クロ、頼めるか?」
「もちろん。このクロにお任せあれ」
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