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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー24


 




 テーブルの右の端から左の端までずらりと陳列された酒、酒、酒。



 高級そうなボトルから年代物の一品、安酒に至るまで、これから商売でも始めるのかと思わせるほどの品揃え。

 

 

 バラマール領との一戦から一言もしゃべらず、ひどくしょげていた様子のドワ娘だったが、屋敷に戻るや否やスォロとルァナに命じて大量の酒を用意すると、片っ端からボトルの栓を開け次から次へと胃の中に大量の酒を流し込んでいったのである。



 「――ラック、おぬしも一杯どうじゃ?」


 「ドワ娘、そんなに飲んだら身体に悪いぞ」


 「ふんっ! 大勢の目の前でドワーフ王国の王女たるわらわが、わらわだけがあんな醜態をさらしたのじゃ。これが飲まずにおられるか! ひっく」


「誰も醜態だなんて思ってないぞ」


「そんな慰めは不要じゃ。……きっと明日の朝にはわらわの情けない姿が描かれたビラが街の至る所に張り出されているに違いないのじゃ!」



「……そんな事をする暇人がいるとは思えませんけど」


「んぁ?! 何じゃと! 何か言ったかの、耳長! ひっく!」



 これは完全に悪酔いしてるな。


 仕方ないとはいえ、ドワ娘も負けたことに少なからずショックを受けているのだろう。



 「しかし、まさか無詠唱魔法をこの目にするなんて思いもしませんでした」


 「わたくしも初めて見ましたわ。あれほどの魔法を詠唱なしに使えるなんて未だに信じられませんわ」




 やはり、魔法を使っている者からすると先の戦いは驚きを禁じ得ないのだろう。


 魔法を詠唱することなく行使する。


 これがどれほど革新的な事か、あの一戦がすべてを物語っていた。




 「昨日、オルメヴィーラ公の元にジョワロフ公が訪ねてきたのは、もしや――」


 「そう、その無詠唱魔法についてさ。ジョワロフ公が言うには無詠唱魔法は研究の域を出ていないらしい」


 「つまり、まだ完成はしていないと?」


 「あぁ。そして無詠唱魔法の研究をするには魔方陣の触媒となる魔鉱石が大量に必要となってくる」


 「なるほど。だからヴェンダーナイトが発掘されたオルメヴィーラ領に接触してきたのですね」


 「そういう事だ」


 「それでラック様は魔鉱石の提供を承諾されたのですか?」

 

 「条件付きでな。この先、あの力は必ず必要になる、だろ?」




 別に俺は自ら戦いを望んでいるわけではない。


 だが望む望まないに関わらず、どうやら俺は魔族と縁があるらしい。


 本当に、やれやれだな。




 「――あぁぁ! おぬし達はさっきからわらわをのけ者にして何を楽しそうに話しておるのじゃ! ひっく!」


 「のけ者になんかしてないぞ」」


 「これだから酔っ払いは嫌ですわ」


 「なんじゃ! なんじゃぁ! 文句がある奴は出てこいっ!」

 

 「フレデリカ、大丈夫?」


 「あぁ、ヴェルは心配しなくていい。あいつの事は気にするな」


 「もっともっとわらわを労われ! もっと慰めるのじゃ! スォロ、ルァナ! もっと酒もってくるのじゃ! ひっく!」


 「おい、ドワ娘、お前、いい加減にしろよ」


 「のぅ、傷心のわらわに慰めのちゅーを! ほれ、この可愛らしい唇にキッスを!」


 「誰がするか!」


 「なんて冷たいんじゃ! ……おぬしがしてくれないと言うなら、わらわ自らキスしに行くだけじゃぁぁぁぁ!」


 「お、おい、止めろ」



 完全に目の座ったドワ娘はおもむろに立ち上がると獲物を捕らえようとゆっくり千鳥足で近づいてくる。



 「待て、逃げるでない。恥ずかしがることは無かろう。おぬしとわらわの中ではないか。ほら、ちゅーじゃ! ほれ、ぶちゅー――っと!」



 「なにがぶちゅーだ! 逃げるに決まってるだろ!」


 「スォロ、ちゅーってなぁに?」


 「なんだろうね、ルァナ?」 


 

 目標を視認し脇目もふらず突進してくるドワ娘。


 絶対に捕まるわけにはいかない。


 いや、あんなフラフラのあいつに俺が捕まるはずはない。



 ――案の定、手を伸ばし俺を捕えようとするドワ娘を避けるのは簡単だった。



  しかし、その、なんだ。



 ドワ娘に捕まらなかったのは良かったのだが、フレデリカは何を勘違いしたのか背後にいたラフィテアに思いきり抱きつくと自分の唇を突き出し、嫌がるラフィテアに接吻を迫っていたのである。



 「な、なにをしてるのですか! は、離しなさい!」


 「ダメじゃ! もう逃がさないのじゃ。そんなに照れなくても良いではないか! みんなに見せつけてやればよいのじゃ」


 「や、止めなさい! ちょ、ちょっと待って! い、いや、止めて! い、嫌ぁぁぁ!」




 本当は俺が止めるべきだったのだろう。




 ラフィテアのつんざく様な悲鳴も虚しく、ラフィテアの唇はド泥酔したワ娘に奪われたのであった。



 



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