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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー22





 「――くっ!」



 足元の異変に気付くと彼女はすぐさま脱出を図ろうと試みるが、広範囲に展開された沼地から逃げ出すのは容易ではない。



 見る見るうちに身体は沈み込み、藻掻けば藻掻くほど体力は奪われていく


 

 とは言え、これで決着がつくほど領地対抗戦も甘くはない。



 一瞬取り乱したかに思えたバラマール領の代表だったが、仲間の声にすぐさま冷静さを取り戻すと落ち着いて魔法を詠唱し始めた。



 戦闘において魔法を扱う者には特に応用力が試される。



 女の行使した移動阻害魔法は水の渦を作り出し、一時的に相手の行動の自由を奪う為のもの。



 しかし、彼女はフレデリカに対してその魔法を行使するのではなく、その魔法をわざと自分自身の足元に発現させたのである。


 自身を包み込むようにして現れた巨大な水の竜巻はあっという間に彼女の自由を奪っていた泥の鎖を全て断ち切ってしまった。


 

 ――あと一歩のところで取り逃してしまった。


 

 俺を含め観客の多くがそう思ったことだろう。



 だが、ドワ娘だけは更にその一歩先を行っていた。

 


 「――甘い、甘いの! わらわがそう易々と逃がすと思っておるのか?」


 

 泥の牢獄から解き放たれその翼は刹那の自由を得たかに思えたが、それは一瞬の儚い夢と消え、彼女は再び深い深い地の底へと連れ戻されたのである。



 ドワ娘の放った魔法はただ地面を深い沼と変えただけではなかった。



 脱出を試みるバラマールの女を逃すまいと、泥から伸びたいくつもの手が次々と彼女の足を掴み無慈悲にも地獄へと叩き落としたのだ。



 フレデリカは初めからこうなる事を予見し、先んじて手を打っていたのである。



 そして空を見上げた女の目に移ったのは正に敗北の二文字であった。



 「――これで終いじゃ」


 

 沼に囚われ、再び脱出を試みようとした女の頭上には無数の小岩が浮かび、今まさに頭上へと降り注ごうとしていた。


 

 ドワ娘は片腕を振り下ろすと、ひとりニヤッと笑ってみせた。






 「――魔鉱石は魔素の塊。魔鉱石に魔法の発動に必要な刻印を描くことで、一つの魔法を鉱石の魔力が尽きるまで永続的に使用することが出来る。それはおぬしも知っておろう?」



 俺は視線を動かすことなく頷いた。



 「確かにその使い方が有用なのも否定はしない。だが、それは魔鉱石が豊富に得ることが出来れば、の話だ。低レベルの魔法ならいざ知らず、中級程度の魔法を一度でも行使すれば大抵の魔鉱石はその力を失う。最上位の魔法に関しては言うまでもない」


 

 確かにジョワロフ公の言う事はもっともだ。


 今は鉱脈からある程度の採掘量は確保出来てはいるが、それがいつまでも続くわけではない。



 「わしが求めているのは魔鉱石を魔法陣の記憶媒体として活用する方法だ」


 「それは今の使い方とどこが違うのですか?」



 「全く違う。今は魔鉱石に魔方陣を刻印し、魔鉱石の持つ魔素を利用することで魔法を発現させておる。しかも、一つの魔鉱石につき刻印できるのは一種類の魔法のみ。わしの目指すものは一つの魔鉱石にいくつもの魔方陣を記憶させ、詠唱なしに魔法を使えるようにするものだ。つまり術者は魔素さえあれば詠唱なしに複数の魔法を使用することが出来るようになる」



 確かにそんな事が可能になれば戦闘に置いて魔法の優位性は格段に上がる。


 ……だが、果たしてそんな事が本当に可能なのだろうか?


 

 「その技術が完成すればどんな魔法も誰もが使える様になるのですか?」


 「……いや、それは難しい。魔素にはそれぞれ色がある。その者が持つ得意属性以外はやはり厳しいだろう」



 その者がもつ得意な属性か。


 全属性の魔法が使えるようになれば勿論言う事はないのだろうが、それでも十分お釣りはくる。



 「――それで、ジョワロフ公はどの程度までその技術を完成させているのですか」

 

 「今現在、一つの魔鉱石に一種類の魔方陣を記憶させ使用することに成功している」


 「もう、そこまで……」


 「いや、完成には程遠いのが現状だ。まだまだ問題は山積している」


 「問題?」



 「そうだ。まず複数の魔法陣を記憶させようとすると互いに干渉し合い効力を失う。……そしてもう一つ、記憶させた魔方陣を使用し魔法を行使すると魔鉱石から魔方陣が消失してしまうのだ。



 ――あの様にな」









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