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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー19








 対抗戦の観戦を終え屋敷に戻る最中、オスタリカの裏手通りに妙な人だかりができていた。



 野次馬のせいで一向に進まぬ道に魔導帆船で様子を窺っていると、どこからともなく聞き覚えのある声が耳に入ってくる。



 「――なんじゃ、口ほどにもない奴等じゃな!」



 嫌な予感を胸に人の波をかき分け騒動の中心に辿り着くと、大立ち回りを演じてみせたのか、地面に倒れ込んだ男たちを前に腕組みをしたドワ娘が手柄顔で一人息巻いていた。



 「ラック様!」



 俺の姿を見つけホッとした様子で駆け寄るラフィテアとヴェル。



 どうやら二人は怪我もなく無事の様だ。



 ……ドワ娘も、まぁあの様子ならきっと大丈夫だろう。




 「ラフィテア、何があったんだ?」


 「つい先ほど、この者たちの襲撃を受けヴェルが返り討ちにしたところです」




 まだ完全に日が陰る前だというのに人目も気にせず堂々と襲撃とはな。



 「こいつらに何か心当たりはあるか?」



 顔を隠し武器を携えた男たちは全部で8人。


 他にも指示役や逃げた者もいるかもしれないが、そこいらの女子供を襲うには人数が多すぎる。



 「……いえ、ただ」


 「ただ?」


 「私たちが屋敷を出てからずっと誰かに後をつけられていた様なのです」



 ラフィテアは俺の問いかけに男たちを見やりながら怪訝な顔つきをしていた。



 「屋敷を出てからずっと?」



 「はい。私も最初は気のせいかとも思っていましたが、御覧の通り」



 つまりこいつらは物取りや人攫いの類ではなく、最初から襲撃が目的だったことになる。



 オルメヴィーラ領主の俺ではなくラフィテアたちを狙った理由はわからないが、やはり偶然ではないようだ。


 

 これを指示したのがどこの誰かは分からないが、田舎者の俺たちを襲って利するのは領地対抗戦絡みの連中だと考えるのが普通だろう。



 「――この者たちを連れ帰り尋問しますか?」



 「いや、どうせ金で雇われたごろつき。大した情報は持ってないさ。それにここは他領地だからな。あまり余計な事はしたくない」



 「そうですね。あとであの厭味ったらしい領主にいちゃもんを付けられても面倒ですし」




 しかし、どうしても気になる事が一つある。



 なぜこの三人が今日俺たちとは別に出掛けることを知っていたんだ?



 ただの偶然か?



 それとも――


 


 「どうかしたの、パパ?」



 「いや、何でもない」



 なんにしてもこの領地対抗戦が終わるまでは、単独行動は控えさせた方がいいかもしれない。


 

 「ラフィテア、ヴェル、向こうに魔導帆船を待たせてある。もう危険はないと思うが念の為俺たちと一緒に帰ろう」


 「分かりました」


 「おい、ドワ娘、もうその辺にしておけよ。今日は帰るぞ」


 「分かっておる!」

 


 気を失った男どもを足蹴にしていたドワ娘は最後に罵詈雑言を並べ立てると、何故か沸き起こった歓声に一人満足した笑みを浮かべ、凶悪犯を返り討ちにしたヒーローのように堂々とした態度で魔導帆船へと乗り込んでいく。



 暫くして騒ぎを聞きつけたのか、駆け付けたツールナスタ領の衛兵たちが集まった群衆を追い払うと襲撃者たちを次々捕らえ馬車へと連行していった。



 しかし、領地対抗戦が開催されているという事もあって警備はかなり厳重なはずだが、その割に衛兵たちの対応が遅い気がする。



 まるですべて仕組まれていたかのように。



 いや、流石にそれは俺の考えすぎか。





 「――ご主人様、お帰りなさいませ」


 「あぁ、ただいま、ティグリス」


 

 魔導帆船の音を聞きつけたティグリスは一人俺たちを出迎えてくれていた。

 


 「あれ、皆様、ご一緒だったのですね。てっきりフレデリカ様たちは帰りが遅いと思っていたのですが」


 「ちょっと色々あってな。折角だから一緒に帰って来たんだ」


 「ちょっと色々?」



 首を傾げるティグリスにやっと静かになったドワ娘は、なぜか再び怒りのスイッチを入れ捲し立て始めた。



 「フレデリカ様たちが、お、襲われた!? それで、け、怪我はなかったのですか?」


 「当たり前じゃ。あんな下郎共にわらわ達が後れを取るはずなかろう」


 「はぁ、それは良かったです。それでその襲撃犯たちはどうなったんですか?」


 「衛兵たちに連行されていったよ」


 「そうですか」


 「なにか気になる事でもあるのか?」


 「え? いえ。何はともあれご主人様たちがご無事でよかった。それにしても領主様たちを襲うなんてそいつら何を考えているんだか」


 「大丈夫だと思うが一応ティグリス達も注意してくれ。あぁいう事があった後だ。ここで一緒に生活している以上、お前たちが狙われる可能性がないわけじゃないからな」


 「分かりました、ご主人様。二人にも十分注意するよう伝えておきます。お気遣いありがとうございます」


 「ところでスォロとルァナはいないのか?」


 「はい。いま買い出しに行ってもらっています。二人に何か御用でしょうか?」


 「いや、そういう訳じゃないんだ」


 「そうですか。ところでご主人様、今日の夕食も昨晩と同じ時間でよろしいですか?」


 「あぁ、それで構わない」


 「よかった。では、これから準備に取り掛かりますので、私はこれで失礼致します」




 俺たちがここに来てまだそれほど日数が経っていないのにも関わらず、彼女達のおかげで以前とは見違えるほど綺麗になっている。


 俺たちが出掛けている間も、一日中ずっと屋敷の手入れをしているのだろう。


 話を終え軽く一礼すると、ティグリスはいそいそと奥の部屋へと戻っていった。





 「――クロ、いるか?」



 オスタリカに来てからずっと影に潜んでいたクロは久しぶりに足元から這い出ると素早く定位置の肩へと駆け上っていく。


 「どうしたの、ご主人様」

 

 「一つ頼みがある。みんなの影に潜んで周囲の警戒にあたってほしいんだ」

 

 「任せておいて、ご主人様。皆の護衛をすればいいんだよね」


 「あぁ、そうだ。日中は兎も角、寝込みを襲われたら、たまったもんじゃないからな」



 相手の目的が分からない以上、注意を払っておくに越したことはないだろう。



 「了解。ところであの三人も護衛した方がいいのかな?」


 「あの三人? あぁ、そうだな。そうしてくれると助かる」


 「わかった」


 「けど、ティグリス達にわざわざお前の正体を見せる必要はない」


 「うん、わかってるよ」



 三人にクロの正体をいちいち説明するのも面倒だしな。



 「それから――」


 「見張っていればいいんだよね」


  

 黒猫は俺の言葉を遮ると勿論分かっていると言わんばかりに頷いてみせた。



 「さすが俺の影だな。よろしく頼んだぞ」


 

 「うん。行ってくるね、ご主人様」



 クロは挨拶とばかりに猫の鳴きまねをすると音もなく地面に降り立ち、分身体をそれぞれの影に潜り込ませていく。


 

 こうしておけばクロと影で繋がっている俺には皆の位置を瞬時に知ることができ、不測の事態にも対応できるだろう。



 明後日にはバラマール領、そしてツールナスタ領との一戦も控えている。


 

 まったく、やれやれだな。









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