領地対抗戦ー15
まだ試合までかなり時間があるというのに既にペディキウィア闘技場は人々で溢れ返っていた。
初戦からヴォルテール領が破れるという大波乱が起こった領地対抗戦。
今大会の優勝候補筆頭である剣聖ネージュ・ロアが率いるグロスター領、その人気ぶりは凄まじく昨日の負けを取り戻そうと躍起になった観客たちが早朝から長蛇の列を成していた。
行列を避け闘技場をぐるっと回り魔導帆船を止めると俺は彼女たちを連れ、裏手にある関係者専用口から闘技場へと足を踏み入れる。
警備兵に案内された特別観覧席は一般客のいる席からは完全に隔離されていて、これから始まる一戦をじっくりと一望できるようになっていた。
一番前の席に腰を降ろしたセレナに続き、朝からやけに上機嫌だったメリダは当然と言わんばかりに彼女に寄り添うように席に着いた。
今日の一戦を観戦しに来たのは俺を含めセレナとメリダの3人。
他のメンバーはと言うと――
「明日? そんなの決まっておるではないか」
「だよな。じゃ、ドワ娘も俺と一緒に対抗戦の観戦でいいよな?」
「はぁ? 何を言っておる。明日は朝から晩まで食って飲んで遊び倒すに決まっておるではないか!」
食って、飲んで、遊んでって……。
「……お前に期待した俺が馬鹿だった」
「何か言ったかの?」
「いや、何でもない」
「折角じゃヴェル、おぬしもわらわと一緒に出掛けるぞ」
「え、あ、えっと、パパ」
張り切るドワ娘に腕を掴まれたヴェルは困惑した様子でどうしたものかと助けを求め視線をこちらに向けている。
「ヴェルも明日はゆっくり休むといい。今日は大活躍だったからな」
「……いいの、パパ?」
「あぁ。こいつが暴走しない様に見張っておいてくれ。頼んだぞ、ヴェル」
「う、うん! ありがとう、パパ」
最近のヴェルは以前のように俺に引っ付いて回るようなことは少なくなった。
セレナとの剣の鍛錬も毎日欠かすことは無く、そしてドワ娘にもよく懐いている。
ヴォルテールの戦士を相手に見事な戦いを見せたヴェルだったが、やはりまだ幼い少女であることに変わりはない。
彼女の力はオルメヴィーラ領にとって欠かせないものになりつつあるが、それでも同年代の友達を作って、勉強をして、沢山遊んで、そんな普通の生活を送ってほしいと今でも思っている。
ヴェル本人がこの先そういうものを望んだとしたら、俺はすぐさま彼女の手から剣を取り上げ二度と持たせるようなことはしないだろう。
「ラフィテア。悪いんだが、明日この二人に付いて行ってくれないか」
この二人を相手にどうこう出来る者などそうはいないと思うが、逆にそれが俺を心配にさせる。
いつもラフィテアに頼ってしまって申し訳ないが、彼女がいればお目付け役としては十分過ぎるだろう。
俺の杞憂など気づくこともなく無邪気にはしゃぐフレデリカにラフィテアは呆れた様子で一人ため息を付いていた。
――そんなこんなで次の日、普段誰よりも惰眠を貪っているドワ娘は朝から早々に身支度を済ませると寝ぼけ眼のヴェルとラフィテアを引き連れ屋敷を出発した。
「昨日は実に見事な戦いぶりだったね」
グロスター領とリヒテンシュタイン領の試合開始の合図まであと数分に迫る中、数名の従者を連れた男は観覧席に姿を現すと俺の隣に腰かけ爽やかな笑顔で話しかけてきた。
見知ったその顔は真っすぐ会場に視線を向けると、他の誰にも目もくれず一人の女性を食い入るように見つめていた。
「君たちの目的も彼女なんだろ?」
ヴァルター公の言う彼女とは勿論、剣聖ネージュ・ロアに他ならない。
彼だけでなくこの会場にいるすべての人々が彼女の戦いぶりを見たいがためにやってきたと言っても過言ではないだろう。
「ラック公。ネージュ・ロアの戦いをその目で見たことは?」
「いや、今日が初めてだ」
「そうか。彼女の戦いを見れば剣聖の名は伊達じゃないと君も思うはずさ」
――剣聖、か。
確かに剣聖の強さはセレナを見てれば十分よくわかる。
「こうして僕も足を運んで来たけれど、正直、彼女に勝てる妙案は見つからない」
「確かクレモント領の次の対戦相手は――」
「あぁ、グロスター領さ。決勝まで当たりたくはなかったけど、こればかりはしょうがない。優勝を目指すなら避けては通れない相手だからね」
ヴァルター公はわざとらしく肩を竦めると手を上げて苦笑いをしてみせた。
この試合どうしてもグロスター領のロアにばかりに目が向けられがちだが、領地対抗戦はあくまでもチーム戦。
例えネージュ・ロアが圧倒的な存在だとしても、それだけでは勝ち進むことは出来ない。
勿論、彼女がいることでアドバンテージになる事は否めないが、それでもチャンスがないわけではない。
ハンス公爵が率いるリヒテンシュタイン領、彼等もまた王国屈指の実力者であり、そして彼らの中に“招かれざる客”が潜んでいる可能も十分にあり得るのだ。
「――そろそろ、時間のようだね」
審判の合図とともに戦いの舞台に上がる両雄。
大歓声と共に対戦カードが場内に映し出されると会場のボルテージも更に一段上がり、俺の鼓動も僅かばかり高鳴っていた。
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