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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー11






 ――領地対抗戦初戦の舞台に立った一人の少女。



 彼女の姿を目の当たりにした観客は酷く落胆し、そして嘲笑した。





 カリオン湖から程ない場所にあるペディキウィア闘技場。



 初代剣闘王の名を冠した歴史あるこの闘技場には入りきれない程の観客が押し寄せ、今から始まる死闘に熱気は最高潮に達しようとしていた。



 そんな興奮高まる熱に冷水を差されたのだから、少女に向けられた罵声や溜め息がどれほど大きなものなのか想像に難くない。



 しかし、そんな有象無象の罵声などまるで気にする様子もなく少女はいつもの様子で俺に手を振ると軽い足取りで戦いの舞台へと駆け上がっていった。



 今回の領地対抗戦には実はもう一つ非常に厄介なルールが存在する。




 「――パパ! ヴェル頑張るね!」



 それは誰がその試合で戦うのかをその場の抽選で決めなければならない、というものであった。



 闘技場壁面に映し出された幼き少女ヴェル・オルメヴィーラと対戦相手である屈強な戦士オクターブ。


 

 魔物相手に鍛え上げられたその肉体を一目見れば彼が一流の戦士であることに疑いはなく、ヴェルとの体格差は数倍以上あるだろう。




 ――子供と大人。




 いや、それ以上に二人の間には圧倒的な差があるよう誰の目にも映っていた。



 戦闘が始まる前から顛末は誰の目にも明らかだったが、オルメヴィーラ領の代表としてこの舞台に立った以上、それがどんなに一方的なものであったとしても彼女に同情する者はいないだろう。



 それは単に彼らが強者求めているだけではなく、この試合に自身の大枚を賭け観戦しているからに他ならなかった。



 この中にどれだけオルメヴィーラに賭けている者がいるのか。



 ヴェルを見て落胆し、罵声を浴びせる大多数の者は握りしめた掛札を見て密かに笑みを浮かべ、大穴狙いのばくち打ちは始まる前から意気消沈していたに違いない。



 闘技場のすべての人々が彼の勝利を確信する中、たった一人、目の前の男だけは額から滴り落ちる汗を拭い緊張した面持ちで少女と対峙していた。



 観客たちが対抗戦の開始を今や今やと待ちかねている中、闘技場の最上階に設置された観覧席に大貴族のお歴々、各地の領主、そしてユークリッド王が姿を見せるとそれまで騒いでいた領民たちは一斉に声を潜めた。



 ユークリッド王は会場全体が見える様一歩前に進み闘技場に集まった人々を見渡し満足そうに頷くと領地対抗戦の開催を高らかに宣言した。



 「――王国の民よ! そして選ばれし強者たちよ! よくぞこの場に集まってくれた。皆も知っての通り、王国は長年魔族の脅威に晒されてきた。今も彼の地で多くの者が命を賭け王国を守っている。この領地対抗戦はそんな閉塞した戦いに終止符を打つ勇気あるものを見出す為のものである!」



 カリオン湖から吹く風に乗ったユークリッド王の声は闘技場にいるすべての人々の元へと伝わり、彼らは一切声を発することなく耳を傾けている。



 「彼らは王国にとって、我々にとって必ずや希望の光となってくれるだろう! 王国の民よ! 今こそ憎き魔族を討ち滅ぼそうではないか! 力なきものが虐げられる時代は終わったのだ!」



 この場にいるすべての人々は王の言葉に頷き、賛同の声が波のように広がり辺りを埋め尽くしていく。



 ユークリッド王は手を上げ歓声を鎮めると、再びゆっくり口を開いた。


 

 「私は必ず魔族との戦いを終わらせる! 王国の勝利への礎となる戦いをしっかりとその目に焼き付けて欲しい」



 言葉と共に剣を掲げると人々は立ち上がりユークリッド王の名前を割れんばかりの拍手と共に叫び続けていた。


 

 こうして希望と欲望を胸に領地対抗戦は始まったのである。






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