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鬼才建築家ノジカ編ー5




「それで、どうやってボクをここから連れ出してくれるのかな? オルメヴィーラの領主様」



ノジカは俺の胸にちょんと指先を立てるとやさしく媚の含んだ声を出してみせた。




 こんな鉄格子の牢屋など俺の盗賊スキルを使えば逃げ出すだけなら容易だ。


 とはいえ、俺の今の立場は仮にもオルメヴィーラ領の領主。


 後々の火種になりそうなことは、出来るだけ避けるべきだろう。




 「どうもこうもないさ。ここはギャンブルの街ゴトー。勝者が絶対のルールなんだろ?

 

 「うん、そうだね」


 「だったら方法は一つだろ。賭けに勝って全部チャラにしてしまえばいい」



 「それ本気で言ってるの?」


 「当たり前だ。本気も本気、大真面目だ。さっさと借金なくして、大手を振ってオルメヴィーラ領に帰るぞ」



 「……本当に大丈夫かな」



 「それで、ノジカが借金をした相手は一体どこの誰なんだ?」



 「あぁ、それね……。


あ、あははははっ、――にゃ♪」



 にゃって、あのな。




 「ノジカ、笑って誤魔化すんじゃない」



 俺は鉄格子の隙間から腕をさっと伸ばしバツの悪そうな顔をしたノジカの首根っこをぎゅっと掴んだ。すると彼女の猫耳はへなへなっと力なく垂れ下がりノジカは怒られ反省した子猫の様に大人しくなった。



 「――はい、ごめんなさい」



 「んで、誰なんだ?」



 「バーデンだよ」



 「……バーデン?」



 「知らないの? ツールナスタ領の領主ルコールドの馬鹿息子バーデン・アンルイーズ」



 「はぁ? なんでまた領主の息子と賭けなんかしたんだ」



 「なんというか、その、……若気の至り?」



 「なんで疑問形なんだよ。怒らないからちゃんと分かるように話してくれ」




 「う、うん、わかったよ。実はボクの親父は病的なまでにギャンブルが好きでさ。ノジカの名前をボクに譲ってからは、ずっとこの街に住み着いていたんだ」



 「そう言えばラフィテアがそんな事言ってたな。ギャンブル依存症の鬼才建築家ノジカって。それにしても仕事を娘に押し付けて、日がな一日ギャンブル三昧とはなんて親だ」



 「まぁ、それに関しては最初から諦めてたから別にいいんだ。けどそれよりどうしても許せないことがあったんだ」



 そう言うとノジカは何を思い出したのか、突然怒ったように顔を赤くし、声を荒げた。



 「――あのバカ親父。事もあろうにノジカの名前をカタにバーデンから借金してたんだ!」



 「そりゃまた酷いな」



 ノジカが怒るのも当然だ。



 建築家として代々受け継がれてきた大切な名前をノジカの父親はギャンブルの為に簡単に売ってしまったんだからな。



 「ボクがゴトーに来たのはその事でバーデンと話をつける為だったんだ」



 「なるほどな。だけど話をつけるっていったって、相手もそう簡単に首を縦に振らないだろ?」



 「うん、だからこの街らしく賭けをしようって提案したんだ。



 ボクが負けたら親父の借金の金貨1万枚、ノジカの名、それから、このボク自身もくれてやる。


その代わり、ボクが勝ったらこの話は全部なかったことしてくれって」



 「おいおいおい、随分無茶な賭けしたな。……こういっちゃなんだが、そこまでする必要があったのか? 親父が勝手にした約束なんか無視しておけばよかったじゃないか」



 「そうはいかないよ。ノジカの名前をこんな事で貶めるわけにはいかないからね」



 ノジカにとってこの名前はそれほど大切なものなのだろう。家名を汚すって事は御先祖様が長い年月をかけて築き上げてきたもの、そしてノジカが建築家として取り組んできた人生をすべてふいにしてしまうようなものなのだろう。




 「――なんて格好いい事言って、結局ボクは賭けに負けちゃったんだけどね」



 ノジカは胡麻化そうと無理して作り笑いを浮かべていたが、その目にはうっすら涙が浮かんでいた。



 「お前、一人で頑張ったんだな」



 ノジカの頭を優しく撫でると、彼女は堪えきれなくなったのか火がついたように声を上げてわんわん泣き出した。




 やれやれ、怒ったり、笑ったり、泣いたり、忙しい奴だ。





 俺はしばらくの間、泣いているノジカに黙って胸を貸した。



 


 

 

 「――もう、落ち着いたか?」



 人目をはばからず思いっきり泣いたおかげか、ノジカはどこか晴れやかな顔をしていた。



 「うん、もう大丈夫」



 「んじゃ、さっさとノジカの大切なものを取り戻しにいくとしますか」



 「ありがとう、ラック。でもさ、勝負っていってもバーデンがわざわざ賭けに乗るとも思えないんだけど」



 「まぁその辺は俺に任せてくれ。一応、手は考えてある」



 「そうなの?」



 「まぁな」




 賭けを成立させるには相手が食いつきそうな好条件をこっちが出せばいい。


 あまりにも敵側に有利だと不審がられるが、その辺はうまく話を誘導してやればいい。






 ……あとは出たとこ勝負だな。


 

 


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