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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー4





 「え? なにも聞いていない? おっかしいな。……オルメヴィーラの領主様で間違いないですよね?」


 「あぁ、そうだけど」


 「ルシウカの奴、何やってるんだよ。全然伝わってないじゃないか。帰ったらまた説教だな」


 「ルシウカ、またティグリスに怒られるちゃうね」


 「そうだね、いっぱい、いっぱい怒られちゃうね」



 獣耳を掻きながらぶつくさ文句を言うティグリスの傍でルァナとスォロの二人は腕組みをしてうん、うんと頷いている。



 「おっほん。失礼しました、オルメヴィーラ領主様。改めまして、あたしの名前は“愛と真心”のクティノア商会所属の専属メイド、ティグリス・フラテスと申します。それでこっちのちっこいのはルァナとスォロ。ほら、二人共、ご主人様にちゃんと挨拶しな!」


 「「はーい!」」


 二人は仲良く手を繋ぎ俺たちの前に並ぶと、ぴんと耳を立てはち切れんばかりの笑顔で自己紹介を始めた。

 


 彼らの名前は姉のルァナ・ルール―と弟のスォロ・ルール―。


 黄金と白銀の毛が混ざり合ったふわふわの獣耳と尻尾を持つ獣人族の双子だ。



 「クティノア商会の専属メイド?」


 「はい、そうですよ。この度領主様の専属メイドとして派遣され、しばらくの間身の回りのお世話をすることになりました。って本当に聞いてませんか?」



 念の為みんなに目配せし確認するがやはり誰一人としてそう言った話は聞いていないようだ。


 ティグリスの問いに首を振ると彼女はため息交じりに肩を落とした。



 「領主様、なにも聞いていないんだって、スォロ」


 「そうなの? ルァナ」


 「――ちょっと二人は黙ってな」


 「ティグリス、怒ってるの?」

 

 「怒ってるの? ティグリス?」

 

 「……黙りな」


 二人してティグリスの顔を覗き込んでいたルァナとスォロは彼女に睨まれると一歩下がり慌てて両手で口を塞いだ。



 「ティグリスがそのクティノア商会のメイドってのは分かったけど、どうしてここに派遣されたんだ?」


 「えーっと、確かこのオスタリカで領地対抗戦が行われるにあたって王国の方から各領主様に専属のメイドを付けるようにとツールナスタに依頼があったとか」



 「王国が?」



 「はい、あたしはそう聞いてます。それでツールナスタ領主様から依頼を受けてうちの商会からメイドが駆り出されたってわけです」


 「なるほど」


 「詳しい事はうちのルシウカっが知ってるはずですから、あとでここに顔を出すよう伝えておきますね」


 「あぁ、頼むよ」


 「しかし、どうして王国はわざわざメイドの派遣を依頼したのでしょう。領主様方ならお抱えの使用人などいくらでもいると思うのですが……」



 「まぁ、確かに。でも折角気を利かして手配してくれたんだ。有難く活用させてもらおうぜ」



 「そうですね。どのみちこの広い屋敷を私たちだけで管理するのは難しいでしょうし」


 「しかし、オスタリカにはメイドを派遣している商会なんてのもあるんだな」


 「こんなにちびっこいのにメイドとして働いておるなんて随分と苦労しておるじゃな」


 「ちびっこ?」


 「ちびっこ?」


 「この子達もクティノア商会のメイドなんだろ?」


 「えぇ。とは言ってもまだまだ見習いのひよっ子ですけどね。クティノス商会と契約してまだ半年足らずですから」


 「契約?」


 「はい。うちにいる子たちはみんな親を亡くして行き場を無くした孤児たちばかり。うちのボスはそんな子供たちを不憫に思ったのかメイド商会なんて変なものを立ち上げて、独り立ち出来るまでこいつらの世話をしているんですよ」


 

 「ティグリスもそうなのか?」


 「え? あぁ、まぁ、そんな所です」



 ティグリスは俯き目を伏せると、自分の足にしがみつく無垢な笑顔の双子の頭を優しく撫でていた。



 





 「――ご主人様、あたしたちは仕事に戻ります。何かありましたら、いつでもお呼びください」


 「あぁ、分かった。……ところでティグリス」


 「何でしょうか、ご主人様」


 「その、なんだ。そのご主人様って呼び方止めてくれないか?」



 “ご主人様”



 それはメイドが主人を呼ぶ際に使われる一般的な敬称である。


 その呼び名に一種の優越感を覚える人もいるのだろうが、どうしても俺はそう呼ばれることに対して違和感を拭えなかった。


 

 しかし――



 「それは出来ません、ご主人様」



 ティグリスは考慮の余地もないのか、俺の提案を即蹴飛ばした。



 「クティノア商会のモットーは“愛と真心”。お仕えする人に敬意をこめて必ず“ご主人様”と呼ぶ。それがクティノア商会の決まりなのです!」


 「「なのです!」」



 ティグリスは胸に手を当て如何に“ご主人様”という敬称が大切なのか数分に渡って熱弁をふるい、両脇にいたルァナとスォロも口をパクパク動かし彼女の立ち姿を真似していた。



 「はぁ、わかったよ。好きに呼んでくれ」



 三人の頑なな眼差しに俺が諦めしぶしぶその敬称に承諾するとルァナとスォロはティグリスの周りを嬉しそうに駆け回っている。


 

 彼らにとってそれがどうしてそれほど重要なのか俺にはさっぱり理解できなかったが、三人がそれで気持ちよく仕事ができるならまぁいいとしよう。



 「では、ご主人様、後程伺います。いくよ、ルァナ、スォロ」


 「「はーい」」



 ルァナとスォロが息の合った声で元気よく返事をすると、ティグリスは二人を引き連れ仕事場へと戻っていった。








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