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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー3






 立て付けの悪くなった扉を押し開けおんぼろ屋敷の中に足を踏み入れると、どういうわけか獣人族の幼い少年と少女が雑巾片手に一生懸命床を磨いていた。

 


 「――もうすぐ領主様がいらっしゃるんだ。二人共しっかり頼んだよ!」


 「「はーい!」」



 二人は屋敷の奥から聞こえてきた声に元気よく返事をすると彼らは再び掃除に取り掛かっていた。



 掃除に夢中になっていたからだろうか。


 二人は俺たちが玄関から入ってきた事にも一切気づかず、広いエントランスを何度も何度も往復し雑巾を滑らせ駆けていく。



 「スォロ! もうすぐ領主様がいらっしゃるんだって!」


 「領主様ってどんな人なんだろうね、ルァナ」


 「きっと、とってもやさしくて頭も良くてかっこいい人だよ」


 「やさしくて頭がよくてカッコいいかぁ、そうだよね! きっとそうだ! だってだって領主様なんだもん。……ところでルァナ」


 「なぁに、スォロ」


 「領主、ってなぁに?」


 「うーんっとね、領主っていうのはね……。そう! 領主っていうのは、すっごく、すっごく――」


 「すっごく、すっごく?」


 「すっごく、すっごく偉い人の事だよ」


 「そうなんだ! やっぱりルァナは物知りだね」


 「えへへ。スォロ、領主様の為に頑張ってきれいにしようね」


 「そうだね、ルァナ。いっぱい、いっぱい褒めてもらおうね」


 「うん! スォロ」



 スォロとルァナは楽しそうに会話しながら互いにエントランスの端から入り口に向かって雑巾がけをしていたが、丁度中央付近で何かにぶつかると彼らは何事かと手を止め不思議そうな顔で見上げた。


 

 立ち止まった足にぶつかりようやく二人が俺たちの存在に気が付くとルァナとスォロは二人揃って首を傾げた。


 

 「あなたはだぁれ? スォロは知ってる?」


 「ううん、ボクも知らないよ。ルァナ」


 「俺はラック。今日からこの屋敷にしばらく世話になることになったんだ、よろしくな」


 「そうなの、スォロ?」


 「わからないよ、ルァナ」



 二人は耳をひょこひょこ動かし、尻尾をぐるぐるさせながら俺と互いを何度も見ながら首を捻っている。



 「今日はここに領主様がいらっしゃるの。だから私たち綺麗にお掃除しなきゃいけないんだ。ね、スォロ」


 「うん、そうなんだ。領主様が来るんだ! 凄いでしょ!」


 「ねぇ、二人は誰かに頼まれてここの掃除をしているですか?」


 「そうだよ。ねぇ、ルァナ」


 「そうだね、スォロ。私たちティグリスと一緒にお掃除をしているの」



 ティグリス?


 先程屋敷の奥から聞こえてきた声の主の名前だろうか。



 「なぁ二人共、そのティグリスって人の所に俺たちを案内してもらえないか?」


 「いいよ! あっ、でもでも、お掃除しないとティグリスに叱られちゃう!」


 「叱られちゃう。ティグリスとっても怒りんぼだもんね」


 「どうする? ルァナ」


 「どうしよう、スォロ」



 まるで合わせ鏡のように首を傾げるとルァナとスォロはどうしたらよいのか分からずその場で途方に暮れている。



 「――二人共、どうしたんだい。早く終わらせないと本当に領主様が来ちまうよ!」



 屋敷の奥から様子を見に戻ってきた女性は床に膝を付いたまま手を止めている二人を見やると速足でこちらに近寄ってきた。



 「ルァナ、スォロ! 何やってるんだい! 早くしないと領主様が来るって何度――――って誰だい、あんたたちは?」


 「あっ、ティグリス!」


 「ティグリスだ!」



 奥から現れた獣人族の女性を見つけると、ルァナとスォロは嬉しそうに駆け寄り彼女の足にぎゅっとしがみついていた。



 「ティグリスにお客さんだよ。ねぇ、スォロ」


 「そうお客さんだよ、ティグリス!」


 「あたしに客だって? そんな酔狂な知り合いに心当たりはないけどね。…………って、もしかして、あんた、まさか、領主様?」


 「あぁ。オルメヴィーラ領の領主ラックだ。よろしく、ティグリス」



 ティグリスは俺の名前を聞いた途端肩をプルプル震わせ足にしがみつくルァナとスォロに思いっきり拳骨をお見舞いすると、二人の首根っこを捕まえ床に額を擦り合わせ土下座していた。



 「し、失礼しました、ご主人様!」


 「痛いよ! ティグリス!」


 「痛い、痛いよ! ティグリス!」


 「ルァナとスォロの馬鹿! なにがあたしに客だ! この方が領主様なんだよ!」


 「この人が領主様?」


 「そうだよ!」


 「領主様だって、スォロ!」


 「そうだね、やっと会えたね、ルァナ」


 「二人共、勝手に頭を上げるな、馬鹿!」



 彼女の手をすり抜けニコニコしながら俺を見つめてくる二人をティグリスは慌ててとっ捕まえると思いっきり頬っぺたを抓り再び深く頭を下げた。




 「ちょ、ちょっと待ってくれ。えっと、色々聞きたいことがあるだが、取り敢えず、君たち何者?」





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