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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー2






 

 「――言われたい放題ではないか! なぜ、何も言わず黙っておった。わらわがその場にいたらそのルゴールドとやらの顔をこう二度と衆目にさらせない程ギッタンギッタンのボッコボコにしてやったというのに!」


 「はぁ。そうなると思ったからあなたを連れて行かなかったのではなくて?」


 「何じゃと!」



 メリダは相変わらずドワ娘と仲が良いようで、彼女に遠慮することなく火に油を注ぎ楽しんでいる。


 実際俺もルゴールドと間で余計な火種を作るべきだとは思っていない。


 経済力、兵力もそして王国との信頼関係、どれをとっても今のオルメヴィーラに勝っているものは何一つとしてない。



 今回の目的はあくまで領地対抗戦で優勝しオルメヴィーラの領主として顔を売る。そしてそれと同時にセレナが将来エンティナ領の領主になるまでの一時的な統治権を俺に認めてもらう。



 この二つだけだ。



 別にツールナスタ領と争いたいわけでは決してない。


 勿論、降りかかる火の粉は払うが自ら近づいて火傷を負うこともない。



 しかし、先程の感じからしてルゴールドが俺に対して良い印象を持っている、なんて事は万に一つもないだろう。


 ゴトーでの一件もあるから当然と言えば当然なのだろうが、まぁそれが分かっただけでも十分収穫はあった。



 表立ってちょっかいは出してこないとは思うが対抗戦で、もしツールナスタとぶつかるようなことがあれば気を付けた方がいいだろう。



 「セレナはルゴールド公爵とどの程度面識があるんだ?」


 「私も王都で開かれる社交界や定例会でたまに顔を合わせる程度。父様が存命の頃はマグレディーで何度か顔を見ることもありましたが」


 

 「そうか」



 つまり、互いに昔から顔は知っているって程度か。



 「みんなわかっていると思うが喧嘩を買うような真似は決してしないこと。それはルゴールドに限らずどの領主に対してもな。特にお前だ、ドワ娘」


 「ふんっ! おぬしはそのルゴールドとやらにコケにされて何とも思わんのか」


 「そんな事ないさ。けど俺が少し我慢すれば大きな問題に発展することは無いんだ。これもオルメヴィーラ領の為だよ」



 だが、もし奴が俺の仲間に手を出すような真似をするなら決して容赦はしない。



 今はただそうならないことを祈るだけだ。




 対抗戦に参加する領主たちは大会期間中ずっとオスタリカで過ごすことになる。



 その為、それぞれの領地ごとにちゃんと屋敷が用意されており、魔導帆船に乗り込んだ俺たちは案内状に記された区画へと向かっていた。



 ユークリッド王国には現在八つの領地が存在する。



 バラマール領、グロスター領、ツールナスタ領、クレモント領、リヒテンシュタイン領、ヴォルテール領、そしてエンティナ領にオルメヴィーラ領だ。



 これらの領地を統治しているのは俺以外すべて貴族たちであり、俺と言う存在は異例中の異例と言えよう。



 そんな異端な領主に割り当てられた屋敷は貴族たちの住まう特別区の塀の外にある古びた建物で、かつて一代で財を成した商人が建てたものらしいのだが今では誰も寄り付かず枯れた蔦が壁面を覆いつくしていた。



 「随分と待遇の良い寝床じゃないか」


 「そうみたいだな」



 どうやらルゴールドの嫌がらせはこんな所から始まっているようだった。




 屋敷を見上げたラフィテアは明らかに不満そうな表情を浮かべている。



 数年間主のいなかった屋敷の庭は自生した草木に占領され玄関へと通じる道が分からない程で建物自体も至る所に欠損が見て取れた。


 人が住まなくなった住居は駄目になるのが早いというが、この分だと屋敷内も相当荒れている事だろう。



 「――同じ王国の領地を統治する者に対してこれはあまりにも失礼ではありませんか」


 「やはり今からやつの屋敷に乗り込むしかないようじゃな。ヴェル討ち入りの準備じゃ」


 「おー!」


 「ドワ娘、お前。さっきの話聞いてたか?」


 「もちろん、聞いておったぞ」


 「あのな」


 「しかし、オルメヴィーラ公。ルゴールド公の挑発に乗らないにしてもこれからの事を考えて先んじて何か手を打つべきでしょう」


 「そうだな」


 「セレナお姉さま、教会にお願いしてどこか別の屋敷を手配してもらう訳にはいきませんか?」


 「えぇ。そうですね」


 「では、わたくしが教会に顔を出して――」


 「ちょっと待ってくれ、メリダ」


 「なんですの?」


 「折角ルゴールドが俺たちの為にここを用意してくれたんだ。それを相手の気持ちも考えず無下にするのはどうかと思ってな」


 「……えっと、あなた正気ですの?」


 「あぁ、もちろん。外観はかなりボロイが建物自体は結構しっかりしてそうだ。これなら雨風は十分凌げる」


 「そ、それはそうかもしれませんけど……」


 「それにこの程度の嫌がらせであたふたしてたら、あいつに負けたようで腹が立つだろ?」


 「勝ったとか負けたとか、そういう問題ではないと思うのですけれど」


 「いや、そう言う問題なんだよ。いまごろ奴は立ち尽くしている俺たちを想像してきっとほくそ笑んでやがる」


 「まぁそうじゃろうな」


 「こんなことで奴の思い通りになるなんて屈辱以外の何物でもない。メリダもあんな器の小さい奴に屈したくはないだろ?」


 「はぁ、これだから男は嫌いなんですわ」


 「この仕返しは対抗戦で優勝して返してやればいいさ」


 「……わかりました。この怒りの矛先は対抗戦当日まで取っておくことにしますの」


 「そうしてくれ」


 「では、今日の私たちの最初の仕事は寝室のベッドの大掃除からですね」


 「パパ、ヴェルお掃除頑張る!」


 「ありがとう、ヴェル。これからしばらく世話になるんだ。こうなったらとことん綺麗にしてやろうじゃないか」


 




 


 


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