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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第九章

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モレアルの聖女と不穏な影ー19




 



 雲に隠れていた月はようやく姿を現し、細長く伸びた男の影が建物の外壁に映り込んでいる。



 短剣を片手に牙を剥いた男は目の前の少女に気を取られていたせいか、自分が既に退路を断たれていることに未だ気付いてはいなかった。


 


 「――クロ、よくやった」


 

 突然背後から発せられた声に男は素早く振り向くがそこに人の姿はなく、自分の影の上を猫がてくてくと歩いている。



 自分の肩を伝い、頭の上に飛び乗る猫の影。



 男は慌ててその不気味な影を手で振り払おうとするが、当然影に触れることなど出来ず男は困惑しているようだった。


 猫の姿をした影は小馬鹿にするように小さく鳴くと、おもむろに男の影から飛び退き路地裏から現れた影へと吸い込まれていった。




 「まったく、食事も終えていないというのにこんな所まで連れて来られていい迷惑じゃ」


 ほろ酔い気分のドワ娘は俺の背後から遅れて登場すると男を指さし一人でぶつくさ文句を言っている。


 「なんだ、てめぇら。衛兵、いや、その犬か? 俺に何の用だ」


  

 「用件ならあなた自身が一番ご存じではなくて?」


 「はっ! 知らねぇな。てめぇらになんか用はねぇ。痛い目見たくなかったらとっとと失せな」


 メリダはうんざりした表情でため息を付くと警戒する男に向かって真正面から近寄っていく。



 「手を貸そうか?」


 「いえ、こんな雑魚、必要ありませんわ」


 「あ!? なんだとてめぇ――」



 にっこり微笑んだメリダは一瞬で男との距離を詰めると、短剣の握られた手を素早く掴み捻るとそのまま男の身体をいとも簡単に投げ飛ばしてしまった。



 「くっぅぅそぉぉぉ!」


 激しく背中を打ちつけ悶絶する男に、メリダは地面に転げ落ちた短剣を拾い上げるとなんの躊躇もなく手の平に刃を突き立てた。

 

 「ぎゃぁっぁあ、くそがぁぁぁ。一体なんだってんだよ! 俺がなにしたってんだよ!」


 泣き叫ぶ男にメリダは酷く冷めた様子でこう言った。


 

 「“ディアヴォロ”あの薬はどこで手に入れたのかしら? 教えて頂けませんか?」


 「し、知らねぇよ、そんな薬は!」


 「あら、知らない。嘘はいけませんわ、嘘は。嘘をつくと天罰が下ると両親に教わりませんでしたの?」


 メリダは短剣の柄を握ると男の絶叫など気にも止めず、時計まわりにゆっくりと回していく。



 「まっ、待ってくれ! わ、わかった! 俺の知っている事なら何でも話す! だ、だからやめてくれ!」


 「あら、やはり知っていましたのね。素直に話してくれていれば痛い思いをしないで済んだのに……。それであの薬はどこで手に入れたんですか?」



 「あ、あれは、パルコマンって呼ばれているお、男から買ったんだよ!」


 「パルコマン?」


 「あ、あぁ、そうだ」


 「その男は一体誰なんです!」


 「し、知らねぇよ」


 メリダがもう一度短剣の柄に手をかけようとすると、男はそれを見て必死の形相で話始めた。


 「ほ、本当だって! 俺も詳しくは知らねぇんだよ!」


 「知っていることを洗いざらい話してください」


 「わ、わかった、わかった。パ、パルコマンは一ヶ月ほど前からモレアルで商売するようになった売人だって聞いてる」


 「あなたたちのお仲間なんですのね?」


 「い、いや。あいつはどっちかっていうと俺たち相手に商売してる売人の元締めみてぇな野郎だ。突然現れては色々な薬を持ち込んで来るんだ」


 「お前はそのパルコマンの居場所を知っているのか?」


 「し、知らねえよ」


 「また痛い目を見たいようですわね」


 「し、信じてくれよ。お、俺は奴とは一回しか会ったことがねぇんだ」


 「それは何時ですか」


 「き、昨日の晩! 実験中の新しい薬があるから売り捌いて欲しいって、そう頼まれたんだ」


 「あなた“ディアヴォロ”はまだ持っているのですか」


 「ね、ねぇよ。俺が頼まれたのは一回分だけさ。う、上手く行ったらこの後追加報酬と次の薬を受け取る予定だったんだよ!」


 「これからパルコマンと会うのか!?」


 「あ、あぁ、そうだ。こ、この辺りで落ち合うはず――」


 

 ――それから男が言葉を口にする事は金輪際なかった。



 「メリダッ!」


 俺が名を叫ぶよりも早く彼女は短剣から手を離すと一瞬で身を翻し、男から距離を取っていた。


 小さな針が額に突き刺さり、男は目から血を流し死んでいた。




 「――ペラペラペラペラとよくもそう簡単に口を割るものです。やはり下っ端の売人など信用出来ませんね」



 「……お前がパルコマンか」 



 いつからそこにいたのか。



 黒い笑顔の仮面を被った男は廃屋の屋根に腰かけると、男の亡骸を見て残念そうに首を横に振っていた。



 「あなたには色々と聞きたいことがありますの。ぜひともご同行いただけないかしら?」


 「同行? この私が? 申しありませんが承諾しかねます。こう見えてこれでも多忙の身。薬の完成の為にもまだまだ実験が足りないのです。ここに来たのはその男を殺す為。あなた方に付き合う時間はないのです」


 「それこそわたくしの知ったことではありませんわ。無理だと言うのなら力尽くでも連れていきますわ」


 「いやはや、我儘なお嬢さんですね」


 「パルコマン、“ディアヴォロ”をあの男に譲ったのはお前だな」


 「えぇ。そうです。それが何か?」



 「お前はあの薬をどこで手に入れた」


 「手に入れた? あれは開発中の試験薬。私自身が作り出したものですよ」


 「やはりあなたが今回の黒幕ですのね」


 「黒幕? 一体何のことでしょうか」


 「あくまで白を切るつもりなんですのね。そちらがその気ならわたくしにも考えがありますわ」



 メリダは修道服を脱ぎ払い壁に足を駆けると、あっという間に屋根へと駆け上がっていく。



 「――やれやれ、あまり面倒ごとには関わりたくないのですが仕方ありませんね」


 

 そう言うとパルコマンは徐に立ち上がり、両手を後ろに組みメリダと対峙した。







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