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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第九章

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モレアルの聖女と不穏な影ー6







 「くれぐれも気を付けて? 街に行くだけなのにまた随分と大袈裟だな」



 「そう、でございますね」



 「マーヤ、何か心配事でもあるのですか?」



 マーヤはセレナを妙な事に巻き込みはしないかと危惧した様子だったが、少し悩んだ挙句こう話を切り出した。



 「――実は最近、このモレアルの街で人が襲われ犠牲になる事件が多発しているようなのです」



 「人が襲われる? 強盗の類かしら?」


 「いえ。どうやらそうではないらしいのです」

 

 「マーヤさん。どういう事かもうちょっと詳しく話してもらえないか?」



 「はい。私も聞いた話なのでどこまで本当の事かは存じませんが、守衛の方の話ですと犯人は何の前触れもなく突然暴れ出し周りにいる人を無差別に襲い始めるらしいのです」



 「無差別にですか。しかし、そこらにいる暴漢程度なら皆で取り囲んでしまえばそこまで大騒ぎになるような事ではないと思いますが」



 「けど、こうしてマーヤさんが心配するくらいだ。ただの暴漢ってわけじゃないんだろ?」



 「はい。大人数人がかりでもその犯人を取り押さえることが出来ず、駆け付けた警備隊ですら十数人の負傷者を出したとか。それでも何とか捕縛し尋問しようとしたらしいのですがこちらの言葉に一切耳を貸す様子もなく、男は一晩中暴れ続けそして息絶えてしまったらしいのです」



 「息絶えた? 犯人はもう亡くなったのですか?」


 「はい」


 「なら何も問題ないじゃないか」



 「――そう言えば先程事件が多発していると、そう言っていましたね」




 マーヤはセレナの言葉を肯定するように首を縦に振った。




 「はい。最初の騒ぎを皮切りに、同じような事件が毎晩のように繰り返し起こっているらしいのです」


 




 空腹の一行を乗せた魔導帆船は保養所を出発すると人気のないモレアルの西地区を通り抜け、リアナ川に架かる橋を越えようとしていた。



 漁師、農業従事者の朝は特に早い。


 日の出前から仕事を始め、日没と同時に一日の作業は終了する。


 その為、日が沈み夜の帳が訪れると街の半分は死んだように眠りにつく。




 一方で、絶えず荷馬車や人の行き交う東地区は夜を忘れたかのように一晩中煌々と灯りがともり、街は昼間以上に活気に満ち溢れていた。



 ひっきりなしにキャラバンが通る大通り沿いにはモレアル名物の屋台が街の端までずらっと立ち並び、小腹を空かせた商人や観光客たちは物珍しい一品に舌鼓を打ちながらお祭りのようなこの雰囲気を楽しんでいた。




 「――そこのお嬢ちゃん。これどうだい! さっき水揚げされたばかりの巻貝を串に刺して特製ダレで仕上げた逸品だ。こいつはちょいと他じゃ食えないぜ」



 一足先に屋台に着いたドワ娘とヴェルはその雰囲気も相まって一軒一軒お店を覗いては両手がいっぱいになるほど食べ物を片っ端から買い漁っていた。



 「何とも美味そうな匂いじゃの。特にこの香ばしい香りが堪らなん。――よしっ、店主! 折角じゃ。これも、これも、これも、全部頂くとするかの」


 「へい、毎度!」


 「ヴェル、おぬしも食べたいものがあったら遠慮するでないぞ」


 「うん、わかった」



 「おいおい、ドワ娘。ほどほどにしておけよ。あんまり夜遅くに沢山食べるとぶくぶく太るぞ」 

 

 「何を言っておる。わらわもヴェルもまだまだ育ちざかり。心配無用じゃ。そこの二人と一緒にするでない」


 「フレデリカ、それはどういう意味でしょうか?」


「さぁ? どういう意味じゃろうな。――おっ! ヴェル、あそこにも沢山人が並んでおるぞ。よし、次はあそこの店に突撃じゃ!」



つい今しがた購入した巻貝の串焼きを頬張ると、ドワ娘は話もそこそこにヴェルの手を取り人混みに消えていってしまった。



「おい! ったくしょうがないな」


「ヴェルも楽しんでいるようですし、偶にはこういうのも悪くはありませんね」


「まっ、そうだな」


「それよりもオルメヴィーラ公。……街の様子気づいていますか?」


「あぁ、もちろん」



 

 俺たちがこの場所に到着した時から、いや、正確には橋を渡り東地区に入ってから明らかに警備兵の数が増えていた。


 こんな夜遅くにも関わらず、私服姿の者を含めれば相当数の兵が駆り出されているに違いない。




 「これだけ厳重な警備体制が敷かれているのを見ると、マーヤのしていた話、少しばかり気になりますね」


 「気にはなるが、わざわざこちらから首を突っ込む必要はないし、一先ず警戒だけはしておこう」


 「えぇ、それが良いでしょう」




 もちろん、降りかかる火の粉は払うがこちとら領地対抗戦に参加しなきゃならない身だ。



 ここはモレアルの警備兵たちに頑張ってもらう事を期待しよう。




 ――それはそうと、



 「セレナ、その手に持っているものは何なんだ?」



 帆船を降りてからここまで一緒に歩いてきたはずなのだが、いつの間にかセレナの右手にはいかにも女子受けしそうな食べ物が握られている。



 「こ、これは新鮮な果実を串に刺し、溶かした甘い蜜を上から掛けたモレアルで一番人気のスイーツ、らしいです」



 「モレアルで一番ね。セレナは甘い物が好きなんだな」



 普段剣聖として凛としているセレナだったが、スイーツ好きとは女の子らしい一面も持ち合わせていて正直何だかホッとした。



 それじゃ俺もなにか買って食べるかな。




 「ラフィテア、ラフィテアも何か――」



 食べたいものがあれば好きに買ってきていいぞ、と言おうとしたのだが、何故かそこにラフィテアの姿はなく俺たち二人だけがその場に取り残されていた。



 ラフィテアの奴、どこに行ったんだ?



セレナは彼女の事など気にする様子もなく手に持ったスイーツに夢中になっていると、ラフィテアは顔をほころばせながら何かを大事そうに手に持ち戻ってきたのである。



 「セ、セレナ様、お待たせしました」



興奮冷めやらぬと言った感じのラフィテアの手にはきつね色に焼いた小麦の生地に甘いクリームと零れ落ちそうなほどの色とりどりのフルーツを挟み巻いたスイーツが二つ、しっかり握られていた。




  

 ……どうやら二人もモレアルの街を十分満喫しているようだ。




 さて、色々と気になる事もあるが、まずは俺も自分の腹を満たすことに専念しよう。



 俺は余計な気を遣わせないよう甘党の二人と一旦別れると、一人気ままに屋台巡りを楽しむことにした。








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また、ブクマ、評価してくださった方へ。

この場を借りて御礼申し上げます(/ω\)


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