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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第九章

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モレアルの聖女と不穏な影ー1





 領地対抗戦が行われるツールナスタ領はユークリッドの北東、エンティナ領の南に隣接し、領主ツールナスタ・ルゴールドが統治している。



 ツールナスタ家は建国当時から国に仕える由緒ある大貴族の一つであり、今も領地名と同じ名を冠していることから王国の信頼の高さが窺える。



また大陸一の水源カリオン湖を有するツールナスタ領は代々その維持管理を任されており、ユークリッドで使用される大部分の水はここから供給されているらしい。



ツールナスタにはあのギャンブルの街ゴトーの他に、今回の対抗戦が行われる大都市オスタリカ、そして長閑な田園風景が広がる農業街モレアルがある。


 

 ダンタリオン地下迷宮を後にした俺たちは鼠族のラトゥに別れを告げると、オルメヴィーラ領に戻ることなくそのままオスタリカ目指し魔導帆船を走らせていた。



 エンティナ領を抜けゴトーの街を通り過ぎると、大ルアジュカ山脈から流れる川に沿って街道が続いており、この道はモレアル、オスタリカと繋がっている。





 「ラック様、オルメヴィーラにお戻りにならなくてもよろしかったのですか?」




 甲板に上がってきたラフィテアは強い風に髪を抑えながら、遠く離れていく領地を心配している様であった。


 対抗戦の開催日時を考えれば、戻る時間もないわけではなかった。



 けど――



 「戻りたいのはやまやまだけど情報収集や事前準備、連携の確認、それに領主への挨拶周りやなんやら色々あるからな」



 「そうですね」



 「一応、クロマ商会にお願いして定期連絡は欠かしていないけど、みんなには大分負担を掛けているだろうから今回の件が落ち着いたら何か考えないとな」




 オルメヴィーラの領主だというのに自分の領土を離れ、エンティナ領の為に奔走しているなんて、他の領主が聞いたら鼻で笑われそうだ。



 しかし、隣接するエンティナ領が不安定なままでは決してオルメヴィーラ領に良い影響はない。


 シエルとの約束もあるが、セレナそして領民たちの為、今後のエンティナ領との関係を考えても対抗戦で優勝を勝ち取る必要がある。



 俺は両の掌に刻まれた魔法陣を力強く握りしめていた。






 ――ダンタリオン地下迷宮50階層



 死闘の末、ウロヴォロスの討伐に成功した俺たちは地上に戻らずにしばらくこの階層に留まり湧き出る魔物たち相手に戦いを続けていた。



 「今日でここともおさらばだな」

 

 「やっと、やっとこの地獄から抜け出せるかと思うと、わらわは、わらわは、うっ、うっ、うっ」


 「おい、おい、大袈裟だな。泣くほどか?」


 「大袈裟なものか! わらわがどれだけ辛い思いをしたと思っておる! わらわは二度と来ぬからな!」


 「ラック様、このうるさいドワーフの娘、ここに置いていくわけにはいきませんか?」


 「な、何じゃと! 今なんと言った! 置いて行かれるのは耳長、お前の方じゃ!」


 「ったく最後の最後でお前たちは」



ウロヴォロスという想定外の難敵抜きにしても、約二ヶ月間にも及ぶ長期間の特訓は彼女たちにとって決して楽なものではなかっただろう。




だが、おかげで俺たちは以前に比べ格段に強くなった。




ここに来た当初、ヴェルはその巨大な剣をただ力任せに振るっているだけだったが、

その頑丈さと大きさを活かし盾として使用し、自分の武器の特性を理解し互いに連携が取れるようになっていた。




 ラフィテアは元々剣と魔法両方に優れていたが、実戦経験を積むことで戦闘技術だけでなく状況判断能力が格段に向上している。


 現状を把握し魔法でのサポート、剣による援護攻撃など、戦闘における彼女の重要度はより一層増したと言えよう。



 

 セレナに関しては俺がどうこういう事は何もない。


 彼女の戦いにおけるセンスはいつも驚かされるばかりだし、多分だが、彼女はまだ本気を出してはいない。



 

ドワ娘ことフレデリカだが、そうだな……、こいつは以前に比べかなり体力がついた。



 もともと接近戦を得意とするタイプではないのだが、セレナとの地獄の特訓の甲斐もあって敵と対峙してしまった時の対応力は多少なりとも身につけたと思う。


そしてなんといってもドワ娘の特筆すべきところは彼女の扱う魔法と言っていいだろう。


ドワ娘曰く、土魔法は攻撃に向いていないと言うがそれでも何度俺たちの窮地を救ってくれたことか。


あのラフィテアでさえ彼女の実力を認めている。





 そして肝心の俺はというと――





 連日の戦闘で疲れ果て皆が泥のように眠っている間、見張り役の俺はたった一人焚火の前に腰を降ろし考えに耽っていた。



 奴らの言葉が何故か今も頭を離れない。



(刻は近づいている)


(この千載一遇ノ好機。ここで失う訳にはいかない)


(長かったわ、そう、やっとなのね)


(コイツは奴とオレ達を繋ぐ因果ノ糸かもしれん)


(キサマの身を守る特別な力ヲ分け与えてやる)


(キサマに死なれては困る、それだけだ)




あれは何だったのか。


本当に俺の身に起こったことなのか。


全てが分からない。



だが、目の前にこうして確固たる証拠が存在する。


アレは現実に俺が体験したことだ、と。



この手に刻まれた魔法陣が奴の言う特別な力なのか?




 何のためにそんなものを俺にくれたのかは知らないが、これがどんなものなのか確かめておく必要はあるだろう。



 右手と左手にそれぞれ一つずつ。



 灯にあて魔法陣を近くで観察すると描かれている紋様が右と左では異なっていることに気づいた。


 描かれてるものが違うという事はそれぞれ違う魔法が発動すると考えた方が自然だろう。



 「……見ず知らずの俺に魔法を二つもプレゼントしてくれるなんて随分と気前がいいじゃないか」



 何が起こるかわからないという不安からか俺は思わず独り言をつぶやいていた。




 まずは、そうだな。


 右手から試してみるか。



 俺は意を決し立ち上がると暗闇の広がる空間へと右手を突き出し左手で右手首を添え、目を瞑り意識を集中し始めた。

 


 これは魔鉱石に描かれた魔法陣と同じ。


 俺の手に刻まれた魔法陣に俺の魔素を注ぎ込んでやればいい。


 この魔法陣が魔力で満たされれば魔法は発動する。



 身体の中を血液が循環するように頭を通り、心臓を抜け、つま先を巡り、そして掌へと魔素が流れていく。



 ――時間にして数十秒は経過していただろうか。


 

  中心から弧を描くように魔法陣全体へと広がった魔力は最後の紋様まで伝わると淡い光を放ちようやく魔法は完成した。






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また、ブクマ、評価してくださった方へ。

この場を借りて御礼申し上げます(/ω\)


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