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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第八章

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ダンタリオン地下迷宮ー25

 




 (ねぇ、あなたはだぁれ?)




 そこはどこにも通じる道のないだだっ広い空間。


 人工物で構築されたその場所はさっきまで歩いていた洞窟とは明らかに異質な存在であった。



 

 (キサマは、ナニモノだ)




 不意に現れたその不自然な空間にはどいう訳か天井から地面に突き刺さるように七つの巨大な柱だけが等間隔に存在していた。




 (なぜ人が生きてここにある)




 先程から脂汗が止めどなく湧き出で片手で腕を強く抑えても震えが一向に止まらない。




 (ねぇ、久しぶりの人間よ。もう何千年ぶりかしら。あぁ、新鮮なうちに内臓を取り出して貪りつきたいわ)



 

 そこには俺以外、誰一人として存在していない。


 魔物はおろか生物としてこの場に立っているのは間違いなく俺ただ一人。




 (うるさい、うるさい。あぁ、うるせぇ! てめぇのその不快な鼓動のせいで目が覚めちまった)



 

 何がどうなっている。


 幾度周囲を確認しても、何もない、誰もいない、何も存在しない。


 気配すら感じられない。




 (殺す、殺す、殺す、殺す! そう、まずは殺すんだ! 絶対に許さないよ。ねぇ、君もそう思うだろ?)




 幻聴なのか。


 いや、そうじゃない。


 この場所に足を踏み入れた途端、どこからともなく頭の中に声が流れ込んできた。



 しかも、それは一人じゃない。




 (お兄ちゃん、お兄ちゃんはどうしてここにいるの?)

 



 「誰だ! 誰かいるのか! 俺に一体何の用だっ!」



 俺の意思とは無関係に止めどなく流れ込んでくる幻聴に、恐怖のあまり声をあげるがそれは虚しく反響し、無機質な空間に木霊するだけであった。




 (怯えているのね。可哀想に。でも、無理もないわ)




 怯えている?


 俺が?


 いや、そうかもしれない。



 まるで人の身では決して抗う事の出来ない何かに身をさらし、どうして自分が恐怖しているのか理解できていない無知人のようだ。。




 ――現にすぐこの場を立ち去れと本能は告げている。




 (キサマはナゼここにいる)




 だが、震える足はまるで石化してしまったかのようにピクリとも動かない。




 (もしかして、わたしたちを殺しに来たのかしら?)




 俺の頭の中に直接語り掛けてくるこいつらは一体なんなんだ。



 駄目だ。


 恐怖でうまく思考が回らない。




 (それはなかなか面白い冗談だ。家畜風情がオレたちを? それはいい。実に面白いじゃねぇか)




 なんだ、なにを言っているんだ、こいつらは?


 俺が誰を殺すって?




 (もう一度問オウ。キサマはナニモノだ)




 ゆっくりと眼球を動かし再度辺りを確認するが、やはりそこには何も存在しない。



 俺は破裂しそうな程脈打つ心臓を落ち着けるよう静かに呼吸を繰り返すと、乾ききった唇と舐め暗闇に向かって再び口を開いた。




「俺はオルメヴィーラ領主。ラック・オルメヴィーラ。お前たちこそ何者だ。この俺に何の用だ」




 震える声が巨大な柱の間を通り抜け再び自分の元へ帰ってくると、何故か今度は謎の声の主たちから反応があった。




 (オルメヴィーラ領?)



 (どこにあるのかしら? わたし、聞いた事とないわ)



 (家畜の住む地の名なんて興味ねぇな。それに覚えた所ですぐに消えてなくなるんだ。覚えるだけ無意味さ)



 (人間の領主がどうしてこんな所にいるんだろ? 不思議、不思議、不思議だね)



 (キサマはナゼここにキタ)



 (きっとわたしへの貢物ね)



 (うるせぇからとっとと殺しちまおうぜ)




 どうやら一方通行ではなくこちらの声も届くようだが、俺の質問に答える様子はなく、ただ幾つもの声が頭の中を好き勝手に乱れ飛んでいた。




 (殺すの? 殺すの? いいなぁ、楽しそう! 殺そう、殺そう! ゆっくり時間をかけて楽しもうよ!)



 (しかし、いかにこいつを殺す。いまの我らでは赤子の手も捻れまい。……これもすべて彼の者のせいだ)



 (そうだ、そうだよ! あいつだけは許せない! 殺す、殺す、殺す。ボクは絶対あいつを殺すんだ。絶対最初に殺すんだ。人となんて後でいくらでも遊べるじゃん)




 こいつらさっきから何の話をしているんだ。




 (人の子。キサマからは微かにダガ、奴の匂いがスル)



 (本当に、本当? お兄ちゃん、あいつのお友達なの?)


    

 (なら、今すぐ殺るしかねぇ! 道理で鼻が曲がるほどくせぇわけだ!)





 「ちょっと待ってくれ! あいつ? お前たちは一体誰の事を言っているんだ!」




 (――決マッテイル。オレたちをココに捕らえた者の事ダ)




 捕らえた者?


 こいつらをここに……?


 駄目だ。


 訳が分からない。



 だが、初めてこちらの問いに対する答えがちゃんと返ってきた。



 捕らえられた。


 つまりこいつらがこの場所に封じられているのか?


 それがどのような存在か今の俺には知ることは出来ないが、それは決してこの世界に解き放たれてはいけない凶悪な存在。



 何故だか、それだけは理解できる。


 




 (キサマ、このセカイのモノではあるまい)




 「ど、どうしてそれを!」


 


 (フッ、やはりソウカ)



 (そう、あなた、そうだったの。やっぱりあいつの手先だったのね。あぁ、残念、残念だわ。とても、とーっても美味しそうだったのに)



 (なら殺すしかないよね。だってボクたちの敵だよ。ボクは最初からそう思っていたんだ。こいつは殺した方が良いって!)



  (そうだね。殺そう! 殺そう! わたしが一番! 楽しい事はわたしが一番! いいよね? いいよね?)



 (キサマはオレ達にわざわざ凶報、いや吉報を届けに来てくれたノカ)



 「吉報だと?」




 (刻は近づいている)



 (ソウダ。この千載一遇ノ好機。ここで失う訳にはいかない)



 (長かったわ、そう、やっとなのね。私、解放されたら世界のすべてを喰らいつくしちゃいたいほど、お腹が減ってしまったわ)



 (楽しみだね。いまからどう遊んであげようかちゃんと考えないと)



 (ダメだよ。殺すのはボクが最初なんだ。それだけは絶対譲れない)




 吉報? 千載一遇?



 こいつらは自身をここに封じた奴に復讐を果たそうとしているのか。



 もしこの邪悪な存在が世界に解き放たれてしまえば、地上がどんなことになってしまうのか考えただけでも震えがくる。



 もしかしたら、ダンタリオン地下迷宮はこいつらを封印する為に作られた牢獄なのかもしれない。




 (ねぇ、この坊や、どうするつもりなの?)



 (やっぱり、殺す? 殺しちゃう?)



 (……イヤ。コイツは奴とオレ達を繋ぐ因果ノ糸かもしれん)



 (じゃ、どうするつもりだよ)



 (道シルベになってモラウ。――人の子ヨ。キサマ、オルメヴィーラ領主とか言ったな)




 「……あぁ、そうだ」




 (キサマ、ココから生きて出たくはないか?)


 

 「どういう意味だ」



 (言葉通りノ意味ダ)




 「そんなの当たり前だろ」



 (なら話は早い。オレが特別にキサマをここから地上に連れ出してヤロウ)



 「どうしてそんな提案をしてくる。……それは何かの取引なのか?」



 (取引? そんなモノではない。キサマに手を貸すことがオレ達にとって益になると判断したダケだ)




 こいつらにとって利益になる?


 生還することがこいつらに何の関係があるんだ。




 (何ヲ悩んでいる。ここカラ出たいのではないのか?)



 「もちろんそうだ」



 (なら、悩ム必要などない。……なぜなら、ここから地上に生還する術は他にないのだから)


 


 他に脱出する方法がないだと?




 (ここは何処にも通じていない閉鎖された異空間。本来であれば奴以外訪れることが出来ない隔離された世界)



 「隔離された世界? 何を馬鹿な。俺は洞窟を伝って向こうから歩いてきたんだ」



 (そんなモノは存在しない)



 「何を言って――」



 

 あの落下地点からここまで確かに一本道を歩いてきた。


 抜け道や分かれ道などなかった。


 迷うはずなどない。


 俺は確かにそこの洞窟を通ってきたんだ。



 しかし、振り返るとそこにはあのマグマの海へと通じる道など存在していなかった。


 

 目を凝らし幾度も確かめるが、初めからそこには何もなかったように無機質な壁が世界のすべてを覆っていた。




 (キサマはここで野垂れ死ヌか、地上に戻ルか。選択は簡単だ。――さぁ、どうする)



 

 うまい話には裏がある。


 それはわかっている。


 だが、俺が生きてここを出る為には、こいつの言葉に乗らざるおえないようだ。


 

 

 「……わかった。地上に戻る為に手を貸してくれ」


 

 (賢明ナ判断だ。生に執着するコトは悪ではない)


 


 「最後にもう一度聞かせてくれ。お前たちは何者なんだ」



 (キサマが知る必要はない。さぁ、無駄話ハもう終わりだ。約束通り貴様を地上におくってやろう)



 「ちょ、ちょっと待ってくれ。地上じゃなく出来るなら俺の仲間がいる50階層にしてくれ」



(50階層? このオレに注文を付けるとは人ノ身で図々しい奴だ。……しかし、まぁ、いいだろう。今は気分がいい。特別に貴様ノ言を聞いてやろう)



 「助かる」



 (ねぇ、ねぇ、もう行っちゃうの? お兄ちゃんにアレ、あげなくていいの?)



 (――そうだ。キサマにもう一つやるモノがある)




 「やるもの?」



 (キサマの身を守るトクベツな力ヲ分け与えてやろう)



 「力を? どうしてそんなものを」



 (キサマに死なれては困る、それだけだ。さぁ、元の世界に送ってやろう)



 俺に死なれては困る?



 「それはどういう――」


 

 (ばいばい、お兄ちゃん、また会おうね)



 「ちょっと待っ――」

 


 少女の声が俺の言葉を遮ると突然世界は暗転し俺は不意に意識を失ってしまった。











この作品を少しでも「面白い」「続きが気になる」と思って頂けたら下にある評価、ブックマークへの登録よろしくお願いします('ω')ノ


また、ブクマ、評価してくださった方へ。

この場を借りて御礼申し上げます(/ω\)


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