ダンタリオン地下迷宮ー8
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――」
本日の特訓を終えたドワ娘は肩で息をし無言のまま俺の隣に立つと、膝から崩れ落ちうつ伏せの状態で倒れ込んだ。
寸刻ピクリともせず身体を休ませていたドワ娘だったが、突然仰向けになると恨めしい眼でボソッと呟いた。
「……帰る」
「ん? 何か言ったか?」
「――帰る、帰る、帰るっ、帰るっっ! あぁぁぁっ! もう、わらわは嫌じゃぁぁぁぁ!」
「な、なんだよ、急に!」
「帰るったら帰るのじゃ! なんだよ、ではないのじゃ!」
今まで文句を言いつつも地獄のような特訓に参加していたドワ娘だったがあまりの扱きにとうとう耐え切れなくなったのか、おもちゃをねだる子供の様に地面に寝そべったまま手足をバタバタさせ始めた
「なぜ、わらわばかりこう毎日、毎日、毎日、毎日、野ネズミの様に走らねばならんのじゃ!」
「そりゃしょうがないだろ。お前、ドワーフのくせに体力がないんだから」
「それはドワーフに対する偏見じゃ! ドワーフ族でも力が弱く、持久力のない者もおる!」
「いや、まぁ、そうなんだろうけど、きっとセレナもお前の事を考えてメニューを組んでるはずだ。もう少し頑張ってみろよ」
「嫌じゃ。あの脳筋女は絶対に何も考えておらん。……いや、もしかしたらあの女、わらわのこの美貌に嫉妬して、それでこんな無茶な事ばかりさせておるのかもしれんぞ」
「そんなバカな」
「いや、そうじゃ。そうに決まっておる! あの女、今にみておれよ。今度あやつが寝ている隙に――」
「ドワ娘、ドワ娘さん」
「ひっ、ひっ、ひっ、今から夜が楽しみじゃ」
「おい! ドワ娘」
「なんじゃ、うるさいの。今から今晩の計画を――」
「今晩の計画? なにやら楽しそうなお話をなさっていますね」
気付かぬ間に俺の背後に立っていたセレナと目が合ったドワ娘は、先ほどまでの威勢はどこへやら、口を大きく開けたまま固まっていた。
「ど、どこから聞いておったのかの?」
「どこから? 私は今しがた来たばかりです」
「そ、そうか。あはははぁ、そうか、そうか」
「そうですよ。……ところでフレデリカ。脳筋女とは一体誰の事でしょうか?」
「の、脳筋? え!? あっ、えっ、だ、誰の事じゃろうな。酷い事を言う輩もおったもんじゃな。あはっ、あはははははっ」
どうやら最初から聞かれていたらしい。
笑って誤魔化そうとするドワ娘を見下ろしながらセレナはただただ黙ってニコッと微笑んでいた。
居たたまれない状況にこっそり抜け出そうか本気で考えていると、神の救いの声がこの状況を打開してくれた。
「セレナ、剣の稽古まだ?」
「ヴェル、いま行きます」
ヴェルもフレデリカと一緒に一日中駆け回っていたはずなのだが、どこにそんな体力があるのか、彼女は休む間も無く剣を取り出すと一人黙々振るっていた。
こちらの方が心配になるのだが、本人も無理している様子は一切なく、今では楽しそうにあの馬鹿でかい剣を振り回している。
「まだ、続けるのか?」
「えぇ、あともう少しだけ」
「あまり無理させないように頼むよ」
「わかっています」
「そうじゃ、そうじゃ。無理は良くないぞ」
「フレデリカ、随分と元気そうですね。人の悪口も言えるようですし、これから一緒にどうですか?」
「そうだよ、一緒に行ってくればいいじゃないか」
「おぬし達は人でなしか!」
「ふふっ、冗談です。あなたはゆっくり休んでください。それと体力作りも今日で最後にしましょう」
「ほ、本当か! あの悪夢のような毎日からようやく解放されるのじゃ」
「明日は一日開けておきますから、しっかり身体を休めてください」
「セレナ、おぬし本当は良い奴じゃな」
さっきまであれだけ言っておいて変わり身の早い奴だ。
いや、フレデリカの扱い方が旨いだけか。
セレナの奴やるな。これぞ飴と鞭。
「オルメヴィーラ公」
「なんだ?」
「この一週間で彼女の身体にもかなり疲労が蓄積されているはずですから、休む前にマッサージをしてあげてください」
「え、マッサージ!? お、俺がするのか?」
「えぇ。ちゃんと疲れを取らないと怪我の原因になりかねませんから、必ずお願いします」
「お、おう。わかったよ」
「フレデリカも嫌がらずちゃんとマッサージを受けてくださいね」
「よ、良いのか? そんなご褒、いやそうじゃな。身体のメンテナンスは重要じゃからな」
「えぇ、ではヴェルも待ちくたびれていますから、私は行きますね」
「気を付けるのじゃぞ。しばらく帰ってこないでよいからの!」
先程までの死にそうな顔はどこへやら。
ドワ娘はセレナがいなくなったのを確認するとさっと起き上がり満面の笑顔で俺の顔を見つめていた。
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