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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第八章

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ダンタリオン地下迷宮ー7







 「黒き闇、漆黒の粒子となってすべてを包め、“黒靄―ダークヘイズ―”」



 ゆっくり目を開けるとそこには拳ほどの小さな黒い靄のようなものが一つ、ふわふわと手の上に浮かんでいた。



 闇属性の魔法にして俺がいま唯一使える魔法である。



 「申し訳ありません、ラック様。わたしも闇魔法については初級魔法以外殆ど知らないのです」


 「いや、試せる魔法があっただけでも十分だよ。ちなみになんだが、これどんな効果があるんだ?」


 「そうですね、黒い靄で相手の視覚を遮る事が出来ます」


 「えーっと、それはつまり煙幕みたいなものか?」


 「簡単に言えばそうなります」



 俺はもう一度手の上に浮かんだ丸くて黒い苔のようなふわふわとした物体を見つめた。


 ふぅーっと強く息を吹きかけると、それはあっという間に霧散し消えてしまった。



 「ま、まぁ、初級も初級。魔法って言っても、こ、こんなもんだよな」


 「そうですね。ですが使用者の能力によって魔法の精度や威力は当然変わってきます」


 「つまり、この魔法も効果範囲や継続時間も違ってくるわけか」


 「はい」



 今は無用の長物でもやりようによっては、今後使い道はあるってことか。



 「ラフィテア、闇属性魔法にはもっといろいろなものがあるんだよな」


 「そうですね。わたしもどんなものがあるかまでは詳しく知りませんが……」


 「そっか。……なぁ、ラフィテア。魔法には属性があって様々な効果を持つものがあるけど、それっていつから存在してるんだ?」


 「……ラック様、何がおっしゃりたいのでしょうか?」


 「えっと、つまりは、何だ。さっき俺が使った魔法もこの世界の誕生と共に最初からそこにあったわけじゃないんだろ?」


 「……要するに、誰が魔法を生み出したのかということでしょうか?」


 「そう! そういう事。まさか神様が魔法を授けてくれたってわけじゃないんだろ?」


 「誰がと断定するのは難しいですが、ラック様の想像通り魔法は人の手によって生み出されたものです。いま私たちが使っている魔法もそれが広く普及したもの」


 「やっぱりそうか。って事はだ。つまり俺にも俺だけの魔法を生み出せる可能性があるってことか」


 「えぇ、まぁ可能性は……。ですがその為には深い魔法の知識が必要になってきますし、途方もない労力と時間がかかります。それでも期待したような効果を持つ魔法を生み出せるかどうかは……」


 「いや、わかってる。でもそうか……。いやいや、それが知れただけでも大収穫だ」


 「まさか本当にオリジナルの魔法を作るおつもりですか?」


 「まぁ、それはわからないけどな」



 人の手によって魔法を新しく生み出せるって事は、誰も知らない危険な魔法だってあるかもしれないってことだ。


 新しい魔法を作るかどうかはさて置いて、そういう知識があるだけでもこの先十分有用だろう。



 俺は意識を手のひらに集中するともう一度“黒靄―ダークヘイズ―”の魔法を詠唱してみた。


 


 きっとこの魔法を生み出すのも大変だったのだろう。


 いま普及している魔法は人々の努力の積み重ねで出来ているのかもしれない。


 これからは先人の努力に敬意を払い魔法を使うとしよう。



詠唱が終わるとやはり先程と同じように小さな黒い靄が俺の手の上にぽこっと生まれた。



 うむ。ちゃんと成功はした。


 成功はしたんだが、ここでもう一つどうしてもラフィテアに確認しなければならないことがあった。



 「なぁ、ラフィテア」


 「はい」


 「この中二病丸出しの詠唱は口に出して言わないとダメなのか?」


 「中二病丸出し?」


 「いや、それは気にしなくていい。……それで、どうなんだ? 詠唱って必要なのか?」


 「もちろん必要です」


 「なにか理由でもあるのか?」


 「当然あります。……すこし難しい話になりますが、よろしいですか?」


 「あぁ、折角だから頼むよ」


 「わかりました。魔法が生み出された当初、魔法という物は長い月日をかけ魔素を注ぎながら魔方陣を描き使用するものでした」


魔方陣か。


「魔方陣とは魔法に必要な世界の理をまとめ構築したものであり、魔法と言う現象を発現させる為に必要不可欠なものです」


 「でも、いま俺が魔法を使用するのに魔方陣なんて描いてなかったよな? 必要なくなったのか?」


 「いえ、そういう事ではありません。魔法が広く認識され多くの賢者たちによって研究が進むにつれ、魔方陣を物理的に構築せず使えることが分かったのです」


 「物理的に作らなくて良くなった? それが魔法の詠唱と関係あるのか?」


 「はい。先ほどラック様は詠唱の際、魔方陣を描いていないとおっしゃっていましたが、実際は描いているのです」


 「……どこに?」


 ラフィテアは俺の質問を答えるように自身の頭を指さして見せた。


 「頭の中に、です。魔法をより実用的、いえ、実戦で使おうと考えた人々は魔方陣を言葉に置き換えることで誰でも簡単に構築する方法を編み出したのです」


 「じゃ、あの詠唱に使う文言にはそれぞれ意味があるのか」


 「はい。ですから、詠唱を間違えれば当然魔法は発動しませんし、下手をすれば使用者自信に危険が及ぶ予期しない事象が起こるかもしれません」



 「なるほど。って事はやっぱり詠唱は欠かせないのか」


 「なにか詠唱することに問題でもあるのですか?」


 「いや、問題って言うか……」



 ただ、何となく恥ずかしいだけなんだけどな。


 とは言え、魔法に詳しい者なら詠唱段階でどの魔法を使用してくるのか判別できるわけだし、詠唱しなくて良いならそれに越したことはないだろう。


 あと無詠唱で魔法を使うって、特別感が出てちょっと格好いい気もするしな。


 

 「――ラフィテアは無詠唱魔法、不可能だと思うか?」


 「無詠唱魔法ですか、考えたこともありませんでしたが……」



 ラフィテアはしばらくの間考えを巡らせた後、一つの結論を導き出した。



 「いえ、可能性はゼロではないと思います」


 「本当か!?」


 「はい。今の魔法は魔方陣をパーツごとに細かく切り分け言葉に置き換えています。魔法を行使する為に魔方陣は必要不可欠ですから言葉に代わる何かがあれば無詠唱も可能かもしれません」



 言葉に代わる何かか。



 これは一考してみる価値はありそうだ。



 






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