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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第八章

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ダンタリオン地下迷宮ー3





 地上からどの程度階段を下っただろうか。




 左右の松明の明かりを頼りに一歩一歩下っていくと突如そこには広闊なダンジョンが大きな口を開けて待ち構えていた。



 天井からは氷柱状にぶら下がる大小さまざまな鍾乳石。


 足元を照らせばしたたり落ちた水滴に光が反射し、緑色の苔が足場の岩を覆っている。

 

 天井までの高さは優に数十メートル以上もあり、ヴェルがあの大剣を自由に振るったとしても何の支障もない程である。



 多くの冒険者が活動している為、ある程度整備された場所も見受けられるが足元は非常に不安定で先に進むだけでも相当骨が折れそうだ。


 ましてここで戦闘ともなれば厄介な事この上ない。



 「どうだい? 旦那。 ダンタリオンに初めて足を踏み入れた感想は?」


 「思っていた以上に広いな」


 「へへっ、思っていた以上にか。でも旦那、ここはほんの入り口に過ぎねぇんだ。この先はもっともっと広大で複雑に入り組んでる」


 ラトゥはなぜかニヤッとすると前歯をむき出しにして嬉しそうに話している。



 「そんな不安そうな顔しなくてもおいらがいれば安心だぜ。なんせ、おいらの頭の中にはここいらの地図は全部頭に入ってるからよ。……けど、はぐれて迷子になっちまったら、責任は取れないけどな」


 「そうならない様に気を付けるよ」


 「それがいい。……セレナ嬢、転移装置で良かったよな」


 「えぇ」


 「んじゃ、こっちだ、こっち。こんな所でちんたらしてられねぇからちゃっちゃと進むぜ」


 そう言うとラトゥは大荷物を背負っているにも関わらず、大岩の上を器用に次から次へとぴょんぴょんと飛び移りどんどんと先へ進んでいく。


 見失わない様にすこし小走りで後を追っていくと、時折すれ違う冒険者たちが広めのスペースを確保すると最下級のスケルトンや吸血蝙蝠、ゴブリンどもを相手にせっせと討伐をしている。



 きっとこの辺で戦闘をしている連中は冒険者になりたてといった所なのだろう。


 見ていてひやひやする場面もあるが、互いに連携を取り何とか戦闘をこなしている。



 迷宮の奥に進むこと数分、彼らのおかげか一度も魔物に遭遇することなく俺たちは転移装置のある場所に到着することが出来た。



 「――ほら、ここが転移装置の場所だ」



 そこは迷宮の壁伝いの一角。


 広く空いたスペースは人の手によって整地され中央には魔方陣の描かれた四角い台座が置かれていた。



 「みんな逸れずちゃんとついて来れたか?」



 ラトゥの問いにセレナは聞き流すように軽く答えるとそのまま中央の台座に向かって真っすぐ歩いて行く。



 「これが転移装置なのか?」


 「えぇ、そうです。これはわれら聖リヴォニア騎士団が設置したもの。この地下一階を出発点として10階層ごとに転移装置を設置しています」


 「10階層毎って事は50階層にも転移装置があるのか?」


 「いえ、前回われわれは50階層に足を踏み入れはしましたが、訳あってすぐに地上へと戻らねばならなかったのです。ですから調査も転移装置の設置も未だ手付かずです」



 「そうか」



 「まっ、旦那。50階層なんて常人が足を踏み入れる場所じゃねぇ。死にたくなかったら無理をしない事だぜ。これは鼠族ラトゥ様からの忠告だ」



 「ご忠告ありがとう」


 「にしても魔鉱石まで使うなんてよっぽどなんだな」


 「色々と時間がありませんから」


 「……ふーん。まぁ、なんでもいいけどよ、この転移装置を一回作動させるだけでも魔鉱石を4つも使うんだぜ。下手すりゃ立派な寝床が一軒建っちまう。20階層なら歩いて進んだ方がいいんじゃねぇか?」


 「なに、心配しなくても魔鉱石ならいっぱいあるさ」



 俺は比較的小さめの魔鉱石が入った袋を取り出すと台座の上にポンと置いて見せた。



 「……旦那、何だいこりゃ」


 「何だって、魔鉱石だよ」


 「はっはっはっ、面白い冗談言うじゃねぇか、オルメヴィーラの旦那。これが全部魔鉱石だって? そんな馬鹿な話あるわけないだろ」


 「何じゃネズミ。なぜこれが魔鉱石ではないと疑うのじゃ」


 「ネ、ネズミ!? そ、そりゃおいらの事を言ってるのかっ!」


 「そうじゃ。何か問題でもあるのかの?」


 「おいらにはラトゥって立派な名前があるんだっ! 二度とおいらのことネズミって呼ぶんじゃねぇっての!」


 「わかった、わかった。わかったからそう耳元で大声を出すな、チュー太郎」


 「チュー太郎!? あぁっ、もうなんだっていいや。……で何だっけ? あぁ、何でこれが偽物だって決めつけるのかだったよな。そりゃ簡単な話だぜ。ドワーフの嬢ちゃん、お嬢ちゃんは知らねぇかもしれないが魔鉱石ってのはこんな小さな、……そうだな、おいらの耳の垢くらい小さな欠片だって金貨数百枚はするんだぜ」


 「ほほう。……で?」


 「でって……、あぁっ! もう、なんで分からないのかね! もしこれが全部本物の魔鉱石だったとしたら、一生ミンミンちゃんと楽しく遊んで暮らせる、いやそこいらの街一つ丸ごと買えるほどの金額になるんだ」


 「そりゃ、凄いの」



 魔鉱石を売りさばこうとは考えていなかったから市場価格を調べたことはなかったが、それ程の金額となれば、こいつの扱いはこれまで以上に注意を払わないとダメそうだな……。



 「のぅ、聞いたか? この魔鉱石を全部売り払ってわらわと一生遊んで暮らさんか?」


 「アホか」



 「どこの誰に騙されて買ったのかは知らねぇが、旦那、残念だった……な」



 そう言って袋を開け中身を取り出したラトゥだったが、手の上に広がった無数の魔鉱石を目にした瞬間、言葉を失いしばらく石像の様に固まってしまっていた。





 ――え、ええぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇえぇぇっっっ!

 


 やっと動き出したかと思いきや、ラトゥは震える手の上に乗った魔鉱石を食い入るように見ると突然最下層にまで届かんばかりの大きな声を上げ驚愕した。



 「こ、これも、これも、これも、これも、これも、これも、ぜ、全部、ほ、本物じゃねぇか」


 「だから全部魔鉱石だって言っただろ」

 

 「いや、いや、いや、いや、いや、いや、こりゃ夢だ。なにか悪い夢だ。そうだ、昨日悪酔いしちまったからな」


 急に錯乱し始めたラトゥはいきなり自分の髭を思い切り引っ張り、それからもう一度手のひらを見つめ一人ごくりとつばを飲み込んだ。


「痛っっっぅ。……こりゃ、ゆ、夢じゃねぇ。すげぇ、全部これがま、魔鉱石。旦那、こんなにいっぱいあるんだ、一つくらいおいらに――」


 「駄目に決まってるだろ。これはオルメヴィーラ領の大切な財産なんだからな」


 「じょ、冗談ですよ、旦那」


 「……けど、まぁ、きちんと仕事をすれば、相応の報酬は考えておく」


 「本当ですか、旦那! さすが話が分かるね! 旦那、このラトゥ、目的の場所まで皆さんを必ずやお連れしますぜ!」


 なんて分かりやすい奴。


 「あ、あぁ、よろしく頼むよ」


 「任せてくだせい!」




 はぁ、なんだか疲れる。


 まぁ、やる気になってくれたのは良しとするか。



 さて――


 「それでセレナ、この転移装置はどうやって使うんだ?」


 「はい。まず盤面の針が指している転移先の階層を、今回の場合20階層ですから、そこに合わせます」


 セレナは時計の時間を合わすように魔方陣の中央に設置された針を右方向にゆっくり回し始めた。



 「目的の階層に合わせたら四隅にある窪みにそれぞれ魔鉱石をはめ込み魔方陣に魔力を注ぎ込みます」



 セレナの言うがままヴェンダーナイトを穴にはめ込むと魔鉱石は淡い光を放ち始め、描かれた魔法陣にゆっくりと魔力を満たしてく。

 


 「魔力が全体に行き渡り魔方陣が完成したら、使用者が中央に手を置き“転移”を唱えれば魔法は発動します」


 「それだけか?」


 「えぇ」


 「わかった」


 「効果の範囲は地面に描かれた魔法陣の範囲内です」


 「結構狭いんだな。この人数でぎりぎりか」


 「ですから大規模の軍を送り込むには適しません」



 ラトゥの口ぶりだと魔鉱石も滅多に手に入らないようだしな。


 魔鉱石を窪みに嵌め魔力の注入を開始して数分、魔力の消失と共に光を失った魔鉱石は音もたてず粉々に砕け散ってしまった。



 「――オルメヴィーラ公、転移装置の準備が出来たようです」



 「そうか、わかった。……みんなここからが本番だ。気を引き締めていくぞ。特にドワ娘、わかってるな」


 「な、なんでわらわにだけ言うのじゃ!」



 「いや、何となくな。んじゃ、早速出発しますか」

 


 怒るドワ娘を尻目に俺は魔方陣の中央に手を置くと短く“転移”と呟いた。



 大量の魔力を蓄えた魔方陣が合言葉と共に強い光を放つと、そのまま一行を包み込み迷宮深くへと俺たちをいざなっていった。




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また、ブクマ、評価してくださった方へ。

この場を借りて御礼申し上げます(/ω\)


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