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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第七章

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エニグマの忌み子ー15






 「パパ、ヴェルこれにする。ねぇ、いいでしょ?」


 「え? あ、あぁ、ヴェルが気に入ったならそれにするか」


 「ありがとう、パパ」



 ヴェルは余程その剣が気に入ったのか初めておもちゃを買ってもらった子供の様に無邪気にはしゃぎ、折れた小枝のようにいとも軽々と扱っていた。



 「おい、オラブ。どういう事だ!」


 「な、なにがですか?」


 「お前、あの大剣はドワーフでも持て余すって言ってなかったか?」


 「は、はい」


 「じゃ、何でヴェルはあんなに簡単にあの剣を振るってるんだよ」


 「そ、そんな事わたしに聞かれても。あの剣を台車に積み込むだけでも大の大人が4人がかりだったんですよ。それをあのお嬢ちゃんはたった一人で持ち上げちまった。わたしの方こそ何か悪い夢でも見てるんじゃないかと思ってるくらいですよ」



 俺と同様、オラブもまた未だに信じられないといった様子で呆然とヴェルの姿を眺めている。


 周囲に集まった群衆も最初はその不釣り合いな光景に目を丸くしていたが、ヴェルが大剣を構えセレナと対峙すると一瞬で現実離れした状況を受け入れ、これから始まるであろう二人の戦いを今か今かと固唾を飲んで見守っていた。



 セレナはと言うと、一瞬驚いた様子を見せるもすぐさまいつもの様に落ち着き払い、どちらかと言えばこれから始まる戦いに心を躍らせていた。



 「ヴェル、準備はいいですか?」


 「うん、大丈夫」


 「では、早速始めましょうか」


 

 木刀を片手にその場で直立不動の姿勢のままじっとしているセレナ。


 一方ヴェルは巨大な黒曜の剣を後ろに構え、じりじりと間合いを探っている。



 「どうしました? かかってこないのですか?」


 二人の剣の長さは三倍以上違う。


つまり間合いもそれだけヴェルの方が広いという事だ。


 しかし、それでもヴェルは動くことが出来ない。


 もちろん、剣の扱いが素人だという事もあるのだろうが、仕掛けることが出来ないのには別の理由があった。



 ――セレナに隙がない。


 木刀を片手に棒立ちしているだけなのだが、360度どこから斬りかかっても当たる気がしない。


 もちろん、ヴェルがそこまで考えているかはわからないが、本能的に理解しているのかもしれない。


 むやみやたらに突っ込めばその刹那決着がつくという事を。



 「これではいつまで経ってもあなたの実力を測る事が出来ませんね。……仕方がありません。では、こちらから仕掛けるとしましょう」



 セレナはまっすぐ前を見据えゆっくり一歩ずつ足を踏み出していく。


 彼女が一歩前に進むごとに、まるで虎に追い詰められた野兎の様にヴェルは無意識のうちに一歩ずつ後退していく。


 「ヴェル、無理するな! 止めてもいいんだぞ!」


 俺の声にヴェルは力いっぱい首を横にぶんぶん振ると剣を力いっぱい握りしめ、そこで足を止めた。


 「やだっ! ヴェルがパパを守る!」


 「その気持ちは称賛に値しますが、実力が伴わなければ虚言、妄言と同じ。あなたにはオルメヴィーラ公を守る事など出来ません。諦めなさい」


 「いやっ」


 セレナの言葉に、それまで後退していたヴェルの足がその場でピタリと止まり、剣を握っていた両手の震えが収まっていた。


 「諦めなさい」


 「いや、いや、いやっ! パパは、パパは絶対ヴェルが守るのっ!」


 ヴェルの叫び声と共に放たれた大剣の一振りはブォンと大きな音を上げ周囲一帯を薙ぎ払った。


 その剣圧は凄まじく辺りの地面の砂を巻き上げると、小さな竜巻のような突風を生み出し数十メートル先にいた見物人達を吹き飛ばしてしまった。



 「――その小さな身体のどこにそんな力を秘めているのでしょう。並みの兵士なら今の一振りで終わっていたでしょうね」


 ヴェルの剣撃は確かに素早く威力も驚かされるべきものだったが、セレナを捉えるには技術は拙く、遅すぎた。


 目の前にいたはずのセレナは忽然と姿を消し、一瞬俺以外のすべての者が彼女を見失い、ヴェルも例外ではなく慌てた様子で彼女の姿を目で追っていた。


 「どこを探しているのですか? わたしはここです」


 声のする方へ顔を向けると、セレナは巨大な黒曜剣の先端に立ち、上から興味深そうにヴェルを観察していた。


 「今のは、なかなか良い一撃でしたね。威力も申し分ない。ですが、当たらなければどうという事はありません」


 驚きを隠せないヴェルだったがすぐに平静を取り戻すとセレナを振り払い、今度は手を止めることなく彼女に斬りかかっていった。


 「当たらないのであれば、当たるまで剣を振るい続ける。確かに間違っているとは言えません、しかし――」


 いかに手数を増やそうが、縦横無尽に襲い来る斬撃をセレナはいとも簡単に躱してく。


 捉えたはずの一撃もあのか細い木刀で受け流され、まるで捉えどころのない柳の様にすべていなしていく。


 さすがセレナ。


剣聖に選ばれただけはある。


 「ヴェル、あなたのその腕力は驚嘆に値しますが、それだけで勝てる程甘くはありませんよ。並みの相手ならば通用するかもしれませが、私とは相性が悪すぎる」


 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ど、どうして当たらないの」


 それまで剛腕を振るっていたヴェルだったが、数十、数百に渡る空振りにとうとう息を切らし地面に剣を降ろしてしまった。

 

 対してセレナは息一つ切らさず、涼やかな顔で少女の前に立っていた。


 「理由は簡単。その剣が重すぎるのよ」


 「重すぎる?」


 「そう。その剣は本来大物相手に、大きさ、重さ、威力を利用し一撃必殺を狙うもの。今の様に連続して振るうようなものではないわ。つまり私の様に素早い敵を相手にするのがもっとも苦手な武器とも言える」


 「じゃ、どうすれば――」


 「それを考えるのはあなたよ。戦いの最中、それを教えてくれるほど相手は優しくもないし愚かじゃない」


 ヴェルは肩で息をしながら、悔しそうにセレナの足元を見つめている。


 「戦いでいつも誰かが助けてくれるとは限らない。自分の身は自分で守るしかない。まして自分を守れないものが、誰かを助けようだなんておこがましいにも程がある。


 諦めてここに残りなさい」



 「……いや。パパはヴェルが絶対に守る」


 ヴェルは息を整えると黒曜剣を握りもう一度構え直した。


 「なぜあなたがそこまで固執するのかはわかりませんが、その心意気だけは認めましょう。……ですが、あなたを連れていくかどうかは別です」



 セレナはさっとその場を飛び退く、ヴェルを試すべく次の一手を窺っていた。








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