エニグマの忌み子ー14
「――おい、セレナ。あんな小さな子供相手に勝負なんて何考えているんだ」
「オルメヴィーラ公、落ち着いてください。勝負と言ってもあの娘の腕前を見るだけです。勿論怪我などさせません」
「いや、そういう事を言ってるんじゃなくてだな」
「あの娘が心配なのはわかりますが、だからと言って彼女の気持ちを考えずにただ否定しても納得させることは出来ません。……それがあの娘にとって譲れないもの、大切なものなら尚更です」
「まぁ、分からないでもないが」
「あの娘にとってあなたと一緒にいる事が最も優先順位が高い、そうと思ったので妥協点を探っただけです。私と戦い今の実力ではあなたを守ることが出来ないと分かれば、ちゃんとこちらの言う事を聞いてくれるはずです」
「そういうもんかな」
「えぇ。……それにもしかしたら、もしかするかもしれませんし」
「セレナ、それはどういう意味だ」
「そのままの意味ですよ」
「まさか結果次第でヴェルの対抗戦の出場を認めるわけじゃないだろうな?」
「もちろん認めますよ」
「おい、セレナ」
「私は約束を違えません。その相手がたとえ幼い少女だったとしてもね」
「あまりにも無謀だろ」
「大丈夫。私が認める程の才があるなら、一ヶ月もあれば自分自分の身を守れる程度には強くなれます。――それにどうやらあの娘もやる気満々の様ですしね」
「パパは絶対ヴェルが守る!」
はぁ、まったくしょうがないな。
「セレナ! 絶対ヴェルに怪我させるなよ!」
「分かっています」
屋敷の外で二人を見守る俺たちのただならぬ雰囲気にいつの間にか傍を通りかかった領民たちがこの勝負の場を取り囲んでいた。
「ヴェル! この勝負は決着をつける為のものではありません。あなたの戦闘の才を見極める為のもの。ですから思う存分剣を振るいなさい」
そう言うとセレナは腰に下げた剣ではなく、練習用の木刀を左手に持ちゆっくり構えて見せた。
確かセレナは右利きだったよな。
まぁ、子供相手だしあれくらいのハンデは当然として、彼女の持つ武器、真剣ではないにせよ木刀でも当たり所が悪ければ骨の一、二本は簡単に折れてしまう。
ヴェル、頼むからあまり無茶はしないでくれよ。
二人の対決を目前に控えそわそわしていると見慣れた顔のドワーフが台車に大量の武器を積み、息を切らせながら走り寄ってきた。
「――はぁ、はぁ、り、領主様、お待たせしました」
「あぁ、オラブ、急に頼んで悪かったな」
「いえいえ、とんでもない。この鍛冶工房“火花散る鎚”自慢の武器をご注文とあらば、何時でもすぐにお持ちいたしますよ」
「助かるよ。それにしても随分といっぱい持ってきたな」
「適当に見繕ってくれと言われましたから、店にある物は一通りお持ちしました」
確かにそうは言ったけど、この量は流石に多すぎるだろ。
短剣から細身の剣、斧、鈍器、槍に弓などなど。
俺が思いつく限りの武器が台車の中に勢ぞろいしていた。
……まぁ、いいか。
「なぁ、セレナ。別に剣以外の武器でもいいんだろ?」
「えぇ、構いませんよ」
「ヴェル、この中からお前の使いたい武器を選んでいいぞ」
「うん。ありがとう、パパ」
「え? 領主様がお使いになるのではないのですか? わたしはてっきり――」
駆け寄ってきた小さな少女が台車の中を覗き込んで武器を選んでいるのを見て、オラブは目を丸くしていた。
「いや、使うのは俺じゃないんだ」
そう言えばオラブには何にも説明してなかったな。まぁ、そんな事より――
「ヴェル良さそうなのはあったか?」
ヴェルは一つずつ手に取り感触を確かめているが、どうも気に入ったものが未だに見当たらないようで武器選びに難航していた。
「お嬢ちゃん、武器を選ぶのは当然初めてだろ? いま手に持っている剣はお嬢ちゃんには少しばかり重いな。もっと自分の体格や腕力に見合った物を選ばないと剣に振り回されちまうよ」
「そう、なの?」
「あぁ。そうだな、お嬢ちゃんくらいだと精々この細身の剣か短剣くらいじゃないか。ちょっと手に取って振ってみな」
「うん」
「――どうだい? 重くないから扱いやすいだろ?」
ヴェルは黙って短剣、小剣を振るってみるが、二本ともしっくりこないのか首を横に振って台車に武器を戻してしまった。
「ヴェル、気に入らなかったのか?」
ヴェルは小さく返事をすると再び一つ一つ手に取り品定めを始めていた。
「今のがダメとなると持ってきた中に、お嬢ちゃんが扱えそうな武器はないかもしれないな」
「そうか」
まっ、もともとこんな小さな子供が武器を持って戦う姿なんて想像も出来なかったし、ここはやっぱり説得して辞めさせて方がいいかもな。
そんな内心ほっとしている俺を他所にヴェルはある一本の武器の前に立つとやっとのことで獲物を探し当てた子猫の様な目でじっとその場に佇んでいた。
「ん? どうしたんだ、ヴェル。気になる武器でも見つかったのか?」
「うん。パパ、ヴェル、これがいい」
どれどれ。
ヴェルが指さした先を覗き込むと、漆黒の塊が誰にも見つからぬよう幾つもの武器の下に静かに横たわっていた。
「……おい、オラブ、これは一体何なんだ?」
「え? あぁ、いや、でも、こりゃお嬢ちゃん、さすがにそいつは無理だよ」
正体を探るべく嵩張る剣や斧を一本一本どかしていくと、そこには到底武器とは言えない黒く巨大な刀身らしきものが姿を現した。
「これは、剣、なのか?」
「えぇ、まぁ一応」
剣と言うにはあまりにもふざけている。
刀身だけでも裕に俺の身の丈は超えている。
「こんなの誰が扱えるって言うんだよ」
「そうですね、力自慢のドワーフでもこいつを振るえる奴は一人もいないかもしれませんね」
「あのなぁ、なんでそんなもの作ったんだよ」
「いえね、ルアジュカ山脈であの黒曜鉱が見つかったって言う話を聞きましてね」
「黒曜鉱?」
「はい、黒曜鉱はドワーフ族が知る限りもっとも硬度の高い鉱物で、数百年もの間溶岩の中で圧縮され続けた非常に希少価値の高いものなんです」
「それで?」
「この黒曜鉱で作った剣だけが唯一ドラゴンの鱗を切り裂くことが出来ると言われていて、ドワーフの鍛冶職人なら皆死ぬまでに一度は黒曜鉱で剣を打ちたいと思ってるんですよ」
「はぁ、話は、まぁわかったけど、だからと言ってこんな馬鹿でかいもの作ることはないじゃないか」
「いや、そうなんですけどドラゴン云々はあくまで噂話ですし、折角なら店の名物となる様な巨大な剣を拵えようかと……」
「それでこのサイズになったのか」
「はい。ドラゴンキラー通称竜殺し、良い宣伝になると思いませんか?」
なにがドラゴンキラーだ。
誰も扱えないのなら只の巨大なゴミだろうに。
「ヴェル、気に入ったのに悪いんだけど流石にそれは諦めた方が良い。……ほら、こっちの短剣なんか中々の業物だ。短剣使いの俺が言うんだ間違いない」
「――パパ、ヴェル、これがいい」
「いや、これがいいって言っても振るうどころか持ち上げることも出来ないだろ? 悪い事は言わないからコレにしな」
「……りょ、領主様」
「なんだよ、オラブ」
「そ、その、あ、あの」
「なんだよ、俺はヴェルの武器を選んでるんだ。手が空いているならお前も手伝ってくれよ」
「え、あ、いや、その、あの、お、お嬢ちゃんがですね――」
「ヴェルがどうしたって――」
オラブの慌てたような様子に選ぶ手を止め振り返ると、そこには常識では考えられない、あり得ない光景が広がっていた。
「ヴェル、お前一体――」
小さな少女は自分の身長の三倍以上もある巨大な剣をいとも簡単に持ち上げると、太陽の光を受け黒く輝く刃を満足そうに一人眺めていた。
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