エニグマの忌み子ー12
「――セレナ様!」
「セレナ。どうして、お前がここにいるんだ。オバロを連れて王都に向かったはずだろ?」
「えぇ。兄、いえ、エンティナ領主を引き渡し陛下との謁見を済ませた後、許可を得てこの地に参りました」
「オバロはどうなった?」
「……兄の処遇に関してはまだ正式には決まっていません。今は現地での事実確認と聞き取り調査が行われています。魔族との繋がりも疑われていますからしばらく時間が掛かるでしょう。ただ今回の件の責任を取る形で既に領主としての地位は剥奪されました」
「そうか。それで次期エンティナ領主の件はどうなったんだ?」
「その事なのですが、陛下からは私が次の新しい領主になるよう打診されました」
「まぁ、やっぱりそうなるよな」
「しかし先に言った通り、あの女、メフィストをこの手で仕留めるまで私はエンティナ領の領主の座に就くつもりはありません」
セレナはシエルの事を思い出したのか拳を握り締めると悔しさをにじませゆっくりと俯いた。
「――では、セレナ・ベータグラムよ。お前はエンティナ領をどうするつもりなのか。お前の父が愛した地をお前が継がずにどうする」
「陛下。……陛下のそのお心遣い感謝致します。ですが、私にはその前になさねばならぬことがあります。それを成さぬ限り自分自身を領主として認めることなど到底出来ないのです」
「セレナ、お前のその頑固なところは一体誰に似たのだろうな。やはり血は争えないといった所か」
「……申し訳ございません、陛下」
「しかし、セレナよ。いくらお前がそう申したところで何時までも領主の座を空白のままにしておくわけにはいかないのだ。それは領民の為、ひいては国益の為にもな」
「はっ、それは十分承知しております」
「ならば、どうするつもりなのだ」
「エンティナ領については誠に勝手ながら既にオルメヴィーラ公に助力を仰いでおります」
「オルメヴィーラ公? あぁ、あの男か」
「はい、今回の件も彼の力が無ければ未だ解決には至ってなかったかもしれません。――陛下、私がメフィストとの決着を果たすまでオルメヴィーラ公にエンティナ領を任せる許可を頂けないでしょうか?」
「あの男にエンティナ領を、か」
「陛下、どうか」
「……そうだな。許可してやらないでもないが一つ条件がある」
「条件、でございますか?」
「そうだ。あの辺境の地の領主ならば誰が治めても文句を言う者はいなかったが、それがエンティナ領ともなれば話は変わってくる」
「他の領主が黙っていないと?」
「そうだ。オルメヴィーラならいざ知らず、どこの馬の骨とも分からない者にエンティナ領を任せるのならば、他の領主達を認めさせる何かが必要だ」
「それは陛下のおっしゃる通りかもしれません。……それで陛下、他の領主に認めさせる条件とは一体」
「――オルメヴィーラ領主が自ら領地対抗戦に出場し、優勝を果たすことだ」
「優勝!? し、しかし、それは余りに――」
「可能性は限りなく低いだろうな。だが、セレナよ。他の領主を認めさせるにはそれくらいやってのけてもらわねば困る」
「た、確かに」
「どうするセレナよ。この条件呑むか?」
「……本来なら私が領主の任を受けるべき所、我儘から無理を申しているのです。別の選択肢を与えてくださった陛下には感謝の念しかございません」
「それは条件を呑む、ということで良いのだな」
「はっ」
「わかった。もしオルメヴィーラが優勝を果たしたのなら、お前が領主になるまでの間、あの男を代理で任に就くことを認めよう」
「ありがとうございます、陛下」
「ならこの話はこれでお終いだ。セレナ、もう下がっても良いぞ」
「陛下、お待ちください」
「なんだ?」
「今回の件、オルメヴィーラ公は本来全く部外者です」
「それがどうした」
「今年の領地対抗戦、今の状況ではエンティナ領が参加することは出来ないでしょう。
私が巻き込んでしまったこととは言え、オルメヴィーラ公にばかり負担を強いるわけにはいきません。
……ですから、陛下。このセレナ・ベータグラム、今回オルメヴィーラ領の一員として領地対抗戦に参加させてもらう訳にはいかないでしょうか」
「セレナよ。お前の気持ちも分からないでもないが、そんな事をしては他の領主が黙っていないのではないか?」
「そ、それは」
「お前は四剣聖の一人。お前の力は一人で一個大隊に匹敵する。とはいえ、そうだな……」
「陛下」
「――わかった、いいだろう。今回は特別にオルメヴィーラ領の一員としての参加を認めよう」
「ほ、本当でございますか」
「エンティナ領に巣くっていたという魔族の件。あの男がいなければもっと被害が拡大していたかもしれん。……これはその褒美という事にしておいてやろう」
「はっ、ありがとうございます」
「それにお前が対抗戦に参加すればロアとの一戦を再度見ることが出来るかもしれんからな」
「……」
「セレナよ、他に何か言いたいことはあるか?」
「いえ、お引止めして申し訳ありませんでした」
「うむ、それでは対抗戦当日を楽しみにしておるぞ」
「はっ」
「――つまりはなにか、俺はエンティナ領主代行になるために領地対抗戦で優勝しなきゃならないってことか」
「はい、そういう事になります。……オルメヴィーラ公が居ない所で勝手な約束を取り付けてしまい申し訳ありません」
「いや、気にしなくていいさ」
そりゃ、そうだよな。
俺なんかがエンティナ領主になるってなったら周りが黙っているはずがない。
それに優勝して爵位でも貰わなければ、王としても任命は難しいだろうからな。
まっ、優勝しなきゃならない理由が一つから二つになっただけだ。
やる事に変わりはない。
それになにも悪い事ばかりじゃない。
「セレナが俺たちと一緒に戦ってくれるんだ。これ以上心強いことはない」
「いえ、これは私が無理を言ってお願いしたこと。オルメヴィーラ公、今回の領地対抗戦が終わるまで私はあなたの剣としてこの力を振るいましょう」
「セレナ様、王都を離れて聖リヴォニア騎士団の方は大丈夫なのですか?」
「えぇ。ガラハッドがいますから。それに私がいない方が色々と気を使わなくて済むでしょうし。――そんなことより、ラフィテア、あなたとこうしてまた一緒に居られて嬉しいわ」
「……セレナ様」
「まっ、何にしてもやっと一人メンバーが決まったんだ。これでようやく一歩前進だな」
「オルメヴィーラ公、まだ参加者は揃っていないのですか?」
「あぁ、セレナを含めて、俺とラフィテアだけなんだ」
「そう、ですか。では最低でもあと一人。補欠要員も含めるとあと二人は必要ですね。……あのドワーフの彼女、あの人は参加しないのですか?」
「ドワーフの彼女? あぁ、フレデリカの事か。あいつは戦闘が得意じゃないし、本人が余り出たがってないからな。まっ、最悪の場合は無理にでも付き合ってもらうけどな」
「準備の時間も考えると、もうあまり時間がないかもしれません」
「準備か。そうだ、セレナ。対抗戦に向けて俺たち特訓したいんだけど、どこか近場でいい場所知らないか?」
「特訓ですか、……それならうってつけの場所があります」
「本当か。それはどこにあるんだ?」
「王国の領地内。エンティナ領から小丘を超えた先、我が聖リヴォニア騎士団が管理するダンタリオンの地下迷宮です」
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