エニグマの忌み子ー8
ドワーフ達はオルメヴィーラ領に到着してからこの村の一角に集まって生活している。
別に他の住人たちと分けている訳ではないが、お互いが近くに住んでいるほうが何かと便利だという事でそうなった。
新しく店を始めそこに住んでいる者、元からある家を改築し使っている者もいるが、多くは新築の大きな館を建てそこに住んでいる。
三階建てのこの立派な建物は一階が酒好きのドワーフ族らしくワンフロア―丸々酒場になっており、仕事を終えた彼らは毎晩のように宴会に明け暮れていた。
最近では領民たちもドワーフの酒の席に交じり仲良くやっているようで、前を通り過ぎる度に彼らの笑い声が辺りに漏れ聞こえ、社交の場として利用されている。
そんなドワーフ族の住処ともいえる館に足を踏み入れたのだが、日中という事もありドワーフ達は皆仕事で出払っており、先頭を歩いているザックが三階の角部屋の前で立ち止まるまで四人の足音だけが静かすぎる館内にコツコツと響いていた。
「りょ、領主様この部屋に例の子供が――」
到着した部屋は想像以上に広く、いま立っている場所以外にまだ二つも部屋があり、リビングにはちゃんと暖炉も備え付けられ、各部屋には光を取り入れる為の窓もしっかりと備え付けられていた。
ただ、何というかドワーフの男が一人で生活しているだけあって、なんの飾りっ気もなく壁には仕事に使う斧やつるはし、棚には数種類の酒瓶が並び殺風景という言葉がこれほど似合う景色もそうそう思い浮かばなかった。
案内されるがまま部屋の奥にすすむとベッドが二つ間隔を空けて並んでおり、そこには少女が一人掛布団に包まり気持ちよさそうにすぅすぅと小さな寝息を立てていた。
「どうやら本当に眠っているようですね」
「そう、みたいだな」
見た目からして年齢は十代前半か。
丁度シーナと同じくらいかもしれない。
特徴と言えば髪は燃えるような赤い色で少し癖のある毛質をしていて、耳は少し尖ってはいるがエルフのそれとは少し違う。
それ以外にこれといって変わったところもなく、俺にはごく平凡な人族の少女に見えた。
「ラフィテア、なにか分かるか?」
「いえ、すみません」
「そうか」
「なに、分からぬのなら直接本人に聞けばよいのじゃ」
「いや、聞くって言ったって――」
寝てるのにどうやって聞くんだよ。
そう言葉をオレが発するよりも前にドワ娘は少女の上にいきなり跨ぐように飛び乗ると、いたずら好きの悪ガキのような顔で彼女の両頬をむにっと摘まみ上げて見せた。
「おい、ドワ娘。お前、何やってるんだ。起きたらどうするんだよ」
あ、いや。起きていいのか。
いやいや、そういう事じゃないだろ。
「なに、本当に寝てるかどうか確かめておるだけじゃ。それにしても暖かくて柔らかい頬っぺたじゃの。どうじゃ、耳長、お前もやってみるか?」
「はぁ、やるわけないでしょう。いい加減そこから降りなさい」
「ふむ。どうやら狸寝入りではなく、本当に眠っている様じゃの」
やれやれ。
にしても、ドワ娘があれだけやって起きないところを見るとなにか病気か呪いの類なのかもしれない。
そうなってくると今の俺達じゃ対処は難しいな。
「りょ、領主様、わたしは、ど、どうしたら良いのでしょうか?」
「そうだな」
ザックに一人に任せておく訳にもいかないし、暫くの間は俺たちで様子を見てやるほかないか。
「ザック、この娘は――」
「……ぃ、……で、……っ」
「――ん? いま誰か何か言ったか?」
「いえ、何も」
「わらわも何も言っておらんぞ」
「……ぅ……、ぃ……、っ……」
まただ。
微かにだが小さな声が聞こえる。
……この娘が寝言を言ってるのだろうか?
「ラフィテア、聞こえたか?」
「はい。ですが、何と言っているかまでは……」
何を言っているのか分かれば、なにかヒントを掴めるかもしれない。
「みんな、少し静かにしていてくれ」
俺はドワ娘の首根っこを捕まえ少女から引っぺがすと、ゆっくりと顔を彼女の口元へと近づけていく。
「……ぁ、……っ、……ぇ、っ……」
何かを言っているのは間違いない。
俺は僅かに聞こえる少女の声が何を言おうとしているのか確かめるべく、少しずつ、彼女の唇が触れるくらいの距離まで顔を近づけていく。
「……ぱ、……ぱ」
ん? ぱ、……ぱ?
「……ぱ、ぱ」
――ぱ、ぱ?
「――ぱ、ぱ」
少女は確かにはっきりこう言った。
「パパ!」
――次の瞬間、少女の赤い瞳と俺の視線が真っすぐ交錯し、彼女はぎゅっと俺に抱きつくと、自分の唇と俺の唇を強く重ね合わせていた。
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