エニグマの忌み子ー4
「つまりあんたはセレナの伯父にあたるのか」
「まっ、そういう事だ。オレとシエル、それにフェルディナントの野郎はユークリッドの訓練兵だった頃からの知り合いさ。あの頃はいつも三人つるんで馬鹿な事ばっかりやっていてもんさ」
「シエル様とは長い付き合いだったのですね」
「あぁ、そうだ。あの野郎、よりにもよってオレの妹に惚れやがってよ。フィオナの奴もまんざらでもなさそうだったんだが、何の因果かリヒターク家との縁談が持ち上がってあれよ、あれよという間にフィオナとフェルディナントは結婚しちまった。……当時落ち込んだあいつを誘って毎晩飲みに行ったもんさ」
「そうだったのか」
「オズワルド様、セレナ様の両親はどうして亡くなられたのですか?」
「あぁ、フェルディナントは魔族討伐に向かった先で戦死したと聞いているが詳しい事はオレにもわからねぇ。それからあいつの母親、フィオナはセレナを産んですぐ亡くなっちまった」
「……そう、ですか」
「あいつは昔から体が弱かったからな。小さい頃は熱を出したあいつをしょっちゅうオレが看病していたもんさ。フィオナもセレナを無事出産できるかわからないと医者に言われていたらしい。――だが、あいつは命がけでセレナを産んだんだ。大したもんだろ?」
「セレナはこの事を知っているのか?」
「さぁな。まぁ、今更知ったところで何かが変わるわけじゃない。あいつは今セレナ・ベータグラムとして立派にやってるんだろ?」
「はい」
「なら、それでいいじゃねぇか。……ただ、まぁ、そうだな。一度でいい、あいつには両親の墓の前に立ってもらいたい。成長した今の姿をあの二人に見せてやりたい。オレが思うのはただそれだけだ」
「そうか」
「結局、俺たちは誰もあいつの最後を看取ってやれなかった。あいつにとって血の繋がった家族はもうオレだけだったのによ」
オズワルドは未完の絵を眺めながら、もう一度煙管を手に取りゆっくりと煙を吸い込んだ。
「その絵ってもしかして……」
「あぁ、フィオナの絵さ。あいつに、セレナにいつか自分の母親の顔を見せてやりたくてな」
「オズワルド様」
「だがよ、どうしてもフィオナの笑顔が上手く描けないのさ。夢の中のあいつはいつも笑ってる。けど、起きてここに座り筆を握ると何故かぼやけて描けなくなっちまうのさ」
オズワルドは苦笑し二人を前に昔を思い出すかのように目を瞑り煙草に息を通す。
赤く染まった葉はチリチリと音を立て小さく揺らめいていた。
「――おい、小僧。セレナがエンティナの領主になるまでお前に力を貸してやってもいいぞ」
「ほ、本当か?」
「あぁ、ただし一つ条件がある」
「条件?」
「あぁ、そうだ。オレは弱い奴の下につくのが大嫌いなんだ。だから領地対抗戦に出場してそこで優勝して見せろ。それがオレがお前に力を貸す条件だ」
「領地対抗戦?」
「あ? 何だ、お前。まさか領地対抗戦を知らねぇのか?」
「今初めて聞いた」
「はぁ、呆れたやつだな。お前、本当にオルメヴィーラの領主なのか?」
「そうだよ。知らなくて悪かったな」
「しょうもねぇな。領地対抗戦ってのはな、毎年各領主が選りすぐりの強者を集めトーナメント方式で争う大会の事だ」
「そうなのか、ラフィテア?」
「はい。ここ数年オルメヴィーラは領主が不在だったため出場していませんでしたが、今年はラック様が領主に就きましたのできっと招待状が届くはずです」
「招待状?」
「はい、対抗戦は王国ではなく領主達が持ち回りで運営しております。一昨年はエンティナ領、昨年はバラマール領で開催されましたので、例年通りなら今年はツールナスタ領で行われるはずです」
ツールナスタ領か。
「そういうこった。まぁ、詳しい事は追々自分で調べるんだな」
「オズワルド・モンスレー。俺たちがその領地対抗戦で優勝出来たら必ず力を貸してもらう。約束だ」
「わかってる、約束はきっちり守るさ。まっ、お前が優勝出来たらの話だがな」
「その言葉忘れるんじゃないぞ」
「ふんっ、誰に口をきいてやがる。精々死なない程度に頑張るんだな」
――領地対抗戦か。
つい勢いで約束してしまったが、これからどうなることやら。
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