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8/12

8.休日の過ごし方

「うっ、これもセット売りか」

 買い物に出て本を買いあさったまでは良かったものの、お菓子散策が滞っていた。

 どれもこれも気になるお菓子はセット売りばかり。焼き菓子くらい単個で売ってくれ! と文句を言いたいところだが、帰ってくる度に王都を訪れる人が増えているのはアターシャも理解している。単個売りにするより、セット売りにして開店前に組んでいた箱単位で売った方が回転率が高いのだろうことも。だがアターシャがはしごする店のどれもがこの方法を取っており、お一人様な彼女にはキツかった。お財布的に問題はない。個数が多すぎるという話だ。初めの二、三店舗までは宰相にお裾分けにいけばいいか~と買い込んでいたが、さすがに手の中に溜まっていくお菓子の山に、お裾分けというより押しつけに近くなってきた。それでも期間限定商品ともなると、遠征から帰ってきた頃にはもう変わってしまっているわけで。


「買いたい。けど残っても勿体ない……。外に出てばっかりでお城にほとんど知り合いいないんだよな~」

 いっそ遠征に持っていって、メンバーに配るか旅先で渡して歩く?

 だがそこまでして買い込むのも……。うーんと唸りながらも結局諦めることも出来ずに秋のお楽しみセットの購入を済ませる。そしてさすがにこれ以上は、とお菓子店から目を逸らして歩くことにした。とはいえ、長く歩いていればまた新しいものを見つけてしまう。お店に入る前に、近くの雑貨屋さんに入り、入り口付近に並んでいたパズルを適当に数種類手に取ってレジに持っていく。早々にお菓子に目を取られてしまったせいで趣味になりそうなものは見つかっていないのだ。アターシャとて今日の今日で熱中出来るものが見つかるとは思っていない。パズルもハマればいいな~程度で、期待値はさほど高くない。会計の済んだパズルを袋に入れてもらい、お菓子の山の上にポンと置いた。


「今どき立体のパズルとかあるのね~」

 完成したら部屋にでも飾ろうか。アターシャの部屋にはほとんど家具がない。なにせほとんど部屋にいないもので、部屋についていた家具と本以外何もないのだ。後はお菓子の入っていた缶もある。これは飾ってあるというよりも溜まっていっているという方が正しいが。立体の木製リンゴパズルが綺麗に完成したら塗装するのもいいかもしれない。これで今回の休暇は終わるかもしれないと思えば、気持ちが浮き立つ。

 町を歩きながら、塗装用のペンキが置いてありそうな店を探す。さすがに荷物が持ち切れなくなってきたので、店が見つかったところで買いに来るのは後日となりそうだが。きょろきょろとしながら歩いていると後方から聞きなれた声が届く。


「アターシャさん!」

「ん? ああ、クラウディオ。どうしたの?」

「買い出しの帰りにアターシャさんの姿を見つけまして……荷物持ちますよ」

「え、いいわよ。これ私の荷物だし」

「でも……」

 クラウディオの手元に視線を落とせば、すでに大量の荷物を抱えている。

 それにアターシャの荷物はかさばりはするものの、さほど重くはない。顔をふるふると振れば、彼はしゅんっと肩を落とした。そんなに荷物を持ちたかったのか。かれこれもう数年は同じグループとして遠征に向かっているが、仕事以外で気を使ってもらうような仲ではなかったはずだ。だからといって筋トレ目的なら何もアターシャの荷物で鍛えずとも、城の鍛錬場を使わせて貰えば良い。


「えっと、今帰りなら一緒に帰る?」

「はい!」

 一緒に帰るかと聞いただけで、クラウディオは途端に目を輝かせる。一体何なのだろう? アターシャは訳も分からぬまま、彼と共に城へ戻る。世話話をしているだけなのに、終始楽しそうで。アターシャさん、アターシャさんと繰り返す彼に思わず顔が綻んでしまう。


 そんなクラウディオだからだろう。

 城に戻る途中も何度も人から声をかけられ、アターシャは顔見知りの女性達から「羨ましい!」と心からの羨望の眼差しを向けられた。見慣れているアターシャからすると大きなわんこのようでも、この数年で遅めの成長期を迎えた彼はすっかりイケメンである。それこそこの成長が後数年早ければ、攻略対象キャラに名乗りをあげていただろうというレベルだ。カウロ王子とツートップで推していたかもしれない。ただアターシャの中ではすでに『推し=恋愛をしたい相手』という方程式が破綻している。クラウディオに向けるこの感情も恋愛感情ではない、と思っていた。


 けれどカウロとクラウディオ、何が違ったのか。

 ランカと仲良くしているカウロには推したい! という欲しか浮かばなかったのに、いつからかクラウディオが女の子達と仲良く話している姿を見るとモヤモヤと胸の中で何かが渦巻くようになった。それが何かも分からず、アターシャは癒しの力を使うと共に、王子&王子妃の布教にいっそう励むようになった。それはもう趣味を探さなきゃ! なんて気持ちも沸かぬほど、休暇中は二人の情報を探し、度々城下町に繰り出すようになった。宰相とのお茶会にも熱が入る。


「え、妊娠?」

「はい。なので来月からは公務も制限する形になっていきます」

「私、城にいようか? というかいたい。出産を見守りたい」

「あなたには公務の制限によって手薄になったところを固めて欲しいです」

「それなら仕方ない! 布教も頑張るわ!」


 推し第二世が生まれるかもしれない時にこの場を離れるのは心苦しいが、推しのためなら仕方ない。

 グッと拳を固めながら、これもまた私の使命! と受け入れる。


「それで今度の遠征はどこなの?」

「北方のとある国を目指し、行きとは別のルートで南下していく形でお願いします。進行ルートはまた地図でお渡ししますので」

「了解」

 布教~布教~とはしゃぎながら、アターシャはクッキーを口に運ぶ。

 おかわりに入れてくれたお茶と一緒に楽しみながら、理想の推し生活を思い描くのだった。


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