イヴォニア
1時間ほど走ったところで街を囲んでいる外壁と市門が見えてきた。
カレン :「さっ…さすが…マスターの…魔法…。早馬で…一晩の…距離…です…。」
斗真 :「疲労軽減も…されてる…かもな…でも…キッツイ。」
息も絶え絶えに最寄りの大きな街―イヴォニアーに辿り着き、カレンは魔術師ギルド証を提示し街中へ向かう。
カレン :「ッハァ…ハァ…トーマさんは…門番に…報告を…。私は…ギルドに…応援依頼します…。」
斗真は片手を挙げて了解の意を示す。
座り込み、一歩も動けない体の斗真に対し、徒歩移動が多いファンタジー世界の人たちは健脚だ。
カレンは通行料を支払い、ギルド証を見せると、街の中へと走っていった。
門番 :「君、大丈夫か?」
斗真 :「ハイ…一応…。」
斗真は事前に貰ったポーションを飲んで一息つき、見た範囲で事の次第を伝えた。
はじめは門番も真偽を訝しんでいたが、魔術師ギルドのマスターやケインの名を出すと法螺ではないと思ってくれたらしい。
門番 :「ライノさんのことはこの街でも聞き及んでいるよ。彼の使いか…。
俺は隊長に報告に行くから、君は休んでいるといい。
フィッシャー、彼を頼む。」
フィッシャーと呼ばれたもう一人の門番は、市門に付随する屯所まで肩を貸してくれて斗真を椅子に座らせた。
連れの女性が戻ってきたら声をかける、と言い任務へと戻っていった。
斗真 :「…10年分走った気がする…。 今年の校内マラソン大会は辞退するわ。」
WW :「電車とか無いしねぇ。」
斗真 :「あのさ…不死族ってゾンビやグールなんかより上位のヤツラだよな?」
WW :「お、よく覚えていたね。」
斗真 :「俺のLvじゃ全然無理ってことは、戦闘以外の方法で解決ってことだよな…?」
WW :「ギルドマスタークラスが今戦っているかもよ?」
斗真 :「あ、そう言えばそうか…。 でもかなりの数押し寄せてたしなぁ…。」
斗真がカンドニアの状況を心配し始めた頃、外が少し騒がしくなったので明り取り用の小窓から様子を窺ってみた。
すると2人しかいなかった門前に松明が焚かれ、4人ほどの衛兵が立っている。
街の守りが強化されたのだ。
窓からその様子を見ていると扉が開き、フィッシャーがカレンが戻ってきた旨を知らせに来てくれたで、斗真は屯所から出た。
カレン :「お待たせしました、トーマさん。
魔術師ギルドから冒険者ギルドに話を共有し、討伐隊を組むことになりました。
急な話なのでどれだけ集まるか分からないのですが、ある程度頭数が揃えばすぐ街に向かってくれるそうです。」
門番 :「こちらは”夜目”魔法の持ち主がほぼいないのが響いていてな…。
それと兵を他の街へ派遣する手続きが夜では出来ないため動き出せるのは明朝からになる。」
報告から戻ってきた門番が会話に加わる。
明日先行する部隊に同乗する形で街に送り届けてくれる というので、その言葉に甘えて今夜は門番に取ってもらった宿(一人部屋×2)で休むことにした。
くたくただが、もらい湯をして体を清めてからベッドに潜り込む。
しかし、疲れた体に反し、すぐに助けには行けないもどかしさ故に妙に頭は冴えていた。
WW :「実際、プレイ時間を考えるとまだリアルは夜ではないしね。」
斗真 :「ああ、そういうことか。」
WW :「あ、そうだ。サイコロ振って。」
斗真 :「何? 急に…。 何か起こるわけ?」
WW :「ヒミツ。」
目の前にホログラムのように半分透けたサイコロが2つ現れた。
手を伸ばすと一応きちんと質感が感じられる。
六面ダイスを握りこんで3回軽く放り投げた。
出目は5、5、3、4、6、2だ。
WW :「ふうん……。 じゃあ何も起きない。」
斗真 :「は!? マジかよ。 せっかくTRPGっぽくなったのに…。
イヤでも宿屋で振るサイコロって大抵トラブルに巻き込まれるパターンだしな…。」
こうしてまんじりとしない夜を過ごしたのだった。