街を見下ろす丘で
斗真 :ホントに夕暮れになった…。WW偉大だな。
WW :感心するとこソコ?
ギルド前には若手から熟年層までいて、斗真が近づくとエレンが皆に紹介してくれる。
ライノ:「俺がギルドマスターのライノだ。今日はよろしく頼むよ。」
WW :一際長身の壮年の男性がそう言って斗真の肩にポンと手を置くよ。
斗真 :「今日はよろしくお願いします。…これで全員ですか?」
ライノ:「そうだ。じゃあ移動するか。」
ライノがポーチの床をメイジスタッフで軽く打ち鳴らすとポータルが出現した。
街から離れた打ち上げ場所にはこれで移動するようだ。
斗真たちがポータルを潜ると、街を見下ろせる小高い丘に辿り着いた。
ギルド員で事前に準備を進めていたようで、既に打ち上げ位置などが地面に印がなされている。
ライノ:「トーマはこの位置で…魔火玉に魔力を1ずつ込めてこのケインに渡してくれ。」
ケイン:「今日はよろしく。
打ち上げるタイミングは僕が計るから、トーマは気にせずどんどん魔力を込めていってくれ。」
斗真 :「分かりました。」
ケインは25~6歳くらいの、伸ばした髪を後ろで束ねたローブ姿の肉付きの良い男性だった。
人好きのする笑みを浮かべ、人当たりの良いケインと当り障りのない話をしながら花火を打ち上げていた。
斗真がよく知る花火よりシンプルのようでいながら、魔法らしい凝った演出に驚きつつも楽しんだ。
ケイン :「何だ? あれ…。」
薄闇の中の異変に、最初に気づいたのはケインだった。
街を挟んで反対側の山間から小さな赤い光がポツポツを見え出したかと思うと、その光が突然溢れたのだ。
ケイン :「マスター! 街の西側に何かいる!」
ライノ :「花火はいったん中止だ。 テッド、”遠目”で確認してくれ。ケイン、こちら側の異変は?」
ケイン :「こちら側は特に見当たらないですね。 …検知にも反応なし。」
テッド :「…不死族の襲撃です! …警備兵じゃ相手にならないな…門が破られる…っ。」
街から微かに警鐘が聞こえる。
物見の塔にいた兵が叩いているのだろう。
ライノ :「…ダメだ。 ポータルが起動しない。 潰されたか、魔法妨害がなされているか…。
皆ポーションを飲め。
カレンは助っ人連れて隣町に支援要請に向かってくれ。他は急いで街まで戻るぞ!」
カレン :「はいっ! トーマさん、行きましょう!」
打上げ時回復用のポーションが配られ、ライノによって全員に”加速”の魔法が掛けられる。
地理に疎い斗真はカレンの後をついていく形で最寄りの街を目指す。
これはWWの計らいでもあった。
斗真がカンドニアを歩いている最中に何度か顔を顰めていたためだ。
比較的街の中央寄りの、きれいな場所に出現させたとは言え、この時代、街中では放し飼いにしている豚や通行に使う馬の糞臭が漂い、風呂に入る習慣がない人達の饐えた臭いなどが現代人の鼻をつく。
卓上ゲームでは縁が無かった五感…斗真は臭いに参っていたのだ。
この状態だとゲーム上では敵を見つけて血気盛んに攻撃へ出ていたとしても、実際他者が惨殺され、臓腑や血の臭いがむせ返るような現場に出たら戦闘を前に確実に戦意喪失してしまうだろう。
WWはほんの一時ではあるがそこから斗真を引き離したのだ。