シナリオ導入
「財布は所持品に入らないんだな。」
ウェアウィザードの和人が、斗真のワンショルダーバッグの中身を確認すると、シートに持ち物が記載されていく。
―――ゲーム内通貨が用意されているしね。今日雨予報だったっけ?―――
「にわか雨があるかもって予報があったから傘とタオル持ってたんだよ。」
―――そうなんだ…。斗真って制汗剤持たないの?―――
「あれってニオイ菌だけじゃなく、ニオイを抑える菌も殺すから、毎日使うと返って体臭がひどくなるってTVで言ってたぜ。だから1日おきで持ち歩いている。」
―――へ~。入れっ放しにしとけばいいのにマメだな~。さて、確認も終わったからシナリオの導入を説明するよ。―――
「おう。」
斗真は拡げた荷物をバッグに戻し、近くにある椅子に座った。
―――因みにこの場所で説明するのはウェアウィザードの声が聞こえるのはプレイヤーのみだからだ。今ハタから見ると斗真だけが独り言を言っているような状態になっている。街中だと周囲の人に気味悪がられるから、今後はスマホを通して状況や選択肢を提示することにするよ。説明後は少し大きな街からのスタートとなるからな。―――
「マジか。…俺から確認したいことがある場合もスマホで和人宛に連絡すれば良い?」
―――それでいい。切羽詰まっている時は今みたいに声出してくれれば応えるよ。―――
「分かった。」
文明の利器がテーブルトークRPGの世界に介入か…。
でもこのゲームは所持品は使えるルールだしな…などと遠い目をしているうちに和人は本題に入る。
―――ここから西の方に向かうとトレニアという都市がある。更に西には大きな砂漠がある。二週間ほど前から、この砂漠で竜巻が発生するようになった。竜巻は大きさや位置はほぼ一定で、発生場所を避ければ通行は可能だが、神の怒りだの悪魔の呪いだのという噂が飛び交い、商隊が行き来を避けるようになっている。物流が滞るのを危惧したトレニアは、一度調査隊を組織して向かったがあえなく失敗する。―――
「具体的には?」
―――この辺鄙な村ではそこまでの情報は得られないね。―――
「行って調べろってことか…。」
―――そんな折に斗真のスマホに椎名からLINEが入る。―――
「は? えっホントに? ホントだ! 『カンドニアという街のアランさんを訪ねてほしい』…カンドニアって何?」
―――と言うわけで、カンドニアの街からスタートになるからね。あ、この後は俺のことウェアウィザードって呼べよな。―――
「え? ちょっ トレニアの話はなんだったの? てか佐々木と椎名もこの世界にいるのか!」
慌ててバッグを持つ斗真の姿がふつりと消えた。
ウェアウィザードの力による場面転換である。
―――2人もいるけど…同じシナリオをやっているとは限らないからねぇ…。―――
少し楽しそうな声だけが、無人の家に響いた。