ウェアウィザード
―――今斗真がいるのは、先月冒険でイゴール村を訪れた時に仮宿とした、空き家だよ。―――
「和人か? 今どこにいるんだ?」
声の主にほっとしたのも束の間、姿を見せないことに戸惑いを覚える。
―――俺はウェアウィザードだから、シナリオの世界に姿を現すことは無いよ。―――
”ウェアウィザード”というのは『モンスター・ホラーショウ』というゲームにおける審判役のことだ。
裏方になるため、表舞台には立たない。
「あのさ、『モンスター・ホラーショウ』ってVRにでもなった?? 何なのこれ? ライブRPG?」
―――いつも通りの『モンスター・ホラーショウ』と変わらないんじゃない? 現在持ち合わせている所持品をそのままゲーム内に持ち込んで、千屋斗真としてシナリオの世界に降臨する…そういうゲームだろ?―――
『モンスター・ホラーショウ』は、1991年に日本で刊行されたJ・H・ブレナンの作品だ。
ブレナンはゲームブック『グレイルクエスト』の著者として名が通っており、テーブルトークRPGの『モンスター・ホラーショウ』も冒頭はゲームブック形式でチュートリアルが行われる。
2つの大きな特徴があり、まず一つ目は”普通のテーブルトークRPGと違い、ゲーム用のキャラクターらしいキャラクターは作らない。当人が冒険者。”ということ。
なのでシートに自分で作り上げたキャラクターの名前を記入するような欄が存在しない。
ただ”学生”といった職種ではモンスターとの戦闘が難しい為、”戦士”、”魔術師”、”治療師”、”細工師”から選択することにはなる。
そして二つ目は”プレイヤーはその時着ているものを着、持っているものを持ってシナリオの中で再現される”ということだ。
「いや確かにそういうゲームだけどさ…。先月は和人の部屋でサイコロ振って遊んだはずだよな…? もしかしてこれって夢?」
―――あー斗真の夢の中なのかもね。俺はワクワクしてるよ。テーブル囲んでサイコロ振っている時より、世界の創造者!ってのが体感出来て。―――
テーブルトークRPGは概して、審判役よりも審判役が用意してくれた世界や話を冒険するプレイヤーをしている方が面白い。
だが、こんな世界なら…思った通りにモノや街が作られていくなら、審判役の方が楽しそうだ。
しかしこの時、斗真は和人のおざなりな同意の仕方が引っ掛かっていた。
(和人は何かを知っているけれど、ウェアウィザードの立場上、プレイヤーには言えない…? ”ゲームシナリオを面白くするために、敵の正体は秘密”みたいなことを抱えているんだろうか…。)
―――ひとまず斗真、手荷物検査するよー。―――
『モンスター・ホラーショウ』恒例の所持品確認に、斗真の思考は中断した。