それは帰りがけに
「何だ…? ここ…」
千屋斗真の口からは困惑の言葉が漏れた。
年季の入った木製の柱、漆喰の壁、木枠の小さな窓。
狭い部屋の角には古びた本が詰まった書棚、反対側にはいくつか開いた本やメモが散乱した机がある。
自分の部屋ではないし、知り合いの部屋でもないと思う。
確か授業が終わった時に、クラスメイトの神和人にテーブルトークRPGをやらないか と誘われた。
『テーブルトークRPG』というのは家庭用ゲーム機などのRPGの前身で、コンピュータ側が処理をするNPCとの会話やモンスターとの遭遇、ダンジョンや街の用意などを担う審判役を1人据え、戦士や魔法使いと言った職種のキャラクターを各プレイヤーが担当し、対話で冒険を進める古典ゲームだ。
和人はそのテーブルトークRPGのルールブックを古書店で買ってきたらしく、時々友人たちに声を掛けては遊んでいるのだ。
斗真を含め4人ほどが集まり、帰宅途中のコンビニで飲み物と食料を買って、和人の家に向かったはずだ。
そして和人の部屋に通されて現在に至る…はず。
―異世界転生?
ではないだろう。
いつもの見慣れた制服を着ているし、通学時に使うワンショルダーバッグも背中にある。
―異世界召喚?
でもないだろう。
この部屋には斗真1人だけだ。
まさかの異世界転移ということだろうか?
「以前来た時は和人の部屋ってこんな感じじゃなかったような…。おぉーい、和人? 佐々木?」
斗真が辺りを窺うと、真後ろにこれまたクラシカルな扉を見つけた。
「皆、向う側にでもいるのか?」
ドアノブを掴もうと手を伸ばしかけた時、
突然目の前にプレートのようなものが現れた。
「なん…?」
あまりにも素っ気ない、5列の表。
斗真はこれに見覚えがあった。
テーブルトークRPGのキャラクターシートだ。
通常のテーブルトークRPGのキャラクターシートはコンシューマRPGと同じように、”STR”や”INT”、”DEX”など、細かくステータスの数値が並んでいるものだ。
このシートにあるステータスは生命点のみ。
まるでゲームブックの冒険記録紙のような素朴さ。
だからどのゲームのシートなのかもすぐに分かった。
「『モンスター・ホラーショウ』の…俺のシート…?」
その時、頭の中に沁み込むような声が聞こえた。