う!
いつの間に眠っていたのか、目を醒ますと暗闇の中にいた。しかし拘束されているわけではない。布団が掛けられているわけでもなければ、縛られているわけでもない。ただ単純に放られていた。不意に先の場面を思い出し、悪寒が走る。
目が慣れるまでは下手に動けない。
ただ一つ確信できることだ。となれば、使えるのはそれ以外の感覚。特に聴覚。そう思って、耳を澄ます。
「あっはっは!」
「ちょっと笑いすぎですよ」
襖を一枚隔てて、隣の部屋から聞こえたのは高らかな笑い声とそれを諌めるような声。人数は……二人?
「それにしても笑えるよねー。あの驚いた顔!」
その声に何か、違和感を覚えた。
「やっぱりやりすぎですよ」
「まあいいじゃん。それに、大丈夫だって。あいつのあんな顔見たのは中学以来だわー」
やっぱりそうだ。声の高さや喋り方的に男だとは思えない。
なら、女?
和暉はその単純な導きの答え合わせをしようと、再度耳を澄ます。
「それにしてもこんなところで会うなんてなあ、和暉」
「は?」
和暉は、思わず口から漏らしてしまった。
和暉の声に気付いたのか、ばたばたと襖の向こうから足音が近づいてくる。縄で縛られているとか、拘束されているわけではない。しかし、徐々に近づいてくる足音に恐怖を覚える。闇に慣れてきた目を必死に凝らし、襖を見つめて、和暉は覚悟を決めてどっしりと座った。
覚悟は十分だ。
そして、ゆっくりと襖が開かれる。闇に慣れた目に隣の部屋の光が刺さって、和暉は思わず目を細めた。
「やっほー和暉。起きた?」
身構えた和暉に対して、明るい声。
そこに立っていたのは、幼馴染の『旭真衣』だった。
× × ×
「いやあごめん、ごめん」
笑いながら、謝る気など毛頭ない真衣は、目元を指で軽く拭うと事の経緯を話し始めた。
「本当は普通にお出迎えするつもりだったんだけどねー、ついついいたずら心がさあ……。思い出したら、あっはは!」
カーテンは完全に閉められていて、壁に掛けられた時計も、既に九時半を回っていた。和暉は久しぶりの再会でもさすがに怒りを覚えてしまう。
「というか、お前一人なの?」
襲われた時はもっといたはずだ。笑う真衣に対して、和暉は冷静に返した。
「今はね」
「今はって?」
「さっきのはうちの男バスの部員」
「男バス?」
真衣は頭を縦に振った。
「なんでそいつらが俺のことを脅かしたりしたんだ」
「協力してもらったの。思い出したら……」
そう言うと、真衣はまた笑い始めた。
何気なく、ぐるりと部屋を見渡す。リビングは全体的に整っていて、乱雑な真衣の性格とは似つかわしくない。
「そういえば、さっきまで誰かと楽しそうに話してただろ」
喉元まで来た怒りの言葉を必死に呑み込んで尋ねると、真衣は思い出したようにぽんと手を叩く。
「ああ、美奈ちゃんだよ」
「美奈ちゃん?」
「うん、そう。恥ずかしがり屋さんなんだよねー。和暉の声が聞こえてすぐに逃げちゃった」
「なるほど、そんな子がいるのか」
「とっても可愛いんだよ。読書家でさー……」
真衣は話し始めると止まらない。
和暉は仕方なく黙って聞き続けた。
他の作品も考えているので、評価があれば続けようと思います。よろしくお願いします。