リセット(1)
少々、残酷な表現がありますのでお気を付けください。
ある貴族家の三男として、その男の子はこの世に誕生した。
『レオン』と名付けられた、その男の子は所謂、天才と呼ばれる人間であった。
幼少の頃から、その才能の真価を発揮し、多くの大人達を感嘆させるようなことを成し遂げた。例として、三歳の時に『無詠唱』で魔法が使えることを世に知らしめ、その方法を五歳で確立させた。剣術においても非凡な才能を発揮し、弱冠十五歳にして王国の剣である『剣聖』の名を博した。その他にも、魔道具の開発など様々な偉業を納めた。
皆は口々に天才を褒め称えた。レオンもその栄誉に驕ることなく精進を続けた。
レオンが齢十八を迎えた時、婚約者が出来た。相手は第一王女のカレンであった。美姫と謳われたカレンは幼い頃から王宮の出入りをしていたレオンにとって、旧知の仲であり、お互いに長年好き合っていた。そのため、婚約は決められたものとはいえ、不満は無かった。
これからも幸せな人生が続くと思っていたレオンであったが、それは起こった。
戦争である。
隣国である帝国が王国に宣戦布告したのだ。当然、王国の剣である『剣聖』のレオンは行かなければならなかった。
レオンは、泣いて引き留めるカレンを優しく宥め、後ろ髪引かれる思いで戦場へと向かった。
戦場でのレオンの奮闘は、味方の士気を高め、相手を絶望させた。それほどまでに、レオンは圧倒的な力を持っていた。危なげなく、戦争に勝利し、栄誉の凱旋だといった時、王都からの伝令がレオンに一つの報告をした。
「王都陥落」
その知らせを耳にした時、レオンはまず、婚約者のカレンの姿を思い浮かべた。
レオンは愛する婚約者の無事を祈りながら、碌に眠らず、一人、強行軍で王都に帰還した。
レオンが目にしたのは、山のような死体と炎に包まれた王宮の姿であった。疲れた体に鞭を打ち、王宮に居るはずのカレンの姿を探した。
結果から言って、カレンは見つかった。
四肢を切り落とされ、白濁の男性特有の体液に塗れるという、見るも無残な状態で。
レオンは踵を返し、生存者を探した。感知の魔法を目一杯に広げ、血眼になりながら探した。
見つけた生存者に詳細を聞いた。それによると、レオン達が戦った帝国軍は囮で、本隊は王都へと攻めてきたとのことだった。レオンはお礼を述べ、生存者の元から立ち去った。その時のレオンの目には復讐の炎が灯っていた。
レオンはあることを為そうとしていた。それは、昔、カレンと王宮でかくれんぼをしていた時、偶然見つけた一冊の魔法書に書かれていたことだった。
その書物に書かれている内容は、普通の子供には理解できないものであったが、レオンは普通ではなかった。普通ではなかったことによって理解できてしまったその内容に、レオンは恐怖を抱いた。
『リセット』
その項目に書かれていた内容は悍ましいものであった。
効果は発動者の任意の時間へと、世界を巻き戻すということ。これ自体は夢があるように思ったレオンであったが、次の発動条件を見て戦慄した。
発動条件は人間の臓物で魔法陣を描くこと。大きさから推測して、延べ一万人の臓物を要する。
その書物は禁書の類だと分かり、レオンは処理に困った。レオンがカレンから隠れるために入ったのは一般的な書物がある場所で、禁書庫のような場所ではなかったのだ。
仕方なく、レオンは一旦、自分で管理することにした。厳重に魔法で鍵をかけて万が一に備えた。
そのまま時が経ち、今、レオンは復讐の炎が灯った瞳で『リセット』の項目を読み漁っていた。
内容を頭に叩き込んだレオンは馬に跨り、帝国の帝都へと向かった。
帝都に着いたレオンは、まず、帝都の城壁の周囲に自分の血で結界を張る準備を始めた。そう、中にいる人間を一人たりとも逃がさないためにである。この準備だけで一週間を要した。いくら超人のレオンと言えど、人間の血液には限りがあったのだ。
致死量限界まで血液を使い続けたレオンは、貧血気味にフラフラとした足取りで城壁の内側へと侵入した。一日休み、万全とは言えないが少し戻った体調で、殺戮を開始した。
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