朝日さんの出番はありません・・・
朝日が草刈りを黙々とこなしているころ、無元と立花は固唾を飲んで試合が始まるのを待っていた。
『それでは選手に登場してもらいましょう!』
実況の佐々木が力を込めて言う。
『赤コーナーから入場するのは学院順位第8位、風切海斗選手!二つ名に『ブラッティーウィンドウ』とあるようにフィールドを駆け回るその姿は風!今回はどんな戦いを見せてくれるのか〜〜!』
歓声と共に風切が入場してきた。
その様子は自信に満ち溢れているように見える。
『続いて青コーナーから入場するのはなんと今日転校してきたばかりの期待の新人、機龍翼選手!彼は一カ月前に能力を発現させたばかりと注目の高い選手!初めての決闘でどのような戦いを見せてくれるのか〜!』
実況の説明と共に機龍が入場してくる。
こちらは初の決闘と凄まじい数の観客に押されているのか少し硬い様子だ。
『そして今回、特別ゲスト兼解説としてなんと学院長の仙崎薫先生にきてもらっています』
そう言って学院長はマイクを持つ。
『学院長の仙崎だ。今回、決闘する両者には面白い物を見せてもらえる事を期待している。そして、会場に来ている生徒は今回の決闘で自身の能力向上につながるヒントを得られることを願っている』
そう言うと学院長はマイクをスタンドに戻し席に着く。
「学院長が公式とはいえ生徒の決闘に来るなんて異例ですね」
学院長の方を見ながら僕が言う。
学院長である仙崎薫先生はかなりの有名人だ。
学生時代に星王祭で二度の優勝を果たし、18歳と言う若さでアビリティアーツのプロ選手になった。
そして全日本選手権では三度の優勝、世界大会では三位入賞を遂げ、世界アビリティアーツ団体戦では日本を初の優勝に導いた伝説的人物として知られている。
しかし、24歳の頃に受けた怪我を理由に現役を退いて今はこれまた28歳と言う若さでこの学院の学院長をしている。実際に見たことないが能力は空間を操る能力らしい。
「そうね。やっぱり機龍のことが気になったのかしら?」
「そうじゃないですか。あの年齢での能力発現は珍しいですからね」
『今回の決闘はアビリティアーツ公式ルールに則り、10カウント制、場外20カウント制、もしくは相手の降参で勝敗を決めます。それでは選手の二人はデバイスからシールドと武器を展開して下さい』
シールドは決闘をする時は展開することが義務付けられている。
シールドは人の命を守る大切な物で展開すると体の周りに薄く貼られる。受けた攻撃の痛みや倦怠感、疲労感は体にダメージとして送られるが身体的外傷は最小限にカットしてくれる優れものだ。
武器は自由に使うことができる。
自分の能力を最大限行かせるものだ。例えば、立花の日本刀のような感じで。
「立花さん、ついに始まりますよ」
「ええ、しっかり見届けないと」
無元と立花は機龍を見守る。
『それでは、決闘〜、開始〜〜ィ!』
戦いの火蓋は今切って落とされた。
最初に仕掛けたのは風切だ。
凄まじいスピードで機龍に突っ込んでいく。
風切の能力は加速系の能力で自分のスピードを何倍も早くすることができる。それこそ人の目には追えないレベルで。
風切はそのスピードで自身の武器である鉤爪を使い機龍に襲いかかる。
機龍はなんとかその攻撃を自身の能力で防御する。
『最初に仕掛けたのは風切選手!やはり加速の能力は強いですね。仙崎先生どうですか』
『そうだな、あのスピードをあそこまで操ることが出来るのは流石学院順位第8位といったところだろう。アレだけのスピードがあるなら開幕速攻をかける意味もある。だが、あの機龍もなかなかだぞ』
そう言うと実況の佐々木が機龍の方を見る。
『機龍選手、なにやらオーラのようなものを纏ってますね。あの能力は?』
『あれは気を操っているんだろう。攻守ともにバランスのいい戦法だが今のままじゃやられるな』
仙崎先生がそんな事を言う。
『つまり、機龍選手の能力は気功系能力者と言うことですか。しかし、気功系能力は何方かと言えば弱い能力とみなされていますが』
『まあ、突飛出たことはないからな。気功系能力は弱い能力とみられやすい』
仙崎先生は肘をつきながら実況に言う。
たしかに先程から機龍はずっと風切の猛攻を受け、なんとか防いでいる状況だ。
「あれは、まずいですよ」
「翼、頑張って!」
やはり能力にも優劣はある。
立花の鋼を操る能力や仙崎先生の空間を操る能力と機龍の気を操る能力との間には計り知れないスペック差がある。
だだの拳銃とミサイルとでは威力が違うのと同じだ。
誰の目から見ても圧倒的に機龍が不利。
誰もが機龍の負けを悟り始めていたそんな時だった機龍が動き回る風切を捕まえ顔面に強烈なパンチを決めた。
パンチを食らった風切は殴られたところを抑えながら呆然としている。どうやら自分が捕まって攻撃されるとは思ってなかったらしい。
『機龍選手のパンチが風切選手の顔面にクリーンヒット!あの動きは何かの武術でしょうか?』
実況が驚いたように言った。
観客席からは大歓声が上がる。
『仙崎先生、あれは一体』
『どうやら、機龍はかなり武術を嗜んでいたようだな。あの動はかなりの使い手だよ』
フィールドを見ると機龍が風切をおしている。
「機龍くん、すごいですね!あれはひょっとするかもしれませんよ」
無元は驚いていた。
まさか機龍があそこまでやれるとは思っていなかったからだ。
「まさか、翼があんなに強かったなんて・・・」
どうやら、立花も驚いているようだ。
今もフィールドでは機龍が徐々に風切をおしていく。
「立花さん、これはありますよ!」
そんな事を思った瞬間だった。
いきなり機龍の体を守っていたシールドが弾け飛んだ。そしてその瞬間に風切が機龍に強烈な一撃を入れた。機龍は能力と体術で防ごうとするがどうやら一瞬だけ間に合わなかったらしい。機龍は腹の部 分から大量の血がでている。
急所はギリギリで避けたらしいがそれでも致命傷だ。
『こ、これはどうゆう事でしょうか!機龍選手のシールドが弾け飛んだように見えましたが!』
実況が困惑したように言う。
『見たままだろう。機龍のシールドが弾け飛んだんだ』
仙崎先生は涼しい顔でそういった。
『しかし、あの怪我。急所は外しているようだが試合中止レベルだな。だが、このまま試合をやめれば機龍の負けだ』
『ど、どうしてですか!仙崎先生!』
『公式ルールではデバイスの不調は全て選手に責任があるとされている』
『し、しかし。彼は今日、転校してきたばかりでわ・・・』
『それでもルールは変えられない。公式ルールに則っているからな』
『これは一気に大ピンチに陥ってしまった〜!機龍選手万事休すか?!』
機龍はフィールドで怪我をした腹を抑えながら膝をついていた。
「な?!」
無元は絶句した。
普通ならあんなことはありえない。
隣の立花も口を押さえて言葉を失っている。
そう、あんなにタイミングよく計ったようにシールドが弾け飛ぶなんてありえないのだ。
「あれは風切くん何か仕組みましたね」
立花に話しかけたが返事はない。
どうやら、相当ショックだったようだ。無理もない、あそこまで押していたのに戦況が一気にひっくり返ってしまったのだ。
フィールドの機龍はなんとか立ち上がる。どうやらまだ決闘を続けるようだ。
またシールドを貼り直し、停止していた決闘を始める。
風切が一気に攻める。機龍はそれをなんとか防ぐがさっきの様なキレのある攻撃はない。
誰もがまた機龍の負けを悟った。
今度は希望がないほどに。
だが、その瞬間驚くべきことが起こった。
『こ、これは!機龍選手の体が青く輝いている⁉︎ 一体?』
『気の量が一気に増えたんだろう。窮地に立たされて力が覚醒したんだ』
少し興奮ぎみの仙崎先生が答えた。
機龍はそのまま風切を殴り、第二撃を入れようとした。するとまたもシールドが弾け飛んだ。
『ま、またシールドが!』
実況が叫ぶ。
そして、風切がまたその瞬間に一撃をいれる。
しかし、バキーンと鉄が折れる音がした。
風切の鉤爪が折れたのだ。
「な、なに〜〜〜!」
そんな叫び声が聞こえた。
そして、
「ウウウォ〜〜〜!」
そんな雄叫びと共に機龍が風切の顔面をぶん殴る。
吹っ飛んだ風切はそのまま起き上がらなかった。
会場が静まり返る。
そして、凄まじい大歓声があがった。
『勝者、機龍翼!』
審判が叫ぶ。
機龍は仁王立ちしながら空を見上げている。
そして、僕たちのいる席のほうを見て親指を立ててグッとしてみせた。おそらくこの場合立花に見せたのだろう。
立花はと言うと、
「もう!心配させるんじゃないわよ・・・」
そう言いながら涙を流していた。
『まさかの、最後の最後で機龍選手の大逆転、素晴らしい試合でした。仙崎先生、どうでしたか?』
『まあ、面白い決闘だったと思うよ』
『はい、仙崎先生ありがとうございます。それでは実況は佐々木俊介、解説は学院長仙崎薫先生でお伝えしました。また熱い決闘でおあいしましょう!』
そう言って実況がおわったのだか・・・。
『は〜あ、実況、終わった〜。こんなに人数くるとか聞いてないし。緊張して吐きそ、仙崎先生は大丈夫ですか?』
『私は大丈夫だが・・・。マイクのスイッチ切れてないぞ』
『え?』
実況は最後の最後でやらかしたらしい。
そんなこんなで決闘は機龍の勝利でまくをとじたのであった。
誤字、脱字がありましたら申し訳有りません