朝日さんは別行動です
五時間目の体育を乗り越え六時間目の能力実習をそつなくこなし、なんとか今日の授業が終わった。
無元も六時間目の最初には戻ってきて授業を受けていた。
「うっぷ。まだ、ぎもぢわるいです」
「お前、大丈夫か?」
朝日は心配して声をかけた。
どうやらまだドリアンジュースから受けたダメージは癒えていないらしい。
「え、ええ、なんとか。そ、それにしても周りはこの後の決闘のことで持ちきりですね」
「ああ、そうみたいだな」
周りはこの後に行われる風切と機龍の決闘のことで盛り上がっていた。
どうやら結構な人数の人が見に行くらしい。
「僕たちも見に行きましょうか」
「俺はいいよ部活がある」
「あの部活、なんか活動することあるんですか。すでに廃部の危機じゃないですか」
「まあ、それはなんとかする」
「もう、本当にちゃんとしてくださいよ!」
「分かってるよ」
そう、一応朝日も部活に所属している。
ミステリー研究部、通称ミス研。
今時、能力関係の部活に入っていないのは時代遅れというものだが先達の先輩方が残してくれた朝日にとっては思い入れがある部活なのだ。つい二カ月前に兼部とはいうものの無元を新たに部員として加え再始動したミス研だが廃部の危機はまだ脱していない。
「別に見に行きたければ一人で見に行ってきてもいいんだぜ」
そう言うと無元は少し考えて
「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただいて見に行って来ようと思います。終わり次第部活に向かいますね」
そう言うと無元はさっそく闘技場に向かって行った。
それを見送ると荷物をバックに詰めて朝日も部室に向かった。
◇
木枯無元は闘技場に向かっていた。
(朝日さんも一緒にこれば良かったのに)
そんなことを思いながら歩いていた。
朝日さんは基本的に能力について余り興味を示さない。
今の世の中、能力者にとって能力と言うのは自分を表すシンボルみたいなものだ。
能力者の中で自分の能力向上に興味を示さない人なんてほとんどいない。
その上、決闘なんてものがあればなおさらだ。
だからこそ、朝日さんのような人物は珍しいのだ。
(まあ、朝日さん変わり者だからな〜)
そんなことを考えながら歩いていると
「ちょっと待って、無元!」
後ろから誰かに呼び止められた。
振り返るとそこには立花が立っている。
「ああ、立花さん。立花さんも闘技場に?」
「ええ」
せっかく会ったことだから一緒に闘技場まで行くことにした。
「無元、あなた。最近、アビリティアーツ部に余り来ないけど大丈夫なの」
立花が心配そうに聞いてくる。
「ああ、うん、まあ。他にやることがあると言うか、なんと言うか」
「あなたが新しく入った部活のこと?」
「うん、そんな感じ」
「あんまりそっちばかりに力を入れてたらダメだからね!あなた、一応、東星学院アビリティアーツ部の主力の一人なんだから」
立花がそう言ってくる。
一応、無元と立花は結構仲がいい。この学院入学当初からライバルとして競い合ってきた仲だ。今では立花の方が随分上に行ってしまったが今でもお互いにアドバイスなどをし合っているほどの仲である。
「そういえば、さっき風切くんと何か話しをしていたみたいだけど何の話しをしていたの?」
それを聞いた瞬間、立花の顔に少し影がさしたような気がした。
「ああ、あれね。大した話はしじゃないよ」
「本当に?」
「ええ、本当よ。ただ・・・、ちょっとつきまとわれているだけ」
「つきまとわれてるって、風切に⁈」
思わず『くん』をつけるのを忘れた。
「そんなに気にすることじゃないわよ。あれはほかっとけばいいの」
そう言いながら立花はスタスタ歩いて行ってしまった。
無元もその後を追う。
闘技場に着くと中はすでに結構な人数の人がいた。
「無元、私たちも早く席を取りましょう」
「そうだね」
そう言って空いている席に座る。
「ねえ、立花さん」
「何に?」
「機龍くんとは昔からの知り合いだったの?朝の時も昼の時も結構仲よさそうに話してたから」
「うん、小学校が同じで昔はよく一緒に遊んだの。だけどね....。中学生になって私はこの学院にきたから翼とは疎遠になっちゃって.....」
「ああ、僕たちは中学組だもんね」
能力者は中学から能力学校に入る人と高校から入る人の二種類あるが、僕たちは中学から能力学校に入った方だ。
能力のレベルにもよるのだが小学生の内から大会で優勝したりと注目されている人はだいたい、中学生から能力学校に入って能力の向上につとめると言うのがセオリーだ。
ちなみに、朝日さんも中学組だがなぜ朝日さんが中学から能力学校に通っているのかは理由を知らない。
まあ、いろいろとあるのだろう。
「私ね、アビリティアーツを始める前は自分に余り自信が無くて内気な性格だったのよ。この能力のこともあって学校ではいろいろ言われた.....。だけどね...。翼だけは、私を避けなかった。自信も無くて内気な私をいつも勇気付けてくれた。『能力があってもなくてもお前は立花明日香だろ』ってね」
「そんな時代があったんですね。今の立花さんからは想像できませんよ」
「今の私があるのは翼のおかげなのよ」
そう言って立花がほうを赤く染める。
「要するにあれですね。機龍くんは立花さんの初恋の人なんですね」
すると、立花は顔を真っ赤にして
「バ、バカ!無元!な、何言ってるの!べ、別に私は翼のことなんてどうも思ってないわよ!」
機龍のことが好きなのがもうバレバレである。
(ここまでわかりやすく反応する人も珍しい)
「そ、そう、翼とはただの友達。そ、そうよ、ただのいい友達なのよ」
そんなことをブツブツ呟いている。
「そ、そうだ!む、無元、あなた、今日は新しく入った方の部活には行かないの!」
大胆に話しをはぐらかしてきた。
「はぐらかしてもダメですよ」
「勘弁してよ〜」
立花が涙目でそう言った。
「ご、ごめん、ごめん。こんなに面白い反応するとは思わなかったから。今日は朝日さんに任せていますから大丈夫ですよ」
「朝日て昼休みに私を助けてくれた人?」
「そうですよ。昼休みに立花さんを助けたのが朝日さんです」
「へーえ、なかなか肝の座った人ね。風切がいたのにしゃべりかけてくるなんて」
「肝が座っていると言うか、変わり者人なんですよ。いろいろと」
「後でお礼も言いたいし紹介してくれる?」
「いいですよ」
そんな感じで話しをしながら決闘までの時間を待っていると
『お集まりの皆さん。大変長らくお待たせいたしました。時間になりましたので学院内公式決闘戦を始めていきたいと思います。実況はいつもお馴染みこの私、2年B組、佐々木俊介がお送り在します』
と、闘技場に設置してあるスピーカーから聞こえてきた。
「いよいよですね」
「・・・そうね」
その言葉はどことなく不安に満ちているように聞こえた。