朝日さん転校生が来ます
ジリリリリリリリリリリ!
けたたましい音の目覚まし時計によって大空朝日は眠りから目覚めた。
目覚まし時計のスイッチを切り音を止めると時間は7:00を指している。
いつも通りの時間だ。
眠い目をこすりながら学校の準備をして階段を降りリビングに入ると父の大空吾郎と母の大空明音はすでに起きて朝食を食べていた。
「おはよう」
「おう....、やっと起きたか」
「朝日、おはよう」
いつも通りの挨拶が帰ってきた。
「もう、朝ごはんできてるから早く顔を洗ってきなさい」
母は早く早くと言う感じに手をひらひらさせる。
「わかってる」
そのまま洗面所に向かい顔を洗う。
リビングに戻ると妹の鈴葉が起きていた。
「あ、お兄ちゃんおはよう。洗面所空いた?」
「ああ、空いた。お前も早く顔洗ってこい」
「はーい」
そう言いながら妹も顔を洗いに行った。
妹は朝日の通う東星学院の中等部に通ってる。
なかなか優秀な奴で中等部のアビリティアーツ部では期待のエースらしい。
ちなみに妹の能力は風を操ると言うもので昔、妹と喧嘩した時よく空に吹っ飛ばされたものだ。
朝日は席について朝食を食べる。
今日の朝食はご飯に味噌汁、卵焼きといつも通りのメニューだ。
朝食を食べていると
「なあ、朝日。このテレビで紹介されてる子お前のクラスの子じゃないか?」
そう父に言われたのでテレビをみる。
『今日の特集は今話題のスポーツ! アビリティアーツです。今年も熾烈な戦いが期待される星王祭ですが今回は注文の選手を紹介していきたいと思います。やはり前年度王者の辻宮桐人選手でしょうか。ゲストの本田さんどうおもいますか?』
『そうですね辻宮選手も勿論注文の選手だと思いますが私は東星学院の立花明日香選手を推しますね。』
立花明日香・・・。
たしかに同じクラスの奴がテレビで紹介されていた。
『彼女は東星学院でも一二を争う実力者で中学時代、名立たる大会で優勝し高校に入ってからも数々の大会で上位に食い込むほどです。今年はこの子が上がってくるでしょうね』
「朝日、この立花さん。お前と同じクラスだろ」
父が味噌汁を“ずず”とすすりながら言う。
「確かに同じクラスだけどほとんど面識なんてないよ。だいたいあの学校の序列3位とそんな簡単に喋れるわけないだろ」
3位と900位台の壁を考えて欲しいものだ。
「そうよ、お父さん。お兄ちゃんにそんなこと聞くなんて酷ってものよ。お兄ちゃんは能力についてあんま興味ないし戦うことも嫌いだもの。そのせいで学院の順位は万年下位ランカーの900位台でしょ」
いつの間にか戻っていた妹が父に言い放つ。
「まあ、朝日は昔から面倒ごとや痛い事は嫌いだったからしょうがないんじゃないかしら。私も好きではないしね〜」
母がマグカップを持ちながらそう言う。
「いいだろ別に。俺はあんまり面倒な事はキライだし痛いのも嫌なんだよ」
朝日はそう言い朝食を食べる。
食べ終わる頃には8時を回っていた。
「朝日もうそろそろ時間じゃないのか」
「わかってるよ父さん」
せかせかと制服に着替えると早々に家を出る。
ここから学校までは自転車で30分くらいだから今から行けば余裕で間に合う。
「お兄ちゃん待って! 途中まで一緒に行こう」
妹に呼び止められたので一緒に行くことにした。
ちなみに妹とは別段仲のいいわけでわないが悪いわけでもない。
兄妹としてはいい関係を築けていると思っていたりする。
「最近学校はどうなんだ?」
朝日は何気なくそんなことを聞いた。
「・・・別に普通、特に言うような事はないわ」
「そうか・・・」
「それより、お兄ちゃんはどうなのよ。このまま学院で決闘に参加しなかったらそのうちの最下位ランカーになっちゃうよ!」
最下位ランカーは1000位以下の人のことで朝日は結構ギリギリの所にいる。
「大丈夫だよ。ギリギリの所で調整してるから」
「ちなみに今お兄ちゃんは何位なの?」
「・・・」
「お兄ちゃん」
「・・・」
「お・に・い・ちゃ・ん」
「・・・968位だよ」
「も〜〜。お兄ちゃん!900位の後半じゃん!
ちゃんとしてよ〜〜」
「だ、大丈夫だよ。ちゃんと調整してるから。心配するな」
「本当? 怪しい・・・。とりあえず最下位ランカーに落ちないようにしてよ! 私のメンツにも関わるんだから!」
「俺を心配してるんじゃないのかよ!」
「もちろん、お兄ちゃんも心配だよ。だけど私、これでも部活でエースって呼ばれるくらい活躍してるのよ。その実の兄が最下位ランカーなんて知られたら私恥ずかしくて死んじゃうわ」
妹にとっては兄が最下位ランカーなのは死活問題のようだ。
「だ・か・ら、頑張ってね!」
目の前で可愛く小首を傾げる妹。
もちろんこれは演技ではあるが朝日じゃない男だったらおそらく悶え死んだことだろう。
しかしそこは実の兄。
このあざと可愛い攻撃もまったくの無力。
「はいはい、分かりました。最善は尽くしますよ妹様」
「よろしい」
そう言いながら妹はクスクスと笑う。
そんな話しをしながら二人で歩いていく、これもいつも通りの日常の風景だ。
「お兄ちゃん。私こっちの道で友達と待ち合わせしてるからまたね」
「ああ、じゃあな」
そう言って妹と別れ朝日は一人学校に向かう。
学校に着くと至る所で朝早くから能力の自主練をしている人たちがいる。
(よくやるな)
そんなこと思いながら教室に入り自分の席について机になだれかかる。
「朝日さん、おはようございます!」
木枯無元が元気よく挨拶をしてくる。
「ああ、おはよ....。なあ無元、前から思ってたんだけどなんで俺に対して敬語なんだ。同い年なんだからタメ口でいいだろ」
「断ります!僕は2カ月前のあの時から朝日さんを尊敬しているんですから!尊敬している人に敬語を使うのは当然です!」
「そうかよ、もう勝手にしろよ」
朝日の方が折れた。
まだ、2ヶ月間の付き合いではあるが分かったことがある。
こいつは一度決めたことをなかなか曲げないのだ。
「ええ、勝手にさせていただきます」
無元は嬉しそうに笑って見せる。
つくづく変な奴に気に入られてしまったものだ・・・。
「そういえば今日、転校生が来るの知ってます?」
唐突に無元がそんなことを言った。
「そうなのか!?」
そんな話は初耳だ。
転校生の情報なんて前もって通達がきそうなものだが。
「ええ、なんでも1カ月前に能力が発現したばかりだとか。それにしても不思議ですね、能力の発現は最高でも6歳までと習いましたから」
「そうだな、でも世の中例外もあるだろ」
「そう言うものですか.....。でも少し憧れませんか?」
「どうして」
「漫画やアニメの主人公みたいな展開じゃないですか」
「まあ、確かによくある展開だけどアニメや漫画とは別物だろ」
そんな話しをしていると我らが担任九童寧々先生が入ってきた。
寧々先生は学院でも人気の先生で美人というよりもその可愛い容姿に定評のある。
始業式のクラス担任発表の時は凄かった。
うちのクラスに決まった時のみんなの喜びようときたらそれはそれはもう凄かった。
男子の中には泣いて喜ぶものも何人かいたほどだ。
「ほら、みんな座りなさい。今日は大事なお知らせがあります。もう知っている人もいるかもしれませんが今日は転校生がいます!それではさっそく来てもらいましょう。どうぞ!」
大げさに“バッ”と先生が両手をドアの方にむけるとガラガラとドアが開き転校生が入ってきた。
手足がスラリと長く整った顔だち。
いわゆるイケメンと言うやつだ。
そいつは教卓の近くまで行くと黒板に名前を書き始める。
「えーと、初めまして。機龍翼と言います。みなさんよろしくお願いします!」
ハキハキそう答えるとぺこりと一礼した。
女子はカッコいいなどと言いキャッキャと騒ぎ、男子からはチッ!とかイケメンが!!とか聞こえてきたが聞かなかったことにした。
「と、言うわけで今日から皆さんと一緒に能力を学ぶ機龍翼くんです。皆さん仲良くしましょう!
丁度、立花さんの隣の席が空いているので翼くんはそこに座って下さい」
そう言われ機龍は立花の隣に座った。
意外なことに機龍と立花が普通に喋っている。
あの様子からするとお互い面識があるようだ。
「あの二人普通に喋ってますね。案外、幼馴染だったりするかもしれませんよ」
「かもな」
「それにしても今日はいつにも増して楽しい学園生活を送れそうな気がしませんか?」
「別に普通の1日だと思うけどな」
しかし、無元の予想はほどなく的中することとなるのである。