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時計のない島  作者: GALA
3/18

(3)ダイブ初日に

※用語の説明は後書きへ

「おっはよ! ミドリ」

「うあ、マユミさーん、おはよーです!」

 マユミさんは和歌山のダイビングショップのオーナーで40代半ばのカッコいいお姉さん。今回の女性参加者の中でも一番年上で、宿舎でも自然にリーダー的存在になっていた。


「ダイビング日和ですね!」

「うーん、天気はサイコー! でもちょっと風があるかな。深い所の潮流ちょうりゅう、気を付けてね」

「ははっ、私、中級だから今回の規定は20mだし大丈夫です」

「油断したらあかんよ。ま、梶さんがバディなら心配ないか。あの人はほんますごいわあ、ミドリが羨ましい」

「えっ」

「あはっ、今『あのエロオヤジが?』って思ったでしょ。ああ見えてこの業界では有名なんやから。絶対に表舞台に出ないからわからんやろうけど」

「へぇー……」

 意外だ。確かにダイビングの技術は安心できる。でもそんなに有名なほどすごい人とは知らなかった。羨ましいっていうなら変わってあげたいわ。


 *


「エントリーは僕と翠莉ちゃんが18番、隆志とサクラちゃんが19番。機材チェックするよ、いい?」

「はい」

 まあ、確かにこうしてキビキビとチェックする時はベテランイントラだよね。これが普通だと思ってた私は贅沢者なのか。

「隆志、BC見てあげて。タンク圧、いいね。ベルトはもうちょい締めようか、よし。レギュは? ウェイトもいい、と……」

「カメラの防水ケース、確認しといてね」

「はぁい」

 サクラちゃんは梶さんが自分の機材チェックしてくれてるのに隆志さんにベッタリで全然見てない……大丈夫なのか。隆志さんもちゃんと注意しなきゃダメだと思うんだけどな。

 それにしても、この日をどんなに待ち望んだか! 福岡の海も嫌いじゃないけど、やっぱりこんな綺麗な海の中の写真を撮れるなんてすごく嬉しい。ウキウキしながらカメラとケースをチェックして、ストラップや万が一を考えてカメラの命綱とカラビナをチェック。


「翠莉ちゃん、超楽しそうやな。興奮しすぎると酸素消費早いけん、気を付けて」

 小麦色に日焼けした胸板の汗を拭きながら、隆志さんがにっかり白い歯を見せて笑う。

「だってこんな超キレイな海……あ、呼ばれましたよ!」

 ボートに乗る順番が来て、重い機材を持ち上げる。さすがにこれは手伝ってはもらえない、イントラ二人はそれぞれ予備のタンクも持っているのだ。自分の分が持てなければダイビングをやる資格はない。サクラちゃんもそこはよくわかっているようで「んー、よいしょおっ、重ぉい!」と可愛い声を出しつつもたくましく船に乗り込んだ。

 

 エメラルドの浅瀬から、サファイアラグーンへ――それでも、私達中級者が潜れるのは20mがこのフェスティバルの規定。この島周辺の海はそんなに深くはなく海底まではおよそ40mで、なだらかな岩場とサンゴ礁がありそこが多くの魚影が期待できる。それに、魚を撮るだけが水中写真ではない。見上げた海面、そこへキラキラと昇るバブル、差し込む光が踊る海中の美しさ……私は魚影よりも、海の美しさそのもが好き。サクラちゃんは可愛い魚を接写するのが好き。好みは人それぞれだ。

 ちなみに梶さんと隆志さんは、午後に上級者とイントラだけでエントリーしてもっと深い所へ行くそうで、その写真を私達も楽しみにしている。


 いよいよ、私達の順番が来た。2組で一緒にエントリーするのだ。今回この大掛かりなフェスティバルの為に、地元の漁協が協力してくれているので多くの参加者は和船でバックロールエントリー、海に背を向け船のヘリに腰掛け背面着水。


 ああ、この瞬間が好き! ひんやりとした海水が、じゅわっとウェットスーツに染み入る。


 改めてマスク装着、レギュを咥え潜水。マスククリア。3m、5m……右手にサンゴ礁が広がる。わざわざ確認しなくても、花畑を飛び回る蝶のようにひらひらと魚が泳いでいる。耳抜き完了。梶さんが手でサインを作り、まずは10m付近で慣らし撮影。バブルの写真は戻る寸前にしないと酸素が足りなくなったら困るから、といつも言われているからまだ我慢。


ひらひらと泳ぐりーフフィッシュの群れ! 黄色いフエダイ、縞々のハタタテダイ。色鮮やかなウミウシに珍しい青と黄色のウツボ……なんだっけ、名前!? こんなの福岡にはいない! 魚よりバブル、なんて言ってる私でも夢中になって初めて見る魚を撮りまくってしまう。梶さんが見つけて教えてくれたのは赤い珊瑚。まだ小さいけれど、子供がバンザイしているみたいな形。梶さんは接写を超えてマクロの世界が好き。ちなみに隆志さんは海を楽しむ人物撮影が好きらしい。


 それから20mまで降下してみると、海底の砂が一部見えていた。一見手が届きそうだけれど、その差は15m以上ある。海底には大きな漁礁や沈船があるし、独特の魚や貝などが砂に潜っていたり胸ヒレを脚のように使って「歩く」魚もいる。最近では「チンアナゴ」がブームで、もしいたら見てみたいとは思うけれどなぜかその単語を口に出すのが恥ずかしい――そしてそれを言わせようとする梶さんがムカつくんだけど! 何が楽しいんだよ、このセクハラオヤジめ。

 いや、そんなことはどうでもいい。今の私と梶さんは、目の前のイソギンチャクの中にいるクマノミに大興奮だ。



 少し離れた所でサクラちゃんと隆志さんも、楽しそうに撮っている、と思っていた。ふと顔を上げると、梶さんの様子がおかしい。見渡すと二人の姿が見えない。


 梶さんが「はぐれた ごめん ついてきて」とボードに走り書きする。ドキドキしながら頷いてフィンを蹴る。少し張り出した岩場の向こうにサクラちゃんのピンク色のウェットスーツが見えた。ホッとして近付くが隆志さんがいない。サクラちゃんが異様に速くバブルを出している、おかしい! 梶さんと顔を見合わせる。


 サクラちゃんもこちらへ気付いたが、レギュに手を当てたまま動かない。思わず腕を取るとガタガタと震えている。梶さんが自分のボードを差し出し、どうした? と手でサインを作る。サクラちゃんが書いたよれよれの字に心臓が止まりそうになった――



「たかしさんが ながされた」









・バディ→ダイビングでは通常2人1組で潜る。組む相手の事をこう呼ぶ。

・BC→潜る時に着用するジャケット。タンクを固定したり浮力を調整したり。

・レギュ→レギュレーター。口にくわえ酸素を取り込む。タンクとホースで繋がっている。

・ウェイト→浮力調整のおもり。ベルトに通せる形になっていて、体重に合わせて腰などにつける。

・カラビナ→開閉できるゲートのついた金属製の環。ロープなどを固定するのに便利。

・マスククリア→マスクに入った水を、レギュレターの空気を使って追い出す。

・耳抜き→水圧で耳が痛くなるのを防ぐため鼻をつまんだりして調整する。


・その他

 ダイビングには手話のようなものがある。簡単だが必須。

 ボードは特殊な紙でできていて、鉛筆などで字が書ける。


うろ覚えな部分と進化で今はちょっと違う部分もあるかもしれませんが……


 



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