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時計のない島  作者: GALA
16/18

(16)水中写真コンクール結果発表っ!

「それでは、発表します。村中さん、お願いいたします!」

 よく冷房が効いたはずのホールは、一気に熱気が増していた。フォトコンテストは、一般の部は既に発表が終わり、私の撮ったバブルは佳作、そして梶さんのマクロレンズでサクラちゃんが撮った小さなエビのカップルが特賞に入った。大賞は遠路はるばる北海道から来た年配の男性が撮った、ナポレオンフィッシュの威風堂々たる姿。沈船を背景に泳ぐ姿はまるで戦艦大和のよう、と二コールさんからのアツい講評。

 「佳作」ではあるけれど、写真で賞状をもらったのは初めてのこと。帰ったらちゃんと現像してもらって額に入れて飾ろう。


「えー、イントラの部、特賞までの発表は以上です」

 この時点で、梶さんも隆志さんも、マユミさんも呼ばれていなかった。

 あー、駄目だったかな、とガックリ肩を落とす二人に、サクラちゃんが賞品のひとつとしてもらった、この島特産の無濾過黒糖焼酎を差し出す。

「これ、皆で飲みましょうね!」

「ありがとおおぉっ、優しいなあ、サクラちゃんは」

 サクラちゃんの笑顔にヤニ下がる梶さんとは対照的に、隆志さんは祈るように掌を組み、ステージを真剣な眼差しで見つめている。

「呼ばれるといいですね」

「うん……」

 あとは村長賞、かごしま新聞社長賞、桜島テレビ局賞、鹿児島県知事賞、審査員特別賞、そして大賞だ。


「村長賞、オーシャン島根の遠山 究さん!」

 会場がどよめく。彼は国際的な賞も取っている有名な水中写真家で、今回大賞候補だったのだ。大きな拍手が起きたのも、賞賛だけではないだろう。もしかすると自分や仲間が、と期待する興奮。本人から作品についての説明が淡々とあり、村中さんとニコールさんの講評が入る。


「かごしま新聞社長賞は、奄美ホワイトダイビング、塔花 ゆかりさん!」

 地元の入賞だからか、これは本部や島の皆さんが座っているあたりが大いに沸いた。新聞社賞だけあって盛大なフラッシュがたかれ、見ているこっちまでまぶしい。きっと、新聞の地方面を大きく飾るのだろう。感激です、と泣くゆかりさんは女性陣の中では珍しく静かで、優しいお姉さんだ。隆志さんの件でサクラちゃんが責められそうになった時、そっとサクラちゃんの肩を抱いて守ろうとしてくれた人。ステージ上でも本当に恐縮していて、作品の説明も緊張しているのか控えめだった。恥ずかしそうに席に戻ってきたゆかりさんに改めて盛大な拍手を送ると、ありがとう、と肩をすくめ笑った。


「えー、では桜島テレビ局賞は」

 何かが、ピン、と鼻先で弾けた。


「福岡ブルードア、松井 隆志さんです!」

 おおぉ! という歓声、そしてこのテーブルを中心に波紋のように広がる拍手!

「隆志さん、やった!」

 思わず握手をしたけれど、次の瞬間顔から火が噴き出した。モニターに大写しにされたのは、私が海中に身を投げ出し水面を仰いでいる所を、斜め下から撮った一枚だった。

 真っ赤な顔で登壇した隆志さんが緊張でうまく喋れないのを、司会の女性と村中さんがうまく引き出してくれる。降り注ぐ光の筋、両手を投げ出した私の姿がまるで宗教画のようですね、とコメントされこっちまで恥ずかしくなってくる。

「いいですね、この露出。透明感がよく出ています。構図も素晴らしい」

「ありがとうございます」

「この女性はバディですか?」

「あ、いえ、僕のバディではないんですがスクールの方で」

「あらぁ、どの方でしょう?」

 司会者がなぜかうれしそうに会場を見渡す。

「はぁい、この子です!」

 梶さんが私の腕を掴んで引き上げた。

「ちょっ、や、恥ずか……」

「まあ、素敵な方ですね!」

 もうっ、梶さんったら余計な事を……おずおずと立ち上がり恥ずかしながら一礼をした。拍手はそこそこに、何故か会場が笑いに包まれる……え、なんで!? それはそれで心外なんだけどっ!!

 憧れの村中さん、ニコールさんとがっちり握手をし、記念の楯と賞品を受け取った隆志さんは、テレビカメラの前でインタビューを受けた。まさか私の写真がテレビに流れるんじゃないだろうな……ヒィ、お目汚し失礼いたします、鹿児島県民の皆様。

 

「続きまして鹿児島県知事賞です――WAKAYAMA潜水、御前みさき まゆみさんです!」

「わぁっ、マユミさん!」

 嬌声を上げ飛び跳ねながらマユミさんが登壇すると、サカエさん達のテーブルから「おめでとう!」と大きな声が上がった。大きな拍手の中で披露された作品は、テーブルサンゴの上を踊る色とりどりの魚達の色彩バランスがとても素敵な、広がりと奥行きのある一枚だった。マユミさんらしい、おおらかで楽しい作品に、県の新しいPRパンフレットに採用したい、と県知事さんが大絶賛した。


 審査員特別賞は、ショップに所属していない個人のイントラで岡山県のフリーカメラマンのKさんだった。皆が「ケイさん」と呼んでいたからそういう名前なんだと思っていたけれど、アルファベット一文字を芸名のように使っているちょっと不思議なお兄さん。

 モニターに写真が映し出された時、会場がざわついた。美しく深いエメラルドの海に珊瑚だけが写っているように見えた。平凡な写真、これのどこが特別賞なんだろう……そして、すぐにみんな気付き、言葉を失う――


 現在珊瑚の白化が問題になっているけれど、この近海も例外ではない。殺伐とした色彩の中に「何か」がいた。白化した珊瑚に体の半分をのせ、それを白く擬態させた蛸。その瞳はどこか愁いを帯びていて……


「Kさんらしいな」

 梶さんがつぶやく。お祭り騒ぎだったマユミさんの時とがらりと変わってしまったその場に、思いのほかその声は響いた。

「まさかこれが選ばれるとは思っていませんでした――我々の愛する海が今、危機に面している。個人ができることは小さい、でも一人でも多くの人がこの写真を見て考えて頂けたらと思います。嬉しいです、ありがとうございます!」

 しんみりとした会場だったが、Kさんの明るい声に大きな賞賛の拍手が巻き起こった。


「さて! 最後に大賞の発表です!」


 わあっ、自分の事じゃないのにドキドキするぅー! 隆志さんと私とサクラちゃんは胸の前で両手を合わせる。梶さんは他人事のようにまるで知らん振りで、お茶を口にしているけれど。緊張してるくせに!


 司会の女性が、封筒から一枚のカードをゆっくりと引き出す。

 小さく「あらっ」と言ったところでまた、鼻先で何かがピンと弾けた! キタ!


「またもや、福岡ブルードア、梶 堅三郎さん! おめでとうございます!」


 その瞬間、ここら一体が歓喜の雄叫びに包まれた。やった! すごい、梶さん!!

「いよっ、カジケン!」

「男前!」

 照れ隠しなのか、ヒャッヒャッ、と笑い両手でガッツポーズをしながら拍手の中をスター気取りで登壇する。でもきっと、内心バックバクなんだろう。そういう人だ。


 モニターに映し出された写真に、皆が感嘆の声を上げた。何ともいえない溜息交じりのどよめき。

「やだ……」

 サクラちゃんが、顔を真っ赤にして絶句した。

 あの、2日目の餌付けの時の写真だった。色とりどりの魚が蝶々や花びらのようにサクラちゃんに群がっている。レギュレターを外し、美しく揃えた指先を差し出すその表情が……差し込む陽の光と水の煌きをうけ、なんとも色っぽく、美しく撮られていたのだ。知らなければサクラちゃんとはわからないほどに。

 ウエットスーツとBCジャケットを着たままにも関わらず、手の先からつま先までの女性らしい美しい流線型と、顎のラインにそこはかとない妖艶さが漂う。さすが……さすがだ!! 


「サクラ、なん……?」

 マユミさんがゴクリ、と喉を鳴らす。

 更に驚いたのが、私達も夢中になってファインダーをのぞいていて気づいていなかったのだが、少し後ろにウミガメが二匹通っていたのだ。龍宮城感、半端ない! サクラちゃんが乙姫にしか見えない!


 会場のあちこちからキレイ、すごいね、と声が上がる。村中さんや二コールさんから大絶賛され、嬉しい気持ちをどう表していいのかわからないのだろう、ニヤニヤしながら上を向いたり下を見たり非常に落ち着きのないおっさんである。最後、二コールさんたちには失笑されながらハグをした。


 賞品はなんと、最新の水中カメラ一式と賞金10万円、焼酎にさつま揚げの詰め合わせと麦星島特産の味噌10キロ、そしてフェリーの永久スルーパス。なんとも豪華! こりゃ帰ったら宴会だ!


 司会女性からのインタビューになると、梶さんの表情がキリッとなったような……?


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