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第6話 ラジ学事始

 シンクに沈んだ皿をすくい取って、洗剤つきのスポンジでしっかりこすっていく。

 ナポリタンでついた汚れはかなり頑固だから、ほんの少しでも残さないようにしなくちゃいけない。中学生の頃、これで何度母さんに怒られたことか。


「ピザトーストのモーニングセットで、550円になります」

「じゃあ、これで」

「はいっ、1000円を頂きまして……450円のおつりと、あとこの飴をお一つどうぞ」

「ども」


 その母さんは、食べ終わったお客様の会計をレジで打っている。ついでに飴玉をランダムでお渡しするのも、いつものことだ。


「んじゃ、ごっそさんでしたー」

「ありがとうございましたっ」

「ありがとうございました!」


 店を出ていくお客様には、しっかりあいさつ。

 喫茶「はまかぜ」、日曜の朝9時。今日も元気に営業中だ。


「朝ラッシュ、だいたいこんなところかな」

「そうね。今残ってる食器を洗い終わったら、もう上がっていいわよ」

「りょーかい」


 カウンター越しに食べ終わった食器を受け取って、水が張ってあるシンクへ沈める。あとはすくい上げて、一通り洗ってすすげばおしまい。最後に残ったコーヒーカップもしっかりと洗って、布巾でしっかりと拭けば、


「一丁あがり、っと。母さん、コーヒーと牛乳もらっていい?」

「いいよー」


 水まみれの腕をタオルで拭いた俺は、さっきのカップを手にしてコーヒーサーバーへ。熱々のコーヒーを注いでから冷蔵庫の牛乳を注げば、ちょうどいいぬるさのカフェオレの出来上がりってわけだ。


「相変わらず猫舌ねぇ」

「仕方ないだろ、ヤケドは禁物なんだし」


 母さんと軽口を叩き合いながら、カウンターを出て一番奥にある席へ。昨日もルティたちと座ったこの席は、観葉植物がいい感じで衝立(ついたて)になっていて落ち着ける場所だった。


「んくっ……ふうっ」


 ひとくちカフェオレを飲んで、深くため息をつく。

 こづかい稼ぎための、いつもの休日の朝。そのはずなのに。


「いつもと変わらない朝、なんだよな」


 昨日、異世界から来た女の子――ルティが座っていた真向かいの席を眺めていたら、自然とそんな言葉が口をついて出た。


 赤坂先輩の家から帰ってきたのは、夜の9時過ぎ。いつもだったらゴールデンタイム真っ只中ってことで日付が変わる頃までラジオを聴くのに、俺はそのまま布団の中へふらふらと潜り込んだ。

 いろんな事がありすぎて疲れたっていうのもある。でも、それ以上に本当にルティと出会ったことが現実だったのかどうか、出会ってからのたった数時間のことを何度も思い返していた。


「現実だよな、やっぱり」


 洗い場の水は冷たかったし、飲んでいるカフェオレもほんのり温かい。夢や幻だったらそれで簡単に覚めるだろうけど、目の前の席で美味しそうにトーストを食べていたルティの姿は鮮明で、とても空想のものだなんて思えない。何より、俺が様子伺いで送った朝一番のメールに、


『ルティちゃんなら、あたしの隣で寝てますよ』


 ドヤ顔の絵文字とルティの寝顔プラス自撮り写真まで付けて来やがった有楽の返信を見れば、現実なんだってことは十二分にわかる。

 だけど、それでも、


『我、エルティシアが可憐な声に祝福を捧げよう』


 背にした夕焼けで銀色の髪を煌めかせたルティの姿は、本当に現実だったのかっていう疑問を何度も湧き立たせる。それくらい、あの姿と声は印象的だった。


「いらっしゃいませ。あらっ、瑠依子ちゃん」

「おはようございます、おばさま」


 カランと鳴ったドアベルに続いて、聞き慣れた先輩の声が入口から聞こえてきた。


「おはようございます。神奈ちゃんも、昨日の……えっと、ルティさんもおはようございます」

「おはようございますっ!」

「お、おはようございます。あの……昨日は、まことにありがとうございました」


 そして、有楽とルティの声も聞こえてくる。


「いいのいいの。いい食べっぷりだったから、お姉さんもうれしかったわ」


 からから笑いながら言うけど、母さんよ、40歳に差し掛かるってのにお姉さんはどうなんだ。


「佐助なら、昨日の席にいるわよ」

「ありがとうございます」


 先輩の声に続いて、3つの足音が近づいてくると、


「わっ、ほんとだ」

「おはよう、松浜くん」


 観葉植物の陰から、赤坂先輩と有楽がひょっこりと現れた。


「おはようございます。有楽、物珍しそうに見るな」

「だって、エプロン姿のせんぱいなんてレアですもん」

「わたしは、おなじみかな」


 くすっと笑う先輩は、薄い青色のワンピースと白いカーディガンっていう格好。興味津々とばかりに俺を見ている有楽は、黒と赤のボーダー柄のパーカーにデニムのキュロットといった出で立ちだった。腰に緩く巻いた太めのベルトアクセントになっていて、活発そうに見える。


「さ……サスケ、おはよう」


 続いて現れたルティは、昨日の紅いブレザーと黒のスラックスじゃなく、グレーのブラウスにクリーム色のベスト、そして若草色のスカートっていうファッションだった。


「おう、おはよう」

「どうです、せんぱい。あたしがルティちゃんをコーディネートしてみたんですよっ」

「ほほう」

「うう……おもちゃにされた」


 ああ、有楽に着せ替え人形にされたわけか。


「わっ、笑うなら笑えっ。我にこのような格好は似合わないとな!」

「そんなことはありません。ルティさん、とっても可愛いですよ」

「そうは仰いますが、ルイコ嬢とカナの前では霞むも同然です」


 顔を赤らめているルティは、ちょっとふて腐れ気味。でも、


「いや、いいんじゃないか」

「なぬ?」

「ルティもしっかり可愛いぞ。有楽、グッジョブだ」

「えっ……」

「お褒めの言葉、いただきましたっ!」


 見たままのことを正直に言ったらルティはきょとんとして、有楽は俺が立てた親指に親指を立てて返してみせた。昨日のブレザー姿とは違った落ち着いた色合いは、ルティが持つ可愛らしさとスリムさをしっかりと活かしていて、肩から掛けた空色のポシェットも少し前に垂らした長い銀髪に映えている。


「でしょう?」

「は、はいっ。そうか、大丈夫か」


 先輩の言葉で、ようやくルティの表情が緩む。

 格好こそ違うけど、昨日初めてここで見せてくれたのと同じ穏やかな笑顔だった。


「んじゃま、座って下さいな」

「どもどもっ」

「ルイコ嬢、私が奥に座ります」

「わかりました」


 さっきまでの内心をごまかすようにおどけて奥の席へ詰めると、空いた隣に有楽が座って、向かいの席にルティと赤坂先輩が座る。


「お水とおしぼりをお持ちしました」


 それを見計らったようなタイミングで、母さんが水が入ったコップをトレイに載せて現れた。


「すいません。ミニパスタサラダのモーニングセットを、ミルクティーで3つお願いします」

「ミニパスタサラダと、モーニングのミルクティーを3つですね。かしこまりました」


 そして、赤坂先輩の注文ににこやかに応じてから水を置いてさっと戻っていく。見習ってはいても、俺はまだこうスマートに対応出来ない。


「もう決めてたんですか」

「わたしのおすすめメニューって言ったら、神奈ちゃんもルティさんもそれにするって」

「瑠依子せんぱいのおすすめなら、食べないわけにはいきません」

「サスケの御母堂の料理、他にも食べてみたくなってな」

「なるほどね」


 母さん特製のミニパスタサラダは、手作りのトマトソースをパスタに絡めてベビーリーフにくるんだり、添えてあるライ麦パンにのせたりして食べる女性に人気の一品。細かく刻んだパプリカと、レモン汁が味の決め手らしい。


「でも珍しいですね、この時間に来るなんて」

「朝ごはん、作りそびれちゃって」

「カナが我をおもちゃにしていたら、こんな時間になってしまったのだ」

「どの服もルティちゃんに合うんだから、仕方ないよねー」

「それでウチへか。売り上げ御協力、ありがとうございます」

「せんぱい、露骨すぎ」

「元凶が何を言う」


 そんな非難の声は一蹴だ、一蹴。


「ルティはよく寝られたか?」

「うむ。昨日は早々に寝てしまってすまない」

「いいっていいって。野宿とかで疲れてただろうし、しょうがないさ」

「ありがとう、サスケ。しかし、起きてみたら目の前にカナの顔があったのは驚いた」

「……有楽」

「し、仕方ないじゃないですか! ルティちゃんの寝顔、すごく可愛かったんですよ!」


 こいつめ、寝顔の写真を撮っただけじゃなくずっと眺めてやがったのか。


「しかも、その背後ではルイコ嬢まで我を眺めていた」

「赤坂先輩まで!?」

「だ、だって、ルティさんの寝顔がとっても可愛かったから」


 いや、わかりますけど。昨日寝入ったときも可愛かったからすっげえよくわかりますけど。


「聞いてくれサスケ。二人とも、我のことをこう褒め殺しにするのだぞ」

「いや、それって普通に褒めてるだけじゃね?」

「サスケにまで裏切られたっ!?」

「実際可愛いんだから仕方ないじゃん」

「うあぁぁぁ……」


 絶望したように頭を抱えて、ルティがうつむく。こいつの自己評価、どんだけ低いんだよ……


「ほらほらルティちゃん、機嫌直して。松浜せんぱいにお願いしたいことがあるんでしょ?」

「ほほう」

「あ、ああ」


 有楽にぽんぽんと肩を叩かれて、はっとしたルティは身体を起こすと俺に向き直ってまっすぐ瞳を向けてきた。


「サスケ、我に〈らじお〉のことを教えてくれないか」

「ラジオのことをか?」

「うむ」


 小さく頷いて、そうだとルティは応える。


「娯楽や人々の営みなどを、ひとつの場に留まらず様々な場で聴くことが出来るのは実に面白い。もし可能であれば、我の国でも〈らじお〉をやってみたいと思ってな」

「可能であれば……って、ルティの国にそういう技術はあるのか?」

「いや、一切ない」


 清々しいほどにきっぱりと言い切ったルティだけど、そこに恥じらいやためらいは全くなかった。


「やはり、サスケもふたりと同じことを言うのだな。だが、我はこう思うのだ。どうすれば出来るのかを考えるのも、また面白いではないかと」

「まあ、そりゃそうかもしれないけどさ。ラジオを送信……んと、番組を広めるほうも、受信って言って番組を聴くほうも、技術にしろ環境にしろ壁が高いんだぞ」

「全部が全部ニホンと同じようなものでなくとも、代替するものを探して作れればよい。もちろん、それは我が探して考えなければいけないことは十分わかっているつもりだ。それが出来るだけの時間を、我は十分に持っている」

「……俺に出来ることっていったら、どんな番組があるかとか、どんな風に番組が作られるかを教えるぐらいなんだけどな」

「十分だとも」


 戸惑う俺に、それで満足だとばかりに大きくうなずく。


「包み隠さず言ってしまえば、我はもっと〈らじお〉そのもののことを知りたいのだ。この世で愛される〈らじお〉とは、どういうものなのかを」

「ラジオがどういうものか、か」

「ああ」


 多分、それはルティの純粋な本心なんだろう。背筋をピンと伸ばしていたはずがテーブルに身を乗りだして熱弁しているし、瞳にも迷いがない。


「わかった。ただ、俺が休みの日とか学校が終わった後ぐらいしか時間は取れないぞ」

「それでいい」


 そう言って、ルティはにっこり笑うと、


「ありがとう、サスケ」


 また姿勢を改めてから、深々と俺にお辞儀をした。


「いや、いいって。乗りかかった船だし」

「もちろん、あたしも協力しますよっ」

「わたしも、局の見学とかで協力出来ると思います」

「カナも、ルイコ嬢もありがとう」


 俺たちの協力を、ルティは本当に喜んでいるんだろう。有楽と赤坂先輩に見せる笑顔も、とても楽しそうだ。

 でも、それと同時に疑問が湧いてくる。


 どうして、14歳の女の子がこんなに大人びた考え方をするのか。

 俺らとあんまり歳が変わらないのに、なぜそんなことを思いつくのか、って。


「ん?」


 そして、ふと違和感に気付く。


「そういえば、チビ妖精のヤツはどうしたんだ?」


 昨日、屋上でルティに再会してからずっとべったりだったはずのチビ妖精が、何故かこの場にいない。ちょっとでもルティへ気安く話しかければ、くどくど言ってくるはずなのに。


「ピピナちゃんは、瑠依子せんぱいの家でお留守番です」

「留守番か」

「はい。外に出て、迷惑をかけるといけないからって」

「わたしには、疲れたから寝たいって言ってましたね」

「せっかく、これに入ってもらってサスケの御母堂の料理をいっしょに食べようと思ったのだが……」


 残念そうに言いながら、ルティは空色のポシェットを軽く掲げて見せた。確かにそのサイズだったら、チビ妖精も快適に過ごせそうだ。


「まあ、他の人の目とかもあるからな。いくらか持ち帰りが出来るのもあるし、それを後で注文すれればいいよ」

「そんなことが出来るのか。よしっ、是非検討せねば」

「商売上手ですねぇ、松浜せんぱいは」

「商機は逃したくないタチなんだ」

「ふふっ」


 ふざけたように言う俺を、赤坂先輩はにこにこ笑顔で見つめていた。やめてください、何にも他意はありません。他意はまったくないんです。


「んんっ……で、今日はこれからどうするつもりなんですか?」

「今日は〈さっかぁ〉の試合とやらを見に行くらしいぞ」

「サッカーか」

「ほら、今日はリベルテの試合があるでしょ」

「あー、日曜日ですもんね」


 話題を変えたところで出て来たのは、案外身近なサッカーの話題。先輩たちは若葉市をホームタウンにしているN4――全日本サッカーチャンピオンズリーグ4部の所属チーム「リベルテ若葉」の公式戦を見に行くらしい。


「だったら、俺も行こうかな」

「松浜くんは高校生だから、無料で入れるわね」

「サスケも〈さっかぁ〉が何たるかを知っているのか」

「日本というか、この世界中で有名で球技のひとつだよ。一個の球をお互いの陣地に蹴り合って、網の中に入れて得点を競うんだ」

「網に、球を?」

「うーん、ざっと言うとだな」


 ルティの疑問に応えるべく、つまようじ入れから一本のつまようじを取り出してテーブルの真ん中に置く。そこから離すかたちで半分に切った紙ナプキンを小さく四角に折って、対称的に置けば即席のフィールド図の出来上がりだ。


「この真ん中を境に、まず向かい合う形で11人ずつ選手がいる。その真ん中に一個の球を置いて、合図があったら、自分がいるところとは反対側の陣地にあるこの網へボールを蹴り入れるわけだ」

「ふむ、なんとも単純な競技だな」

「攻めたり防いだりするときの戦略も見所なんだぞ」

「なるほど。それを、伝え手が〈らじお〉で伝えるというわけだな」

「そういうこと。まあ、見てもらえれば少しはわかりやすいと思う」


 実際、スポーツっていうのはまず直接見てもらったほうがいい。いくら言葉で表現しようったって、ちゃんと見ないと想像が出来ないものだ。


「3人とも、楽しんで来てくださいね~」


 と、有楽がひらひらと手を振って意外なことを言い出した。


「有楽は行かないのか?」

「午後から事務所でオーディション台本の受け取りがあるんです。今朝、マネージャーさんから電話があって」

「そっか。チャンスはしっかりと掴み取らないとな」

「ただ……すいません、再来週の日曜日がオーディションだから、来週の『ボクラジ』は収録でお願いします」

「もちろんいいぞ。その分、オーディションでしっかり頑張ってこい」

「ありがとうございますっ」


 ぺこりと頭を下げて、有楽がほうっとひと息つく。放送部に入るとき、仕事のほうが優先っていう約束を事務所と交わしたんだから、それを邪魔したりすることはない。むしろ、いろんな経験を積んでいく有楽と組んでラジオが出来るんだから、相方としては万々歳だ。


「しかし、ルティ大好きなお前には名残惜しいだろうな」

「そういう気持ちがないって言ったらウソですけど、やっぱりお仕事も大事ですから。それに、明日のラジオドラマの収録にルティちゃんが立ち会ってくれるから平気です」

「なぬ?」


 こいつ今、大事なことをさらっと言わなかったか?


「ちょっと待て、収録に立ち会うだと?」

「はいっ」

「まさか、勝手にルティを連れて行くつもりじゃ」

「まさかぁ。桜木ブラザーズから、今朝ちゃんと許可をもらいました」

「もうOKもらったのかよ……」

「はいっ。ルティちゃんには、目いっぱいあたしの演技を見てもらいますよ!」

「そ、そうか」

「えっと……だめ、か?」

「あ、いや、そういうわけじゃないんだ」


 しゅんとするルティに否定してはみたけど、第1回以上にハードになっていく物語をルティに聴かせて本当に大丈夫なんだろうか。昨日有楽が即興でやったのをちょっと見せただけで、すごくビビってたってのに……


「その収録って、明日よね。わたしも講義が無いから、いっしょに行こうかしら」

「もちろんっ! 瑠依子せんぱいもウェルカムですよっ!」

「はいっ、共に参りましょう!」

「ぜひぜひ! 部員総出で歓迎します!」


 先輩、ナイスフォローです! 


「ありがとう。実は、昨日のドラマを聴いてたら待ち遠しくなっちゃって」

「えっ」


 って、ちょっ、せ、せんぱい?


「よかったぁ、瑠依子せんぱいにそう言ってもらえて」

「我も、カナがどう演じるかが実に楽しみだ」

「……えーと」

「よーしっ、がんばらなくっちゃ!」


 まさか、先輩がそっちの方向へ行くとは……こうなったら、俺がなんとか防波堤になろう。


「お待たせしました。……あら佐助、たそがれちゃってどうしたのよ」

「なんでもねえっすよ」

「だらしないわね。まあ佐助はほっといて、お待たせしました。ミニパスタサラダのモーニングセットです」


 たそがれてる俺を放ったらかしにして、母さんは3人の前に料理が載ったトレイをテーブルに置いていった。


「おおっ、なんと色鮮やかな」

「なんだかヘルシーな感じですね」

「さっぱりしているから、朝食べるのにちょうどいいの」


 みんなが言うとおり、このセットは「見た目の鮮やかさ」「ヘルシーさ」「さっぱり感」を売りにして母さんが考えたメニューだ。野菜中心のサラダパスタにライ麦パンと、みかんのジャムがのったヨーグルトにお好みの飲み物がついて550円。ワンコインとまではいかないが、それなりにお得なメニューだ。


「サスケは、いっしょに食べないのか?」

「もう朝飯は済ませたんだ。カフェオレがあれば、それで十分」

「ならば、昼はいっしょに食べたいな」

「昼か。いいな、それ」


 そういうお願いだったら、こっちもお安い御用だ。


「スタジアムの前に露店が出るから、そこで何か食べるか」

「露店だとっ。どういうのがあるのだろうか……」

「みんなでいっしょにまわりましょうね」

「はいっ。カナも、今度はいっしょに食べに行くのだぞ」

「えっ、あたし?」

「うむ」


 突然話を振られてじゅるりとパスタをすすってしまった有楽に、ルティは当然だとばかりにうなずいてみせた。


「やはり、カナとも行きたいのだ」

「ルティちゃん……うんっ、今度いっしょに行こうねっ」

「ああ、約束しよう」


 一瞬きょとんとした有楽の顔に、ぱあっと笑みが広がる。ついさっきまで我関せずというという感じだったのが、ルティの言葉で一気に引き寄せられたみたいだ。


「……なんか、心配するだけ損だったな」

「どうしたの? 松浜くん」

「いえ、なんでもないです」


 思わずこぼれ出た言葉を、首を振って打ち消した。


 ルティは今、ちゃんと俺たちとここにいる。

 どこか大人びたルティも、子供っぽい面を見せるルティも、ルティはルティ。きっと、そういうことなんだろう。

 多分、今はそれでいいんだ。


 これから数日は、目いっぱいルティに付き合ってやろう。

 そう思いながら、俺は朝食中のみんなとこれからの予定を話し合うことにした。

Q.サッカー中継をするコミュニティFMなんて、本当にあるんですか?

A.結構あります。中には特定チームに特化した、局名にチーム名を冠した局もあったり。

 地元チームと県域FM局・コミュニティFM局がある地域の方は調べてみるといいかもしれません。

 


 ……但し、権利の都合上インターネットのサイマル放送では聴けない(=放送区域内でしか聴けない)ところもありますが。

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