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第47.5話 暴走少女と旅のはじまり

『間もなく、3番線に快速・彩津(さいづ)高原行きの電車がまいります。停車駅は東都動物公園、藤岡東峰大前、新泰平下、蔵町――』

「ううっ」


 駅のアナウンスが流れたとたん、隣にいるステラちゃんが体を震わせた。


「やっぱり、まだ慣れない?」

「そうだね。あはははは……」


 見上げながら問いかけたあたしに力なく言って「まだまだだなぁ」ってため息をつく。


「焦らなくても大丈夫だよ。ゆっくり慣れていこう」

「ありがとう、カナちゃん」


 戸惑うみたいに弱々しく笑うけれども、それでもずっと怖がってるよりはいいはず。

 あたしと同い年で、あたしよりも少し背の高い女の子。そして、フィルミアさんの妹さんでルティちゃんのお姉ちゃん。

 そんなステラちゃんとせっかく出会えたんだし、ゆっくり、しっかりと仲良くなっていきたい。


 柏壁(はくかべ)駅の朝、8時40分。

 あたしはレンディアールから来たみんなや松浜せんぱいといっしょに、合宿所のある蔵町市へと向かっていた。

 元から日本に住んでいるのはあたしとせんぱいだけだから、引率役は自然とあたしとせんぱいに。とはいっても、ルティちゃんやフィルミアさんは南高へ遊びに来るたびに電車に乗ってるし、ピピナちゃんとリリナちゃんもそのふたりにいっしょに付き添っていることもあってすっかり慣れていた。

 慣れていない子っていうと、まだ日本へ来たばかりのステラちゃんと、そのお付きの妖精さんのルゥナちゃん。ステラちゃんは初めての遠出ですっかり緊張しているみたいで、ルゥナちゃんは――


「ふふふっ。リリナねえさまのて、とってもあったかいねー」

「こら、しゃっきりせぬか。もうすぐ『デンシャ』が来るぞ」

「ルゥナねーさまもしかたないですねー。どあはちーさいんですから、ちゃんとうしろにならぶですよ」

「えー」


 人間モードでもいつも通りのマイペースさで、リリナさんの手をきゅっとにぎっていた。

 レンディアールでもこっちでものんびりまったりな感じからすると、これがルゥナちゃんの持ち味なのかも。また、あたしの膝の上でお昼寝してくれたらいいなぁ。

 そんなことを考えているうちに、あたしたちの目の前に電車がすべり込んできた。いつも乗っているステンレス製の電車とは違って、白地にオレンジと茶色のラインが入った電車には前と後ろのふたつにしかドアがない。

 そのドアが開いて、ぱらぱらと人が降りたのを確認してから乗り込むと、ずらりと両側に並んだ4人が向かい合うタイプの席はほとんどガラガラだった。


「昨日決めたとおり、家族ごとプラスあたしたちがひとりずつって感じでいいんですかね」

「そうだな。空いているから隣り合えるし、ドアに近いところにしようか」

「じゃあ、ピピナたちはこっちにすわるですねー」

「ならば、我はこちらに座るとしよう」


 ドアから近い両側の席にピピナちゃんとルティちゃんが座ると、それぞれの席にリリナちゃんとルゥナちゃん、フィルミアさんとステラさんも続いて座って最後に妖精さん一家のところにせんぱいと、


「よろしくねー」

「うむ、よろしくだ」

「ようこそいらっしゃいませ~」

「いらっしゃーい」


 レンディアール3姉妹のところに、あたしがおじゃますることになった。


「さすけとこーやってでんしゃですわるの、もしかしたらはじめてかもです」

「あー、言われてみれば確かにそうかも」

「いつも私やルティ様にカナ様と座っておりますからね」

「ピピナもリリナねえさまも、サスケおにーさんとなかよしなんだね。サスケおにーさん、ルゥナもよろしく」

「はいっ、よろしくお願いします」


 妖精さん3姉妹の席はなかなかにぎやかみたいで、せんぱいを中心にみんな楽しそうにしゃべっている。

 こうして見ていると、時々みはるんせんぱいが松浜せんぱいに『ばくはつしろ』って言ってる気持ちがよーくわかる。思いっきり奥手な松浜せんぱいだけど、誰がどう見たってハーレムだもん。

 まあ、あたしも今日は王女様3姉妹に囲まれてるからお互い様だけどさっ!

 ちょっぴり誇らしく思いながら自分のリュックを網棚に押し込んでいると、電車がゆっくり動き出して駅のホームから離れていく。


「おお……車窓を眺めながら走る『デンシャ』もあるのだな」

「なかなか見応えがありますね~」


 流れるような住宅街の風景をながめながら、窓際に座るルティちゃんとフィルミアさんが感心したみたいに声を上げる。


「これって、フィンダリゼの〈テツドウ〉にそっくりだね」

「えっ」


 感激しているふたりに対して、ステラちゃんはさらっとそんな感想を……って、『テツドウ』?


「ステラちゃん。今、『鉄道』って言った?」

「うんっ。繋げた車を〈ジョーキ〉とかいうもので動かして、鉄の棒の上で走らせるんだ。お客さんを乗せる車は、これの半分かもうちょっと小さいぐらいだけど」

「えーっと、それってもしかして『ぽーっ!』ってでっかい音を出したりする?」

「そうそう、とってもでっかい音がしてた!」


 あーあーあー、完全にビンゴ。フィンダリゼは機械が得意とは聞いていたけど、まさかSLまで作ってるだなんて。


「でも、どうしてカナちゃんが鉄道のことを知ってるの?」

「いやー……こっちだとこの『電車』の祖先がそんな感じだから」

「そうなの!?」

「なんと、フィンダリゼもそのような機械を手がけ始めていたのですか」

「そのうち、レンディアールやイロウナまで延びて便利になるんですかね~」

「いやいやいや、なんでルティもミアねえさまも平然としてるのかな!?」

「どうしてと言われましても、フィンダリゼなら確かに作りかねないと思いまして」

「ルティの言うとおり、〈デンキ〉も開発しているフィンダリゼの人々であればそういったものを作りそうですからね~」

「あー……まあ、そう言われればそうかも。フィンダリゼって、こっちみたいに見たことのない機械とかたくさんあったしねー」


 当然とばかりのルティちゃんとフィルミアさんの言葉に、そのまま納得しちゃったステラちゃん。まだ行ったことはないけれども、そこまで言わせるフィンダリゼっていったいどんな国なんだろう。まさかとは思うけど……


「もしかして、あたしたちみたいにこっちの世界から向こうの世界へ渡った人たちがいるとか?」

「おそらくですが、それはないと思いますよ~」

「ええっ!?」


 ふとひらめいたことを口にしてみたら、あっさりとフィルミアさんに否定されちゃったよ!?


「そういった力を持っているのは妖精さんや精霊様だけですし~、もしあったとしても、妖精さんたちの情報網で広まりますから~」

「ちなみに、カナたちの存在もすでに精霊大陸中の妖精さんたちに行き渡っているそうだ」

「そ、そうなの?」

「言われてみれば、ヴィエルへ向かってるときに『あたらしいともだちにあえるよー』ってルゥナが言ってたっけ」

「大陸中に多く住まう妖精たちにかかれば、しばらく時間があれば様々な情報が広まるというわけだな」

「なるほど」

「むしろ、こちらの世界で今形作られているようなものが、時を追うようにして我らの世界でも考案され始めたということなのであろう。我らの世界も〈オムスビ〉があり、こちらの世界にも〈オニギリ〉があるように」

「そっかそっか。確かに、日本にもレンディアールにもこれと似たものがあるもんね」


 ちょうどリュックの中に当てはまるものが入っているのを思い出して、あたしは席から立つとさっき押し上げたばかりのリュックから赤い網に入ったものを2セット取りだした。


「あれっ? これってミハラン……で、いいのかな?」

「そう、ミハランだよ」


 あたしが手にしているのはレンディアールでいう『ミハラン』で、こっちでいう『みかん』。見た目も味もまったくいっしょのこの果物は、日本でもレンディアールでも親しまれている。向こうだと『ミラップ』っていうりんごの食感とみかんの味を掛けあわせたような果物に使われているから、なおさらなじみ深いんじゃないかな。


「こっちだとみかんっていう名前の果物で、こうやって凍らせて学校の給食で出てきたり旅のお供に持っていったりもするんだ。せんぱい、そっちもみんなでどうぞー」

「おおっ、ありがとな」


 4つ入りの冷凍みかんを2セット持って来たから、せんぱいたちの席のほうにもおすそわけ。事務所の先輩に『旅へ出るならこれを持っていかなくっちゃ』ってオススメされて買ってみたけど、こうして持って来て正解だったかもね。


「わわっ、ミハランがこおってますよー!?」

「ミハランを凍らせて供しているというわけですか。こちらの夏場にはよき氷菓ですね」

「ねえねえ、カナ。これってルゥナもたべていいの?」

「もちろんっ。さささ、ステラちゃんもルティちゃんもフィルミアさんも食べてみて」

「へえ、ミハランって凍らせて食べてもいいんだ」

「思い返してみれば、ニホンでミハランを食すのは初めてだな」

「わたしも、ミラップばかりを食べていたのでひさしぶりです~」


 みんなに行き渡ったのを確認して、あたしも冷凍みかんをむいていく。冷凍庫から出してもう1時間半ぐらいたっているのに、氷よりも少しやわらかい冷気がじんわりと手のひらに広がってとても気持ちいい。


「じゃあ、いただきまーっす」

「我もいただこう」

「いただきます~」

「えっ? えーっと……いただきます、でいいんだよね」


 わたしに続いて、みんなも手でむいた冷凍みかんをぱくり。ひとかみすればじんわりとした甘味ととっても鋭い冷たさが口の中で広がって、


「んー、おいしい!」

「おお、これはしみわたるような味わいだな」

「なるほどなるほど~。これは心地いいですね~」


 ルティちゃんもフィルミアさんも、この冷凍みかんならではの味を気に入ってくれたみたい。隣の席のみんなも同じようにはしゃいでて……あらら、ピピナちゃんったら一気に半分も食べちゃったから、頭が痛くなっちゃったかな?


「ほんとだ。ちゃんとミハランの味がする」


 仕方ないなーと苦笑いしながら介抱してるのを眺めてから、改めて隣のステラちゃんの姿を見てみると考え込むようにしながらもぐもぐと冷凍みかんを味わっていた。

 その目つきはとても鋭くて、とても真剣で。


「ありゃりゃ、分析中かな?」

「おそらくな。ステラ姉様の習性とも言うべきか」

「ステラったら、食のことになると目の色を変えますからね~」


 あたしたちはただ、その姿をいっしょになって見守っていた。

 でも、見守ってるだけじゃなくてたまには……ごそごそごそっと。


「ん……? わわっ、ご、ごめんっ!」

「いいよいいよー。そういう凛々しいステラちゃん、あたしは大好きだから」

「なっ!? ちょっ、なんで写実機を取りだしてるのかな!?」

「もちろん、ステラちゃんの凛々しい姿を記録に残す――」

「かな、かな」


 ころころと表情を変えるステラちゃんに辛抱たまらなくなったあたしのシャツの袖が、突然くいくいと引っ張られる。


「ピピナちゃん?」


 って、どうしてむーっとした顔であたしのことを見てるんだろう。


「でんしゃのなかはしずかにですよ。しーっ、です」

「あっ。ご、ごめん」

「わかればいーんです」


 立てたひとさし指をくちびるにあてたピピナちゃんは、あたしが謝ったとたんににぱっと笑って自分の席へと戻っていった。

 か、かわいい。今の、絶対シャッターチャンスだったよね! ああっ、どうしてあたしってば見とれちゃったかな!?


「カナ、まことに反省しているのか?」

「し、してるってば!」

「ふふふっ。カナさんってば、本当にかわいいものには目がないんですね~」

「あはははは……それは否定できないです」

「熱中すると我を見失ってしまうあたり、カナとステラ姉様は似ているところがあるのかもしれないな」

「「えっ?」」


 ちょっと呆れたようなルティちゃんの指摘に、ついステラちゃんと顔を見合わせる。

 ステラちゃんは食べ物に目がなくて、あたしはかわいいものに目がなくて。


「そ、そうなのかな?」

「んー、そうなのかも?」

「ステラちゃんって、食べ物に対して真剣だったりする?」

「もちろん。カナちゃんも、かわいいものを見ると幸せだったりする?」

「それはもう」


 初めは『あれっ?』って思っていたのが、ふたりで振り返ってみればぴったりと当てはまっていた。


「だったら、たしかにあたしとステラちゃんって似てるところがあるのかも」

「ほんとだねー」


 顔を見合わせたままでいたあたしが笑い出すと、ステラちゃんもいっしょに笑い出す。

 あたしはちょっと暴走しがちで、ステラちゃんはちょっとびっくり屋さんで。生まれた世界も育ちも全然違うけれども、こうして似通ってるところがあるって思ったら、とってもうれしくなって。


「ステラちゃん。もしよかったら、この合宿が終わったらいっしょにおいしいところに行ってみようよ」

「えっと、いいの?」

「いいのいいの。その代わり、今度レンディアールへ行ったらステラちゃんがかわいいって思ったものを教えてほしいな」

「それはもちろん! ステラが思ったのなら、カナちゃんにたくさん教えてあげる!」

「ほんと? ありがと、ステラちゃん!」


 日本とレンディアール、おたがいのホームグラウンドで好きなものをめぐってみたくて持ちかけてみたら、ステラちゃんもOKを出してくれた。


「ルティとミアねえさまも、もちろんいっしょに行くでしょ?」

「よろしいのですか?」

「うんっ。どうせだったら、このあいだみたいにみんなでいっしょに出かけても楽しそうだよね」

「そうそう。フィルミアさんもいっしょに行きましょうよ」

「ふたりがいいのであれば、わたしも御相伴(ごしょうばん)にあずかりましょう~」

「ありがとうございます! それじゃあ、夏休みの後半はそれで決まりってことで!」


 そんなふたりがいっしょになってみんなとおでかけすれば、きっともっと楽しいおでかけになるはず。ここにいるふたりも、隣の席にいるみんなも、どうせだったらあたしたちのラジオに関わっているみんなも巻き込んで、もっともっと楽しくしちゃおう。


「カナちゃん。これから行く〈クラマチ〉っていう街にも、おいしいところってあったりするの?」

「もちろんだよ。蔵町市は〈栃木県〉っていう街の集まりの中にあるんだけど、駅前にはそのたくさんの街から名産品が集まっている市場があって――」


 あたしがレンディアールにまだ不慣れなように、ステラちゃんもまだまだ日本には不慣れ。不安になることもあるとは思うけど、こうやって楽しいことを作り出したり、いっしょに楽しむことで慣れていってほしいな。

 ルティちゃんやフィルミアさんが、そうやってあたしたちにレンディアールの楽しさを教えてくれたように、そして松浜せんぱいや赤坂せんぱいがルティちゃんの日本のことを教えてくれたように、今度はあたしがステラちゃんに日本のことを教えてあげたい。

 異世界から来た同い年の友達のために。そして、もっとたくさんみんなのことを知りたいあたしのために。

 これからも、あたしは自分のやりたいことをどんどん突き進んでいこう!

 本日をもちまして「異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~」は連載1周年を迎えました。これもひとえに、読んで頂いている皆様からの支援のおかげです。誠にありがとうございます。


 本来であれば月曜日に投稿予定だったのですが、諸事情がありこの日の投稿になりました。次回投稿予定は以来週月曜と、またいつものペースに戻る予定です。まだ中盤に差し掛かったところであり、これから正式な開局などなど様々なイベントが待ち受けている本作を、そして佐助やルティ、神奈とピピナたちといった日本と異世界の少年少女たちが進んでいく道を楽しんで頂ければ幸いです。


 それでは皆様、今後ともよろしくお願いいたします。

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