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第40話 異世界ラジオのしらべかた

「いらっしゃいませ!」

「い、いらっしゃいませー!」


 俺のあいさつに続いて、長い銀髪をポニーテールにまとめた女の子が隣で声を震わせた。


「おう、見かけねえ顔だな」

「今日はお手伝いなんですよ。お客様、ご注文はどうします?」

「ヒッカラと鶏肉のスープ、大熱(おおあつ)だ。俺ぁいつもコレだから、覚えておくといい」


 カウンターを挟んで目の前に座ったひげ面のおじさんが、人さし指を立ててニヤリとしながらオーダーを伝えてくる。


「承りました。ユウラさん、ヒッカラと鶏肉のスープ、大熱ひとつです!」

「ヒッカラ鶏の大熱ひとつですねー!」


 返事があった厨房のほうを見ると、小柄なユウラさんが素早い立ち回りで大鍋から小鍋へとスープを移して加熱用のかまどへと火にかけていた。普段の元気いっぱいな笑顔はそのままに、てきぱきと動き回る様子は経験を感じさせるスムーズなものだった。


「エリィ、お客様への水とおしぼりをお願いできるか?」

「うむっ。……じゃなくて、うん、わかった」


 分厚いメガネをかけて、銀髪ポニテの上から紅いスカーフを巻いた女の子――エリィは、俺が木のコップへくんだ水と冷水で絞ったおしぼりをトレイにのせると、カウンターの外に出ておじさんのところへ持っていった。


「えっと、水とおしぼり……です」

「ありがとよ。嬢ちゃんも見ない顔だな」

「は、はい。今日はサスケ……兄様とここでお手伝いなのだ……じゃなくて、お手伝いなんです」

「そうかそうか。かわいらしい店員さんが増えたもんだ」

「えっ」

「おおっ、ドンザも目ざといねえ」

「こいつの娘さんがちょうど同じくらいじゃねえか?」

「なるほど。ドンザさんが目をかけるわけだ」

「悪いか!」

「あ、あう……」

「エリィ、そろそろ戻ってこーい」


 カウンターを埋めている常連さんの会話についていけないのか、あたふたしていたエリィを手招きして中へと戻って来させた。


「はははっ、嬢ちゃんは恥ずかしがり屋か」

「すいません、今日が初めてなもんで」

「いいってことよ。にしても、兄ちゃんのほうは手慣れた感じだな?」

「俺の家が喫茶店をやってて、よく手伝っていますから。エリィはどっちかっていうとこっち側の手伝いなんで」

「そいつぁ仕方ねえな。嬢ちゃんも兄ちゃんぐらいになれるようがんばるんだぞ」

「う……は、はい」


 豪快なおじさんの笑いに、エリィが身体を縮こまらせながら小さくうなずく。

 いやー、みんな気付かないもんなんだなー……自分の国の王女様が、変装してスープ屋の店員をやってるだなんて。


 昼になる直前で、10席ある流味亭のカウンター席は満席になっていた。おととい俺たちが使った奥の個室も、今日は市場の奥様衆が貸し切ってるとかですっかり大盛況だ。


「サスケさん、お願いします」

「はーい。エリィ、トレイとスプーンを頼む」

「わ、わかった」


 エリィに用意をお願いしてから、ユウラさんがてきぱきと動き回っている厨房へ入る。鉄鍋に入った真っ赤なスープは『ヒッカラ』っていう真っ赤な実から名付けられたとおりとても辛そうだし、焼いた石でグツグツ煮えてる様は見ているだけでつばが出てきそうなぐらい強烈なビジュアルだった。


「ユウラさん、ヒッカラ大熱持って行きますね」

「あっ、サスケさん」


 鉄鍋を持とうとミトンを手にはめたところで、ユウラさんが声をひそませて話しかけてきた。


「エルティシア様――じゃなくて、エリィちゃんは大丈夫そうですか?」

「ええ、応対以外は問題ないです。すいません、いきなりこんなことをお願いしちゃって」

「いえいえ。エリィちゃんが気にするのもわかりますし、お手伝いしてくれるなら大歓迎ですよっ!」

「あははは……ほんと、ありがとうございます」


 おたまを片手に笑ってくれるユウラさんにホッとしつつ、カウンターのほうを軽く振り返るとエリィ――銀髪ポニーテールのメガネっ子に変装したルティが、一生懸命にトレイのセッティングへと取りかかっていた。


 どうしてルティが変装してまで流味亭を手伝うことになったのか。事の始まりは、早朝の散歩から戻って朝飯を食べ終わったところまでさかのぼる。

 ふたりでラジオの番組をやるにあたって、ルティはまず『試験放送中のラジオがどんな風に聴かれているのかを知りたい』って切り出した。今のところ試験放送用の無電源ラジオが配られているのは市役所や飲食店街、市場と警備隊に限られていて数も200台ぐらいとそんなに多くはない。

 その中からルティは顔なじみの流味亭を選んで、まだスープの準備をしていたユウラさんとレナトのところへと向かって事情を説明。ふたりともそこは快諾してくれて、あとは店の中で昼になるのを待つだけ……と思ったら、


『では、その礼としてユウラ嬢とレナト殿の店を手伝わせてはくれないだろうか』


 とか言い出して、俺とレナトを思いっきり仰天させた。

 俺は、ルティが突拍子もないことを言い出したことに。

 レナトは、自分が住む国の王女様からのとんでもない申し出に。

 ふたりしてあわてて止めようとしたところで、ルティとの距離が近くなったユウラさんが『本当に大丈夫ですか?』ってたずねて、自信満々にルティがうなずいてみせたことですんなりと手伝うことが決まった。

 本当なら、もっと強くルティを止めるべきだったと思う。でも、ルティの熱意は大切にしたかったし、ユウラさんへ感じていた負い目をルティなりに償おうとしたのもあるかもしれない。

 結局、俺もいっしょに手伝ってルティのサポートをすることに。まあ、ルティもうちの店でお手伝いをしているんだから、心配するほどでもないだろう。……たぶん。


「嬢ちゃん、水のおかわりをくれるか」

「はいっ、ただいまお持ちします。やはり、そのスープはかなり辛いのでしょうね」

「おうよ。ヒッカラの実がたっぷり入ってるから汗もどっぷりだぜ」


 はじめのうちは地元で初めての接客ってことでガチガチだったルティも、少しずつ『はまかぜ』でのカンを取り戻したのかしゃべりがなめらかになっていた。


「ごっそさん。勘定を頼む」

「はい、ただいま」


 手ぬぐいでねじりハチマキをしていた若い男の人が、奥の席から立って出口のほうへと歩いていく。俺もカウンターの中からそれについていって会計場へと向かった。

 いつもだったらレジを使ところだけど、こっちの世界でレジを使っているのは大手の商会やイロウナとフィンダリゼの商業会館ぐらい。多くの店は値段をシンプルにして支払いの手間を減らしたり、そろばんによく似た器具で計算したりと工夫している。


「えっと……この人は銅貨3枚でいいんだな」


 そんな中で流味亭がとってるのは『(ふだ)会計』方式。注文が入ったらメニューに対応した木札を席ごとに用意されたフックへと引っかけて、そこに書かれた値段を計算すればいいってわけだ。


「川魚と香辛料のレモンスープで、銅貨3枚になります」

「あいよ。妹さんとがんばれな」

「は、はい。ありがとうございました」


 男の人はカウンターへ銅貨3枚を置くと、ニヤリと笑って店から出て行った。

 ……バレないのか。本当にバレてないのか。

 エリィがごまかした格好といえば、長く流れるような銀髪を大きなリボンでまとめて、アヴィエラさん特製の外側ビン底・内側は度なしのメガネ風〈眼石〉をかけただけ。あとはいつもの赤い皇服を白いシャツと黒いロングスカートに替えて、バンダナと同じ赤いエプロンを身につけているぐらい。

 俺から見たら、すぐにエリィがルティってわかるんだけどなぁ……フィルミアさんと違って、ヴィエルに来てまだそんなに経ってないからか?

 そう首をかしげたところで、会計場の脇に置いてあった赤いメガホンスピーカーからハンドベルのような時計塔の鐘の音が聴こえてきた。外からも響いてきてるってことは、ちょうど12時になったってことか。


『〈らじお〉の前のみなさ~ん、お昼の12時ですよ~』

『この時間は、レンディアールの第3王女であるフィルミア・リオラ=ディ・レンディアール様と』

『わたしの友達で妖精さんのリリナ・リーナちゃんといっしょに』

『『お昼の〈しけんほうそう〉をお送りします』~』

「おおっ、始まった始まった」

「いつ聴いても、フィルミア様の声はいいねぇ」


 続くフィルミアさんとリリナさんの掛け合いに、店の中のおじさん連中が沸き立つ。やっぱり、フィルミアさんは街の人たちに慕われているらしい。


「おい、このフィルミア様の声といっしょに聴こえてくるのは誰の声だ?」

「リリナ様だよ。あの氷の妖精の」

「はぁ!? おいおい、冗談はよせよ。あの冷徹な妖精様の声がこんなに柔らかいってのか!?」

「まあ聴いてみろ。その印象、たぶん今日で全部崩れっぞ」


 リリナさんのほうはというと、やっぱり前の印象を持たれているせいか声の主だってなかなか信じてもらえないらしい。それでもファンみたいな人も出だしているってことは、少しずつなじんでいるんだろう。


『今日はとっても涼しいですね~。さっきちょっとお庭に出たら、陽射しがぽかぽかしててとても気持ちよかったですよ~』

『昨日がじりじりとした陽射しだったぶん、今日はどちらかというと過ごしやすい一日かと。洗濯物もとてもよく乾くでしょう』

『お買い物にもちょうどいい日和ですね~。リリナちゃんは、今日みたいな日だとどんなお夕飯にしますか~?』

『夜は特に涼しいでしょうから、温かい汁物などがよいかもしれません。〈らじお〉の前のみなさんは、どうか朝晩の寒暖差などで風邪を召されぬようお気を付けくださいね』

「……マジか。マジでこれがあのリリナ様の声なのか」

「市場で買い物中のところを見かけたが、店先でにこやかな笑顔を見たこともあるぞ」

「なんだそれ! この声も笑顔も全然結びつかねぇぞ!?」

「だから言ったろ、その印象が全部崩れるって」


 ふたりの会話の中で、特におじさん連中のざわめきを生み出していたのはやっぱりリリナさんだった。俺と出会った頃に見せていた、周囲を凍らせそうなぐらい冷たい雰囲気をまとっていたら、そりゃまあ今のほのぼのトークはなかなか信じてもらえないよな……


「サスケ兄様」

「お、おう?」


 スピーカーからの声に集中していたら、真横からエリィの声がしてちょこんとメガネ越しに見上げているのに気付いた。やっべぇ、なんか今めっちゃ上ずった声が出たぞ。


「追加の注文がはいりました。10番席のお客様、揚げイモのせのモロコシスープです」

「揚げイモのせのモロコシスープな。わかった」


 スープに対応した黄色の木札を、会計場の下にある引き出しから取り出して右から3番目のフックへと引っかけていく。1杯目が外でレナトが売ってる完熟トマトと焼き鶏のスープで、2杯目が川魚と香辛料のレモンスープ。そして、これが3杯目……この人、さては流味亭のファンだな?

 そんなことを思いながら、カウンターでてきぱきと動いているルティをちらっと見る。屋内向けの小さな井戸用ポンプを懸命に押し下げると、出てきた水を木のコップに注いでさっきオーダーをとった10番席のお客様へと持っていった。

 普段はストレートな銀髪をまとめてポニーテールにしているせいか、ぴょこぴょこと髪が動く様はとても可愛らしいし、戻ってくるときの笑顔を見ると店中の話題がラジオで持ちきりなのがうれしいらしい。

 突然手伝うって言い出したときはどうなるかって思ったけど、ただの思い過ごしだったか。

 と、微笑ましい姿を見送ったところでドアベルが音を立ててお客様の来店を告げた。


「いらっしゃいま……げっ」

「やあ」

「やっほー」


 ドアのほうへ振り返ってあいさつをしたら、ここ最近見慣れた人と生まれてずーっと見続けてきた人――白いワンピースを着たミイナさんと、白いブラウスとブラウンのロングスカートを身につけた母さんの姿が目に飛び込んできやがった。

 というか、ミイナさんはともかくとしてなんで母さんがここにいるんだよ!


「おおっ、これは精霊様じゃねえですかい!」

「えっ、精霊様ですかっ!?」


 おじさん連中から上がった声を耳にしたのか、ユウラさんがおたまを持ったまま厨房から飛び出してきた。


「いらっしゃいませ。流味亭へようこそ!」

「久しぶり。ボクの娘たちからここがおすすめだって聞いたから来てみたよ」

「ありがとうございます。あの、今個室は空いてないんですけど……」

「普通の席でかまわないよ。ね、チホ」

「ええ、もちろん」


 ちらりと見上げるミイナさんにうながされて、隣に立つ母さんがにっこり微笑む。そして、一瞬俺のほうを見ると片目をつむってみせた。


「では、こちらへどうぞ。サスケさん、エリィちゃん、お水とかの用意をお願いします」

「わ、わかりました」

「は、はいっ」


 わくわく顔のユウラさんとは対照的に、あっけにとられていた俺とルティはあわてて言いつけられたことに取りかかり始める。

 俺はユウラさんが開店前に一本一本手で絞っていたおしぼりとスプーンをふたり分のトレイにのせて、ルティは井戸から木のコップへと冷えた水をくんでいく。それもトレイにのせていっしょに持っていくのがルティ――エリィの仕事ではあるんだけど、


「どうする?」

「えっと……お願いできるだろうか」

「わかった」


 思いっきり強張っている顔を見てたずねてみたら、案の定震えた声で俺に仕事を振ってきた。この様子を見るとルティも来るって知らなかったみたいだし、仕方ない。

 そのままルティに水をトレイへのせてもらって、俺はカウンターを出てから一番奥の11番席・12番席に座るふたりのところへ向かった。


「いらっしゃいませ。水とスプーン、そしておしぼりです」

「ありがとう。キミ、ここは初めて?」

「ええ、今日が初めてです」

「その割には、ずいぶん慣れてるよねぇ」


 ニヤリと笑いながら、ミイナさんが楽しそうに声をかけてくる。この人、全部わかってておちょくりに来てるな……


「元々こういう手伝いをしていたもので。こちらの板がお品書きになっていますから、決まったら呼んでください」

「ああ、それは決まってるんだ。おまかせ3種スープと、食後に甘茶と牛乳のテミロンスープで。チホもそれでいいんだよね」

「もちろんっ。リリナちゃんおすすめなら飲まなくっちゃ」

「というわけで、同じ注文をふたり分で。よろしくね、新人さん」

「ユウラさんのおまかせ3種スープと、食後に甘茶と牛乳のテミロンスープをそれぞれ2人前ですね。承りました、ゴユックリオマチクダサイマセ」


 最後までおちょくりに来たミイナさんへ、俺はつとめて明るくわざとらしく言ってからカウンターへと戻った。あのふたり、絶対俺たちのことを見に来やがったな!?


「ユウラさん。おまかせ3種と食後にテミロンをそれぞれ2つずつです」

「おまかせ3種とテミロンを2つずつですね。わかりましたっ!」

「あぅ……」


 そのまま厨房へ入ってオーダーを伝えると、上機嫌でお鍋の中をぐるぐるかきまわしているユウラさんとそのそばで震えているエリィの姿があった。


「さ、サスケは知っていたのか?」

「知るわけねえだろ。母さんがこっちに来たのも今知ったよ」


 メガネの隙間から見上げる赤い瞳は震えていて、ルティが全く知らなかったことを表している。俺たちが日本からヴィエルへ移動するとき、ミイナさんは『もうちょっとチホのごはんが食べたいからあとで行く』とか言ってたけど、こっちへ連れてくるためにわざわざ残ったってことか?


「えっ。サスケさんのお母さんって精霊様なんですか?」

「そうじゃなくって! ……いっしょにいた黒髪の女の人がいましたよね。あの人が、俺の母さんなんです」

「そうなんですか! それじゃあ、たっぷりおもてなししないとっ」

「本人が舞い上がって仕方ないんで、いつも通りにしてください。できれば、精霊様にも」

「えー……でも、確かにそのほうがいいですね。わたしとレナトさんのスープで、いつもどおりに勝負します」

「それでお願いします」


 少し残念そうだったけど、ユウラさんはすぐに納得してくれた。感激屋さんなところがあるユウラさんだから、このまま止めなかったら大盤振る舞いもしかねない。


「しかし、どうしてチホ嬢が?」

「さあな。俺たちをビックリさせたかったんじゃないか?」


 いちばん奥の席――厨房から見ればいちばん手前の席にふたりがいることもあって、ルティも俺も小声で言葉をかわす。母さんはいつも通りだし、ミイナさんもリリナさんやピピナ以上に子供っぽいところがあるから、このふたりならやりかねない。


『さてさて、今日の〈らじお〉講座には飛び入りのお客様がいらっしゃっています~。わたしたちが住むレンディアールの王妃様で、わたしのお母様でもあるサジェーナ・フェリア=ディ・レンディアール様ですよ~』

『みなさん、フェリア農園のジェナが帰ってきましたよー! ヴィエル出身のサジェーナ・フェリア=ディ・レンディアールでーすっ!』

「「なっ!?」」


 さらにラジオのスピーカーから流れてきたのは、ルティのお母さんでこの国の王妃様・サジェーナ様の聴き慣れた声だった。


「おいおい、ジェナの声まで聴けるのかよ!」

「間違いねえ、これはあのおてんば娘のジェナだ!」

『先日帰省されてから見学にはいらっしゃっていたのですが、今日は〈らじお〉に参加してみたいとのことでしたので共に座っていただいています。サジェーナ様、よろしくお願いいたします』

『よろしくっ。やっほー、チホ、ミイナ、聴いてるー?』

「聴いてるわよー」

「まったく、ジェナったらすっかりはしゃいじゃって」


 応えるようにして、誰もいないラジオのほうへひらひらと手を振る母さんとミイナさん。そうか、本命はそっちだったか!


「チホだと?」


 ため息をつこうとしたところで、ヒッカラスープをほおばっていたドンザさんが母さんたちのほうへと鋭い視線を向けた。って、なにか因縁でもつけようってんじゃ――


「まさかおめえ、あの『嵐が呼んだチホ』か!?」


 は?


「あら、懐かしい呼び名。そういうあなたはどちら様かしら?」

「忘れたのか! 俺だよ、木工職人見習いだったドンザだよ!」

「ドンザ……ああ、あのガリヒョロドンザ!? まあまあ、すっかりたくましくなっちゃって!」

「その呼び名も25年ぶりだな! ったく、いきなり消えたと思ったらいきなり帰ってきやがって!」

「なんだって?」

「あんた、あのチホなのか!? だから精霊様といてジェナが呼んだのか!」


 ドンザさんが豪快に笑ったとたん、座っていた他のお客さんのうち何人かが母さんのほうへと視線を向けた。

 ……えっと、どういうこと?


「今日もミイナが連れてきてくれたのよ。もう、みんな年取っちゃったのね」

「てめえも人のことを言えるかっつの! しかし、こいつぁめでてぇ。おーい、兄ちゃん嬢ちゃん! 景気づけにヒッカラもう一杯だ!」

「こっちもテミロン追加で!」

「なら俺はレモンスープを頼む!」

「は、はいっ、ただいまっ! エリィ、手伝いは行けるか?」

「し、仕方あるまい。我も……えっと、私もできるだけ手伝います」


 ふたりの来店でいきなり沸き立つ店内に、俺とエリィは否応なく巻き込まれていく。

 本当ならお客さんたちがラジオを聴いているときの反応を見たかったはずなのに……どうして、どうしてこうなった!


 *   *   *


「えーっと……ふたりが働いてるっていうのと、ジェナがラジオをやりたいって言ってたから、お昼ごはんついでにラジオが聴ける流味亭さんへ行っただけなのよ?」

「ボクは悪くないよ。おいしいごはんが食べたかっただけだもん」


 その張本人ふたりを、昼営業終わりの俺とエリィ――変装を解いたルティの手で時計塔へと連行して、応接室で問い詰める。

 珍しいことにほんのちょっと、本当にほんのちょっと申しわけなさそうにしている母さんのとなりで、ミイナさんは俺から顔をそらしながらほっぺたをぷくーっとふくらませていた。


「俺とルティがどうして流味亭にいたのか、その理由は誰にも聞いてなかったのか?」

「それは聞いてた。聞いてたから普通こそお客さんとして入って、サスケとルティちゃんにも他人みたいに接したじゃない」

「それでアレじゃあ、意味がないんだって……」


 言い訳する母さんの姿を見ていて、本気で頭を抱えたくなってくる。

 本人には全く悪気はなかったっていうのはわかってる。わかってはいるんだけど、さあこれからってところでラジオそっちのけにされたら……なぁ。


「つーか、なんで母さんがこっちの人たちと顔見知りなのさ」

「昔、ジェナとミイナがうちに来たでしょ。その泊めたお礼にって、あたしもこっちでの1ヶ月間泊めてもらってたの」

「その時は、まだニホンとヴィエルの道が開いていたから。ボクがこっちへ連れてきて、いろいろ案内したんだ」

「なんかもう、母さんってこっちでもたくさん秘密を抱えてるんじゃ……」

「も、もうないわよ! あとはヴィラちゃんのお母さんとも遊んだことがあるぐらいで!」

「イロウナのお偉いさんとも面識あるのかよ!」

「あの頃はまだ見習いさんだったの!」


 とんでもない情報をしれっと出してくるあたり、やっぱり母さんはいろいろやっていたらしい。でも、これだけ必死だってことは信じていいだろうし、改めて考えてみれば母さんだって悪気があって店に来たわけじゃない。たまたま面識がある人がいたから、たまたまああなっただけで。


「はぁ……わかった。今回は不可抗力ってことにしとくよ」

「でも、ごめんね。結果的に佐助とルティちゃんの邪魔をしちゃったのは事実だから」

「チホは別に悪いことはしてないんだし、ボクは謝らなくていいって思うんだけどなー」

「ミイナさんの言うとおりですね。母さん、俺こそごめん。やつあたりなんかしちゃって」

「ううん、いいのよ。あたしもはしゃぎすぎてた」


 申しわけなさそうに力なく笑って、母さんが首を横に振る。

 ふたりはラジオから呼びかけられてついつい反応しちゃっただけだし、ミイナさんの言うとおりそれは全然悪くない。冷静になれば、俺がやってたのはただのやつあたりでしかなかった。


「それで、母さんはいつまでここにいるんだ? あと、父さんは?」

「あたしも佐助たちといっしょに帰るわ。ジェナもミイナも、向こうでラジオの収録が見てみたいって言うから。文和さんは、プロ野球のオールスター戦で実況に集中したいから今回は見送るけど、どんな風に作られてるのか興味があるから必ず見に来るって」

「そっか。じゃあ、みんなにも今度大先輩が来るって伝えておかないと」


 すっかりいつもの調子に戻った母さんが、うれしそうに父さんとのやりとりを教えてくれた。最初はビックリしていた父さんもルティやピピナをすぐに受け入れてくれたんだから、来てくれるならとっても大きな助けになるはずだ。

 でも、


「……まあ、全てはルティのお説教が終わってからだけどさ」


 応接室の片隅で仁王立ちになっているルティの気持ちが鎮まるまでは、おあずけにしておこう。


「母様、リリナから聞かなかったのですか。ラジオをやっている最中は、緊急時でもない限りは突拍子もなく外部の特定個人へ呼びかけてはいけないと」

「そ、それは聞いてたわよ。でも、ちょ~っぴり気持ちがたかぶっちゃって……」

「聞いていたんですね?」

「……えっと」

「聞いていたんですね?」

「……はい」

「聞いていたのに、あのようにはしゃいでしまったのですか」

「……はい」

「はぁ……母様、くれぐれも遵守していただきますようお願いします。多くの人たちが〈らじお〉を耳にする以上、いただいたお便りを読んだり話の流れで出てきたりでもしない限りは『どうしてその人が呼ばれたんだ?』と引っかかりを覚える人も出てきかねないのですから」

「……ごめんなさい」


 紅い皇服に着替えたルティの目の前で、サジェーナ様が見下ろされるようにしてカーペットの上で正座している。後ろ姿でルティの表情までは見えていないけど、硬い声色からして相当怒っているっぽい。


「ルティちゃんって、あんな風に怒るんだ」

「ボク、ルティが怒るのって初めて見たかも」

「今日の視察、ルティがすっごく気合を入れてましたからねー……」


 早朝散歩で俺と番組をやるって言い出して、あれよあれよという間に流味亭での潜入視察の段取りを整えて変装までしていたんだから、その気合の入りっぷりと言ったらこっちまでやる気にさせてくれるものだった。

 俺と同じようにやつあたり気味なところはあるかもしれないけど、そうでもしないと怒りのやり場がないんだろう。


「それでは復唱してください。『今後二度と、はしゃいで特定個人へ呼びかけたりしません』」

「えっと……『今後二度と、はしゃいで特定個人へ呼びかけたりしません』っ!」

「本当ですか?」

「本当です!」

「大地の精霊様に誓いますか?」

「はいっ、ミイナにしっかり誓います!」

「ボクに誓われても困るんだけど?」


 いきなり話題に出されたからか、困惑しているミイナさん。ピピナとリリナさんも受け継いでいる長い耳と透明な羽がへにょんとたれてるのを見ると、本気で戸惑っているらしい。


「では、今後はこのようなことがないようにお願いいたします」

「わかったわ。明日のお昼はおとなしくこっそりと流味亭に――」

「か、あ、さ、ま?」

「じょじょじょじょ冗談よっ! 邪魔しませんっ! 時計塔でおとなしくしてますっ!」


 ルティがずいっと前屈みになりながら、今まで聞いたことがないくらいドスの利いた声でサジェーナ様へ釘を刺した。後ろ姿で顔は見えなくても、この声だけでとんでもなく怒ってることはひしひしと伝わってくる。


「〈らじお〉に出るなとまでは言いません。ですが、今後はあのようなことは謹んでください」

「わかりました……はぁ~。でも、まさかルティがこんなに主張するようになるなんて、お母さんとってもうれしいわ~」

「なっ!? か、母様っ!?」


 しゅんとなって答えたと思った瞬間、サジェーナ様はがばっと立ち上がるとルティのことを思いっきり抱きしめてすりすりとほおずりしだした。


「まことにわかっているのですかっ!?」

「大丈夫よ、ルティが嫌がることはしないから。それ以上に、引っ込み思案だったルティがこういう風に主張してくれるのが、もーうれしくてうれしくて!」

「むぅぅぅぅぅぅぅ!?」

「ジェナ、ジェナ。それ以上やるとルティちゃんが窒息するわよー」

「いくらその洗濯板でも、やっぱり強く抱きしめないほうがいいんじゃないかな」

「なっ、誰が洗濯板よっ!」

「我は洗濯板ではありませぬ!」

「ルティには言ってないよ?」


 しれっと爆弾をぶっ込んでくるのはやめてください、ミイナさん。ああでも、そう言われてみると……確かに親子だね。うん。フィルミアさんも含めて。


「まあ、これで一件落着ってことでいいよね。サスケもルティも」

「ええ、俺のほうは大丈夫です」

「母様がちゃんとわかっているのであれば、我も大丈夫なのですが……」

「その点については、ほんとーに深く反省してます」

「む、むぅ……母様ってば、そうやってごまかしてもだめですからねっ」


 腕の中から抜けだそうとしたルティをしっかりと捕まえて、ルティの身体をくるりと反転させたサジェーナ様が背中越しにぎゅーっと抱きしめる。むくれてみせるルティではあるけれども、顔が真っ赤なあたり満更でもなさそうだ。


「それじゃあ、3人とも入っておいで」

「は、はい~」

「あの、エルティシア様。大丈夫ですか?」

「さすけ、もうおこってないですか?」


 ミイナさんが入口のほうに声をかけると、ドアが開いてフィルミアさんと執事服姿のリリナさん、そしてお留守番をしていたメイド服姿のピピナが入ってきた。

 有楽と赤坂先輩、それに中瀬の姿がないのはスタジオで次の番組をやってるからか。


「ああ、もう怒ってないよ」

「それならよかったです」

「我も一応はな。明日もあるからそこで挽回できるであろうし、今日も少しは〈らじお〉がどう聴かれているかを垣間見ることができた」

「ならばよいのですが。チホ様と母上の行き先を存じておりましたので、サジェーナ様がはしゃいだ時にはさすがに驚きました」

「まあ、今回限りと約束していただいたし心配はなかろう」

「約束したわよー」

「はあ……サジェーナ様は、まことにお変わりないのですね」


 仕方ないなとばかりに、リリナさんがため息をつく。フリーダムなミイナさんとサジェーナ様が相手じゃ、生真面目なリリナさんでも手に余るんだろう。


「サスケさんも、ルティのお手伝いをありがとうございました~。少しは様子が見られたということですけれども、お店はどのような感じでしたか~?」

「お客さんたちみんな、フィルミアさんとリリナさんの声が聴こえてきたとたんにラジオに興味を向けてましたよ。ふたりの声があの時間になじんできているみたいです」

「まあ~……わたしとリリナちゃんの声がなじんできましたか~」

「サスケ殿。その、私の声は客人たちにどうとらえられていたのでしょうか?」


 頬に手をあてて、うれしそうに笑うフィルミアさん。その一方で、リリナさんは少し心配そうに俺へとたずねてきた。


「そのまま伝えてもいいですか?」

「ぜひとも」


 真剣な瞳を向けて大きくうなずくってことは、今の自分の声がどう聴こえているのか気になるんだろう。だったら、包み隠さず正直に言おう。


「この間までと今のギャップ……えっと、印象の差が激しくて、なかなかリリナさんだってわからない人もいましたね」

「ううっ」

「でも、ゆったりとしたフィルミアさんのトークとリリナさんのやわらかいトークが合わさってるってなかなか好評でした。なあ、ルティ」

「うむ。リリナの声だとわからなかった客人へそなたの声だと嬉々として教えていた客人も見られたし、好ましい印象を抱かれているのは間違いない」

「まことですか!」

「だからいったじゃないですか。いまのねーさまは、とってもやさしーってピピナもわかってるですよ」

「そうか……よかったぁ」

「前のリリナからは考えられない喜びかただね」


 ほっと胸をなで下ろすリリナさんへ、母親であるミイナさんがからかうように声をかける。でも、リリナさんはやわらかい表情のままミイナさんのほうを向くとにっこり笑ってみせて、


「以前の私は、自らにも他人にも厳しく律することを強いて参りました。それが全て間違いだったとまでは言いませんが、ピピナやエルティシア様を始めとして多くの方へ負担をかけていたのは事実。近頃は心を穏やかにするよう務めていたとはいえ、その心がけが街の方々へと伝わっているのかが心配だったのです」

「リリナってば、やりすぎなぐらいに従者の道を突っ走ってたからねー。でも、その心境に至ったならもう安心してもいいかな」

「ええ。皆様といっしょに〈らじお〉に携わることで、私も自信を持つことができました」


 ミイナさんの安心したような言葉にも、今のリリナさんならではの凛々しさと優しさを兼ね備えた笑顔で素直に応えていた。


「まあ、もっともっとがんばりな。ボクもリリナとピピナの〈らじお〉を楽しみにしてるから」

「はいっ。皆様といっしょに精進いたします」

「ピピナも、ねーさまとみんなとがんばるですよっ!」

「珍しいわね。ミイナがお母さん風を吹かせるなんて」

「うるさいなぁ。娘にべったり抱きついてるジェナに言われたくないよ」

「これもひとつの親子のありかたよー」

「か、母様。だからほおずりはやめてくださいっ」

「ふふふっ。ふたりとも、母親になっても相変わらずなんだから」


 リリナさんとミイナさん、そしてルティとサジェーナ様のやりとりを見ていた母さんがからからと笑いながら感想をぽつりともらす。

 ある程度距離を取ってるミイナさんと、スキンシップが大好きなサジェーナさん。母さんの場合は、どっちかというとふたりをミックスさせたような感じか。

 この3人がラジオ番組を持ったら面白そう……なんて一瞬口から出かかったけど、それこそやりたい放題になりそうだ。うん、ここは飲み込んでおこう。で、代わりといっちゃなんだけど、


「あの、サジェーナ様。初めてラジオでしゃべってみてどうでした?」


 初めてスタジオでしゃべったサジェーナ様へ、番組に出た感想を聞いてみることにした。


「最初はしゃべってることがちゃんと伝わっているのかよくわからなくて、どこまで話していいのか手探りだったかな。でも、ミアとリリナちゃんが導いてくれたおかげで最後まで楽しく話せたわ。サスケくんとルティは、わたしの〈らじお〉を聴いてみてどうだった?」

「俺も、最初っから楽しそうだってのが伝わってきました」

(わたくし)は、このようにはしゃぐ母様の声を初めて耳にいたしました。中央都市での演説などで聞く母様の声はよく通り、まっすぐなものでしたから……やはり、故郷へ帰ってきたからですか?」

「それもあるけど、ただの雑談じゃないのも大きかったわね。ミアもリリナちゃんも聴いてくれている人を意識していたみたいで、最近の街のこととか新しいお店のことまでいろんな話題を振ってくれるから、最後まで楽しくお話できたの」

「そう言っていただけて、わたしも安心しました~」

「身に余る光栄です」


 満足そうなサジェーナ様の姿に、フィルミアさんとリリナさんもほっとした様子。もしトーク番組をやるとしたら、やっぱりこのふたりに任せたい。


「〈らじお〉でしゃべるのって、なんだかくせになりそうね……みんながのめり込むのも、よーくわかるわ」

「しゃべるだけではなく、今後は音楽の生演奏というのも予定しております。近頃は姉様とピピナとリリナといっしょに、日本で購入した〈りこーだー〉なる縦笛でも練習を重ねておりまして」

「なになになにっ、〈らいぶ〉もするつもりなのっ!?」


 ルティが切り出したとたん、サジェーナ様は目の色を変えて食いついてきた。


「か、母様は〈らいぶ〉をご存知なのですか?」

「ご存知もなにも、ニホンにいたときは〈らじお〉でよく聴いていたもの! そう、ヴィエルでも〈らいぶ〉を……それはとっても楽しみね。娘たちの演奏が聴けるなんて」


 うっとりとしながら、サジェーナ様が何度もこくこくとうなずく。音楽の国の生まれなんだし、その上娘さんたちが演奏するとなれば惹きつけられて当然か。


「こほんっ……他にも、朝は体操の指導をしたり、夕方にはヴィエルであった一日の出来事を報じる〈ばんぐみ〉も予定しております。その間の時間は様々な音楽を流して、あとは時折市役所からの告知を流すくらいでしょうか」

「種類は多くしないの?」

「ルイコ嬢がヴィエルの街を歩いた印象を伝える〈ばんぐみ〉や、アヴィエラ嬢と我らが様々なことを話す〈ばんぐみ〉もございますが、それは六の曜日と零の曜日にそれぞれ流します。始めから数が多すぎては、立ちゆかなくなる恐れもありますので」

「なるほど、まずは地固めからってことね」

「そういうことです。各地へと広めてゆくのは、ここで全て整えてからのほうがよいかと」

「いい判断だと思うわ。ああもうっ、ルティったらすっかり成長しちゃって」

「わわっ!」


 相変わらず後ろからルティに抱きついていたサジェーナ様が、緩めていた腕にほんの少し力を込めてきゅっと抱きしめ直した。逃げようとじたばたするルティではあったけど、逃げるんだったら腕の力が緩んでるうちにやればよかったのに。


「お母様、そろそろその辺で~」

「しょうがないでしょ、娘の成長がすっごくうれしいんだから……えいっ」

「きゃっ!?」


 その上、素早く右手を伸ばして止めようとしたフィルミアさんまで捕獲する始末。一瞬驚いたフィルミアさんは、されるがままにサジェーナ様に肩を抱き寄せられていた。


「ミアもすっかりお姉さんになっちゃって。今度の〈らじお〉は、ルティとミアといっしょに出ようかしら」

「よいのですか?」

「〈らじお〉の楽しみを思い出させてくれた娘たちといっしょに〈らじお〉でしゃべるなんて、とっても素敵じゃない。わたしのほうからお願いしたいぐらいよ」

「お母様~……では、ニホンへ向かう前に一度いっしょにやりましょうか~!」

「私も、ぜひ母様と〈ばんぐみ〉をやってみたいです!」

「じゃあ決まりねっ!」


 よほどうれしいのか、笑顔のサジェーナ様がさらにふたりをぎゅーっと抱き寄せていく。ついさっきまでは困惑してたルティとフィルミアさんもうれしそうに笑っているあたり、やっぱりお母さんのことが大好きなんだろう。


「チホ、ミイナ。その次はあなたたちともいっしょにやるわよ!」

「えっ? あ、あたしはいいわよ! あたしは聴くほう専門だから!」

「ボクも別にいいや。しゃべるのはジェナたちに任せるよ」

「えー、つまんないのー」


 あてが外れたって感じで口をとがらせて、きょろきょろとまわりを見回すサジェーナ様。


「あ」

「えっ」


 って、あのー……サジェーナ様?

 どうして、俺のことを見たまま固まってるんですか?


「んっふっふー」


 それと、どうしてにんまりと笑ってるんですか?


「ねえ、サスケくん」

「えーっと……なんでしょうか?」

「今度、ルティといっしょに〈らじお〉の〈ばんぐみ〉を作るのよね?」

「は、はあ。確かにいろいろと計画してますけど」

「だったら」


 両手をぽんって合わせたこの国の王妃様兼、ルティのお母さんは、


「今度、わたしもルティとの練習に混ぜてくれないかしら」

「はいっ!?」

「か、母様っ!?」

「サスケさんなら、きっと頼りになるでしょうね~」

「ええ。きっとよき練習相手になってくださることでしょう」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」


 初代パーソナリティのフィルミアさんとリリナさんを味方につけて、さらりと俺たちにとんでもない提案をぶつけてきた。

 お騒がせお母さんズ。それでもやっぱりお母さんはお母さんなのです。

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