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第37.5話 異世界と日本のおねえちゃんたち

 目の前の鉄鍋の中で、お湯がふつり、ふつりと沸き立ち始める。

 鍋の底にひしめいていた小さな泡がだんだん大きくなっていって、水面へと上がってぽこりと弾けていく。


「そろそろいいかもしれませんね~」

「わかりました。じゃあ、あたしはこっちを持ちますね」


 隣でいっしょに様子を眺めていたフィルミアさんからの言葉に、あたしは鍋から伸びている木製の取っ手をミトンをはめた手でぎゅっとにぎった。


「では、わたしはこちらを~」


 続いて、フィルミアさんもミトンをはめた手で反対側の取っ手をぎゅっとにぎる。


「じゃあ、行きますか」

「はい~。せーのっ」

「よいしょっ」


 そして、タイミングをとりながら鍋を持ち上げたあたしたちは、ふたつ隣のかまど――火が入っていないかまどへゆっくりと鍋を移していった。


「ふぅっ……ありがとうございます、フィルミアさん。」

「いえいえ~」


 いつもみたいににっこりと笑うフィルミアさんは、水色のパジャマ姿。あたしの赤地に白く染め抜いた猫の肉球柄のパジャマとは違ってシンプルだけど、ゆったりとした装いでフィルミアさんによく似合うパジャマだった。


「あとは、このコップにさっきおろしたショウガと、はちみつを入れてっと。フィルミアさんは、甘さひかえめなのとはちみつたっぷりなのとどっちがいいですか?」

「そうですね~……あの、もう一個コップを持って来ますので、両方作ってみてもよろしいでしょうか~?」

「もちろんです。そうして好みの味を見つけるのもいいかもしれませんね」

「そうしてみます~」


 フィルミアさんは小さくうなずくと、キッチンのかまどとは反対側にある食器棚へとゆっくり歩いていった。そのまま木製のコップをふたつ取り出して、またゆっくりとした歩みでテーブルへと戻るとそのふたつのコップをあたしのはす向かいへと置く。もう置いてあるコップと合わせれば、これで4つコップがあることになる。


「こちらのショウガの味わいがニホンのものと違うかもしれないので、とりあえずカナさんのもお持ちしました~」

「ありがとうございます。じゃあ、ショウガの量はいっしょにして……っと」


 持って来てくれたコップと元からあったコップへ、ひとつまみずつすりおろしたショウガを入れていく。元々の汁気をしぼっていないこともあってか、それとも蛍光灯のような陸光星の色合いもあってか、つまんだショウガからしみ出るしずくは日本のものよりも色濃い黄色に見えて美味しそうだった。

 続いて、小さめのつぼに貯められたはちみつを親指大のひしゃくですくい上げて、コップへと移していく。甘さ控えめなのはひしゃく1杯で、はちみつたっぷりなのはひしゃく1杯、2杯――


「あたしはもう一杯入れてみますけど、フィルミアさんはどうします?」

「では、わたしもおねがいします~」

「りょーかいですっ」


 ちょっぴり恥ずかしげに言うフィルミアさんへ、あたしはおどけながら応じてみせた。うんうん、やっぱりはちみつは美味しいもんねー。

 もう1杯ずつはちみつを入れたら、小さなひしゃくをつぼへと戻してから木製のフタをのっけてお役御免。続いてカウンターに置かれていた煮沸済みの大きいひしゃくを手にして、まだ湯気がもうもうと立っている鉄鍋へと(ごう)――器の部分をじゃぶんと沈めていく。

 あとは、なみなみと溜められたお湯をコップの中へ。合のサイズがちょうどいいみたいで、注ぎきったらちょうど一杯分になっていた。これを残りの3つにも入れていって……っと。


「これが、ショウガ湯という薬湯なのですか~」


 お湯を注ぎ終わって湯気が立つ2種類のコップを、スプーンでくるーり、くるーりとかき混ぜていく。これでまだ溶けきっていなかったはちみつとショウガがしっかり混ざれば、


「はいっ、ショウガ湯の完成です!」

「とってもいい香りですね~」


 あたしが差し出したコップからの優しい香りに、目を閉じたフィルミアさんはすんすんと香りをかいでからうっとりと言った。


「じゃあ、まずは甘さ控えめのものから」

「そうですね~」


 初めにお湯を入れたコップを手にして、ゆっくりと口元へ持っていく。


「あちっ」

「これは、ちょっと冷ましたほうがよさそうですね~」

「そうですねー」


 くちびるに走る痺れるような痛みに、ふたりで苦笑いしながらふーふーと息を吹きかけてお湯を冷ましていく。だいたい、このくらいでいいかな?


「いただきまーす」

「いただきます~」


 両手でコップを持って、くい、くいと傾けながら飲んでいく。さっきよりもずっと飲みやすい少しだけ熱めのお湯が口からのどへと通っていって、それといっしょに口の中へはちみつのやさしい甘味と、じんわりとしたショウガの辛味が広がっていって……うんっ、美味しい。


「ふうっ」

「これは、なかなか変わった味ですね~」

「えっと……お口に合いませんでした?」

「いえいえ~。ショウガというのはこちらでは香りづけでしかあまり使わないので、このような味が新鮮だっただけですよ~」


 そう言いながら、もう一回こくりとショウガ湯を飲むフィルミアさん。くちびるを離してほうっと息をついた笑顔を見ると、おいしく味わってもらえているみたいでよかった。


「では、こちらもいただいてみますね~」

「じゃあ、あたしも」


 まだ中身が半分ぐらい残っているコップを一回置いて、はちみつがたっぷり入ったもう一個のコップを手にする。こっちもスプーンで混ぜていくと、さっき以上に甘い香りがふんわりとショウガ湯の中から漂ってきた。


「んくっ」

「んくっ……ん~?」

「こ、これは……甘い、ですね……」

「ちょっと、甘すぎたかもしれませんね~」


 さっきはひとくち飲んだところでほどよい甘味と辛さだったのが、こっちは辛さをほとんど打ち消してはちみつの甘味が思いっきりひっくるめていた。ううっ、これじゃあショウガ湯っていうよりも、ショウガ風味のはちみつ湯だよ……


「こっちだと、ショウガよりもはちみつの味のほうがかなーり強いんですね」

「そうかもしれませんね~。でも、香りはとてもいいですよ~」

「そうなんですよねー。さっき香り付けで使うって言ってたのは、こういうことだったのかーってよくわかりました」


 結構甘ったるいショウガ湯の中へ、すりおろしたショウガをもうひとつまみ。それをぐるぐるとスプーンでかき混ぜて飲んでみると……うん、今度はちょうどいい感じ。あたしを真似たのか、同じようにショウガを入れて飲んだフィルミアさんも目をとろんとさせながらくいくいと飲み干していった。


「ふ~……なんだか、ぽかぽかしてきますね~」

「身体をあたためる飲み物だよって、身体が弱かった頃におばあちゃんが教えてくれたんです。あとで調べてみたら、のどのケア――えっと、お手入れにもちょうどいいらしくて」

「のどのお手入れ、ですか~?」


 あまりピンとこなかったみたいで、フィルミアさんがほんの少し首をかしげる。最初の頃はあたしもそうだったから、その気持ちはとてもよくわかるんだけどね。


「ショウガでこうして身体をあたためて、はちみつでのどを潤したり殺菌したりしていい状態に保ってくれるそうです」

「そういう効能があるんですか~」

「はいっ。実際、これを飲んでからのどの調子もとってもいいですし、ちょっと涼しい今日の夜みたいな時にはよく飲むことにしてるんです」

「なるほど~。だからお買い物のときに、ショウガのことを聞かれたんですね~」

「そういうことです」


 ようやくピンと来たみたいで、ほわっと笑うフィルミアさんにあたしも笑いかけた。


 朝に農作業をして、昼にごはん作りと夕方にラジオ番組の練習をしたあたしは、時計塔の夜のキッチンでフィルミアさんとショウガ湯作りをしていた。

 こっちの夏も暑いって聞いていたらから薄手のパジャマだけを持って来たら、夜になると空気が乾いているのと北風が吹くせいか結構涼しくて、昨日の夜はなかなか寝付けなくて……だから、フィルミアさんにショウガを売っているお店を聞いて、こうしてショウガ湯を作ってみたってわけ。


「のどの健康を保つのは、とっても大事ですよね~。やはり、〈せいゆう〉のお仕事をしていると気を遣われるんですか~?」

「声が武器というか、商売道具ですから。特に毎週同じキャラクターを演じることになっても、毎回声が変わったりしたらその子にはなりきれないわけですし……最悪、声が出なくなったら丸々お仕事に穴を開けることになっちゃいます」

「それは……確かに、気を遣わなければいけませんね~」

「フィルミアさんもよく歌っていますけど、そのあたりはどうなんです?」

「わたしも、予防を怠るとすぐにのどと声帯がかわいてしまって~……鉄のたらいにたくさん水をためて、暖炉に火にかけて湿気を保つぐらいしかありませんでしたから、こうしておいしく予防できるのは大歓迎ですよ~」


 うれしそうにそう言いながら、はちみつが少なめのコップを手にしてくいくいと飲み干していくフィルミアさん。ふふっ、すっかりお気に入りみたい。


「今日みたいな涼しい日には、とってもぴったりな飲み物だと思います。でも、こっちって夏でもこんなに涼しいんですか?」

「いつもというわけではありませんけど、今日みたいな日は時々ありますね~。ヴィエルはどちらかというと北国のほうですし、昼間と夜の気温の差はきっとニホンよりも激しいかと~」

「日本の気温のほうが異常なんですよー……」


 7月で気温35度とか、夜でも25度以上なうえに湿度ダダ上がりな日本での夏に、あたしは毎年グロッキーになりかけていた。それでもエアコンの気温を下げすぎるわけにはいかないし、この夏から番組レギュラーも決まったんだからとエアコン28度+ショウガ湯+加湿器で万全なケアを心がけるようにしている。

 その分、ヴィエルは過ごしやすいことは過ごしやすいんだけど、こうして寒暖の差が激しい上に空気も乾いているとなるとそれはそれでケアが必要なわけで。

 本当、フィルミアさんがお買い物に付き添ってくれてよかった。ショウガ湯のことにも興味津々で、こうして美味しく飲んでくれているんだから、なおさら。


「カナさんは、声のお仕事を大事にされているんですね~」

「はい。あたしにとって生きがい……って言ったら大げさかもしれませんけど、そのくらい大切なことなんです。フィルミアさんも、歌ったり奏でたりすることを大事にしていますよね」

「わたしも、いろんな音や声を耳にしたり創ったりすることが大好きなので~。そのためには、傷ついた声や息づかいで歌や音を乱すわけにはいきません~」

「じゃあ、あたしと同じですね」

「はい~。このショウガ湯の作り方は、これからもたくさん活用させていただきますよ~」

「ぜびせひ。今日は先に寝ちゃいましたけど、ルティちゃんたちにも作ってあげてください」

「もちろんですよ~」


 ほんわりと笑うフィルミアさんがちょこんと小首をかしげるのといっしょに、短くはねた銀髪がしゃらんと揺れる。陸光星が淡く生み出した光沢もとてもきれいで、同じ銀髪なジェナ様やルティちゃんと同じ血筋なんだなって実感できる。

 でも、ジェナ様やルティちゃんが可愛らしいのに対して、フィルミアさんはどっちかっていうと美しいというか、なんというか……のんびりとしながらも落ち着いた性格は『お姉さん』っぽく思えた。

 あたしには妹が3人いても、お姉ちゃんはいない。だから、いちばん上でお姉ちゃんなあたしがいつもかわいらしくついてくる妹たちを見守っている。

 るいこせんぱいも年上だからお姉さんなことはお姉さんだけど、どっちかというと『せんぱい』とか『ししょー』のほうがしっくりくる。だから、こうして『お姉さん』なフィルミアさんと話しているのはとても新鮮で。


「あの、フィルミアさん」

「なんでしょうか~?」

「えっと……ラジオドラマで自分役を演じてみて、どうでした?」


 自然と湧いてきた疑問が、あたしの口からするりと出ていった。


「どうでした、ですか~?」

「はい。大変だったとか、その……もうちょっと、こうしてほしかったとか」

「う~ん……」


 疑問の答えを絞りだそうとしているかのように、フィルミアさんの視線が宙をさまよう。言ってから一瞬『しまった』って思ったりもしたけど、聞いちゃった以上は答えを待つしかない。


「大変なことは、やっぱり大変です~。演じるというのは初めての経験でしたから~」

「そ、そうですよね。やっぱり」

「でも、それといっしょに楽しくもありますね~」


 そう言いながら、フィルミアさんがぽんっと手を合わせた。


「楽しい、ですか」

「はい~」


 あたしの問いかけに小さくうなずくと、短くはねた銀色の髪がまたしゃらんと揺れる。


「みんなでいっしょに物語を演じるのはまるで合奏みたいで、息が合って噛み合うととってもわくわくするんですよ~。だから、大変なのと同じくらいにとっても楽しくて~」

「よ、よかったぁ……」


 のんびりとした中に込められた弾むような声に、つい口にしたことで緊張しかけていた心が落ち着いていく。というか、背中から力が抜けていく……


「ど、どうしました~?」

「いえ、つい変なことを聞いちゃったのに答えてもらえたのと、楽しく感じてもらえてよかったのがごっちゃになっちゃって……」

「心配はご無用ですよ~。演じることは苦手でもカナさんがつきっきりで教えてくださいますし、みんなといっしょなら怖くありません~」

「その、あたしの教え方って大丈夫です? よく熱くなったりしちゃいますけど」

「あのくらい熱いほうが、わたしもやり甲斐があります~。ルティもリリナちゃんもピピナちゃんも、そんなカナさんが笑顔で合格って言ってくれるようにって毎回自分で練習しているぐらいですし~」

「そ、そっかぁ……はぁ~」


 心配していたことも聞いてみたら心配するほどじゃなかったみたいで、安心したあたしはそのままテーブルへと突っ伏した。そっかぁ、合格するようにか~……

 怒鳴ったり詰め寄ったりはしなかったけど、マンツーマンを何度も何度も繰り返して演じてもらったりしたから……よかったぁ。


「カナさんは、それが心配だったんですか~」

「すいません。あたしって突っ走るタイプだから、やっちゃったあとに大丈夫だったのかなって思うこともあるんですけど、なかなか聞くこともできなくて……」

「そう思うことは、よくありますよ~。わたしも音楽学校でよく意見を求められたりしますけど、本当にこう言ってよかったのかとか、もっと別の助言をしたほうがよかったんじゃないかとか思ったりして~」

「フィルミアさんも?」

「はい~。王女ということもあってよくみなさんに聞かれますし、カナさんと同じお姉さんなのでルティとステラにもよく助言を求められたりします~」

「お姉さんって、やっぱり大変ですよね」

「大変ですね~。でも、それ以上に妹たちの成長を見守ることができて楽しいといいますか~」

「わかります。あたしも妹たちの成長を見守るのが楽しみですから」

「ふふふっ。やっぱり、わたしたちはお姉さんなんですね~」

「ええ。あたしたちお姉さんの特権です」


 いっしょに笑い合いながら、あたしは突っ伏していたテーブルから身体を起こした。

 お姫様といち学生で立場こそ違っても、お姉さんなのはフィルミアさんといっしょ。こうしてそのことを話すのは新鮮で、それでいてとても楽しくて。

 あたしよりもひとつ年上だから、最初はあたしにとってもお姉ちゃんみたいって思ったりもしたけど、それよりも『お姉ちゃん仲間』っていったほうがしっくりくるのかもしれない。


「でしたら、明日はわたしがルティにショウガ湯を作ってみましょうか~」

「ぜひ、そうしてあげてください」

「おや、意外ですね~。てっきり『あたしが作ります』って言うのかと思いました~」

「こういうのはお姉ちゃんが作ってあげるのがいちばんなんです。あたしが作るのは、フィルミアさんのあとで十分ですって」

「なるほど~」


 あたしをからかおうとしたのか、フィルミアさんは一瞬意外そうな表情を見せてからくすりと笑った。ルティちゃんが大切なお友達な以前に、お姉ちゃんとしても楽しみを知ってるあたしとしては邪魔するなんて野暮なことはしたくない。

 ルティちゃんがフィルミアさんに向ける笑顔は、きっとフィルミアさんだけの特別なものだと思うしね。


「というか、もしかしてあたしってずっとそういう目で見られてます?」

「はい~。カナさんはいつもルティやピピナちゃんたちをかわいがっていますし、リリナちゃんや妹さんたちにも目がないようですからきっとそうかと~」

「あ、あはは……その、これからは自重します」

「いえいえ~。わたしとしても見ていてほほえましいので、そのあたりを自重はなさらなくても大丈夫ですよ~」

「その時はよくても、後々頭を抱えたりするんですっ!」


 ああもうっ。これまでのあたしのせいなんだろうけど、やっぱりからかわれてるし! やっぱり、お姉ちゃんのせんぱいなフィルミアさんにとっては余裕なのかなぁ。


「あの、フィルミア様、カナ様」

「あれっ、リリナちゃん」

「どうしました~?」


 入口のほうからかけられた声に振り向くと、ドアを開けたリリナちゃんが台所へと入ってくるところだった。


「いえ。もう11時を過ぎているので塔内の照明を落としていたのですが……なにやらよき香りがしたので、なにごとかと」

「そういうことでしたか~」


 寝る準備をしていたのか、リリナちゃんは薄緑色のキャミソールを着て魔石製のメガネも外していた。三つ編みをといてウェーブがかった青いロングヘアはいつも以上に無防備で……うん、かわいい。松浜せんぱいの家でよく見る姿ではあるけれども、陸光星の淡い照明の中で見るとまた違った雰囲気でかわいい。


「ねえ、カナさん。お姉さん仲間として、リリナちゃんにも教えてあげましょうか~」

「あっ、それいいですね!」

「な、なにをでしょうか?」


 フィルミアさんの提案に即答で同意すると、なぜだかリリナちゃんはうろたえるようにして身構えた。あたしがこれまでにやったことでそうなっちゃっているんだろうけど、今日のあたしはこれまでとはちょっぴり違うんだよね。


「あのね、リリナちゃん。妖精さんってはちみつとか大好物なんだよね?」

「は、はあ。はちみつに限らず、樹液や花蜜の類は私たちに欠かせないものではありますが」

「そのはちみつを使った、おいしくてのどにいい飲み物があるの。さっきフィルミアさんにも教えてあげたんだけど、リリナちゃんもどうかな」

「飲み物ですか」

「こちらでは香りづけ用のショウガを使った、とってもあったまる飲み物なんですよ~」


 先輩お姉さんのフィルミアさんも、はす向かいの席から助け船を出してくれる。今日ばっかりは、いつものハァハァ癖をぜったい抑えないと。


「はちみつとレモンを合わせたのはルイコ嬢が作ったりしていますが、ショウガを合わせるというのは珍しいですね」

「でしょ? もしよかったらまずは飲んでみて、おいしかったらピピナちゃんにも作ってみるといいんじゃないかな」

「ピピナにも……それは、とてもよき提案ですね」


 ピピナちゃんの名前を出したとたんに、警戒を解いたようにリリナちゃんの表情がゆるんだ。リリナちゃんも妹大好きお姉さんだから、ルティちゃんに作ってあげるのはやっぱりうれしいんじゃないかな。


「じゃあ決まりっ。さっそく作るから、リリナちゃんはそこで座って待ってて」

「わかりました」


 わたしのはす向かい、そしてフィルミアさんの向かいの席に座ったリリナちゃんへひとつ笑ってから、あたしは勢いよく席を立った。


「わたしも、おさらいを兼ねていっしょにお手伝いしますね~」


 そんなあたしを追うようにして、フィルミアさんも席を立つ。

 お姉ちゃんなあたしから、先輩お姉ちゃんのフィルミアさんを経てもっと先輩お姉ちゃんなフィルミアさんへ。フィルミアさんが美味しいって言ってくれてうれしかったみたいに、リリナさんにもおいしいって言ってもらえたらきっとうれしいはず。

 その妹さんなルティちゃんとヒピナちゃんも美味しいって言ってくれるように、あたしもがんばらなくっちゃ。


「フィルミアさん、よろしくお願いしますっ」

「わたしこそ、よろしくお願いします~」


 いつもの萌えパワーを全部お姉ちゃんパワーへと変えて、あたしはフィルミアさんといっしょにかまどのほうへと向かった。

 まず最初にお詫びを。

 先々週あたりから体調が悪くなり、声が出なくなったり発熱したためにこの数日間は用事以外安静・加療に努めていたのですが、回復が遅く第38話の完成には間に合わなくなってしまったために今回の番外編投稿と相成りました。

 ひどい風邪をひいてる人は、必ずマスクをつけて出社しましょう。本当に。


 というわけで、そんなタイムリーなところで今回の番外編の前半部分は「のど」のお話。声のお仕事をしている人にとってのどのコンディションというのはやはり大切で、ひとたび病気にかかってしまえば電波やネット回線を通じてかすれたりした声が流れてしまったり、最悪の場合は休まざるをえなくなってしまうということもあります。


 最近では声優であり「あさのますみ」名義で作家でもある浅野真澄さんが漫画「それが声優!」でそのお話を描かれていたり、昔の声優さんのエッセイでも声が出なくなったときのお話を書かれていたりと、やはり悪戦苦闘されている模様。コンディション維持のもとに様々な声を出されているんだと思うと、頭が下がる思いです。


 来週こそは第38話を投稿できるよう、また体力の回復につとめます。新しい仲間を迎えてのお話を楽しんで頂ければ幸いです。

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