第37話 異世界でのすごしかた
ぱちんっていう金属音と同時に、さくりとした感触が手にした実へと伝わる。
巨大なキュウリの実が直径1センチは越えていそうな茎から離れたとたんに、重りを失った茎はびよーんと上へ跳ねていった。
それもそのはず。手にしたキュウリの実は俺の手の先から肩ぐらいまでの長さがあって、ずっしりとした重みもかなりのもの。両手で根元を持てば、まるで野球用のバットにも見えそうなシロモノだ。
「はー……すごいですね、これ」
「俺たちがよく見るキュウリとは全然違うよな」
「じゃあ、あたしも一個。って、結構重くないですかっ!?」
学校指定の緑ジャージを着ている有楽も巨大キュウリを収穫しようとしたけど、左手で根元をつかんでいたせいか重みで思いっきりよろめいた。
「よっと。大丈夫か?」
「す、すいません」
空いてた右手でとっさに実の真ん中あたりをつかんだら、何とかバランスがとれて踏ん張れたらしい。女の子なんだし、転んで泥だらけだけは避けないとな。
「おばあちゃんの家で手伝った時と同じようにやってみたんですけど……」
「仕方ないさ。これだけ大きいんじゃバランスも取りづらいだろ」
「さすけ、かな、それもってくですよ」
ふたりで感心しながらキュウリをながめていると、すぐそばにいたメイド服姿のピピナがしゅたっと両手をあげて俺たちに声をかけてきた。
「大丈夫なの? ピピナちゃん」
「もつんじゃんなくて、かかえればきっとだいじょーぶですっ」
「なるほど」
あげていた両手を差し出すように伸ばしてきたピピナの腕へ、俺と有楽が収穫した巨大なキュウリを1本ずつのせていく。
「これくらいならへっちゃらですよー。ジェナさま、きゅうりをもってきたです」
キュウリを抱えたピピナが向かったのは、キュウリ畑から少し離れた空き地。その一角に広げられた敷物の上で、サジェーナ様は収穫したての巨大キュウリを大きめな桶で水洗いしている最中だった。
「あらあら。ありがとう、ピピナちゃん」
ピピナからキュウリを受け取ったサジェーナ様が、洗い桶の水につけて布巾で磨くようにしっかりと拭いていく。白いブラウスと焦げ茶色の長ズボン姿、そしてズボンと同じ茶色のスカーフを巻いた格好は、肩まである銀髪によく映えて可愛らしい……んだけど、この人って7人の子持ちな上に俺の母さんと近い年なんだよな?
目を輝かせていきいきとした姿は、本当にそうなのかと疑いたくなるぐらいの若々しさを誇っていた。
「せんぱい、どんどんやっていきましょう」
「ピピナもどんどんおてつだいするですっ」
「おう、そうだな」
サジェーナ様に見とれていた俺へ、有楽と戻ってきたピピナががせかすように声をかけてくる。ふたりが言うとおり、まだまだいっぱいあるんだからボーッとしているヒマはない。
少し汗ばむ快晴の下、俺は肩に掛けたタオルでひたいをふきながら気合いを入れ直した。
1学期の終業式も終わって、いよいよ夏休み。土曜日のレギュラー番組の生放送を終えた俺たちは、久しぶりにレンディアールへと訪れていた。
寝不足解消でリリナさんに連れてきてもらって以来だから、だいたい20日ぶり。朝から降り注ぐジリジリとした陽射しは日本と同じだけど、乾いた空気と時々山から吹き下ろしてくる涼しい風がとても心地いい。
『ただいまお送りした曲は、〈ニホン〉という国に伝わる物語〈風を見渡す丘で〉のために作られた音楽です。同じ題名の演劇で主役を演じる主人公が――』
そんな過ごしやすい気候の中で有楽と畑仕事をしていると、サジェーナ様がいる空き地のほうから涼やかな声が聴こえてきた。
「ラジオ、順調そうですね」
「そうだな。リリナさんのパーソナリティもずいぶん板についてきたんじゃないか」
敷物の片隅にはついさっきまで音楽を流していた無電源ラジオとメガホン製のスピーカーが置かれていて、サジェーナ様は時々聴き入るように野菜を洗う手を止めている。
今、時計塔ではリリナさんたちが試験放送で練習をしている真っ最中。リリナさんが担当しているこの時間帯は、日本で見て気に入ったアニメやドラマのサントラから自分なりにチョイスした楽曲を流す、いわゆるDJスタイルの番組を放送していた。
「この声って、リリナちゃんの声……で、いいのよね?」
「はいですっ」
「不思議ね。声だけ聴いてると、わたしの知ってるリリナちゃんの声と全然違って」
なるほど。サジェーナ様、リリナさんの声を聴いて戸惑って手を止めてたのか。確かに前のリリナさんは威圧感すら発していたぐらいだし、こうした優しい語り口とは結びつかないのかもしない。
「むかしのねーさまは、ちょっとぴりぴりしてたですから。でも、ピピナはいまのねーさまもまえのねーさまもだいすきですよっ」
「わたしも。今度、リリナちゃんをお茶に誘ってじっくりお話してみようかしら」
「いーですね、きっとねーさまもよろこぶです!」
ピピナとサジェーナ様のほのぼのとしたおしゃべりに、つい頬がゆるむ。有楽もうれしそうに微笑みながらキュウリの収穫を続けていて、時々ふたりのほうへちらりと振り返っていた。
「有楽が言うとおり、ラジオを持って来てよかったよ」
「畑仕事っていったらラジオがつきものなんです。おばあちゃんも、畑へ出るときはいつもラジオを持っていって仕事のお供にしてました」
「この間の田植えのときも好評だったからなぁ。あのサイズなら持ち運べるし、野良仕事にはもってこいか」
「家とは別に、持ち運び専用で欲しいって人もいるかもしれませんね」
「うーん……あとでルティたちと相談して、すこし余分に製造するか考えてみるかなー」
「まだまだがんばりどころですねー」
さらに課題がかさんだことに気付いて、少し困ったようにふたりで笑い合う。こっちの生活様式に合わせないといけないわけだし、そのあたりも話し合ったほうがいいだろう。
今回のヴィエルへの滞在は、まるまる1週間。開局予定の秋へ向けて番組の構成を詰めていくために、こっちのライフスタイルに合わせて過ごしながらいろいろ案を出そうって魂胆だったからちょうどいい機会だ。
「さて、と。だいたいこんなもんか?」
「そうみたいですね」
そのままふたりでキュウリを穫り続けていると、ほとんどの枝からはほどよいサイズの巨大キュウリが消えて、あとはまだ収穫時期じゃない小ぶりなものだけが残っていた。
「さすけ、かな、またもっていってもだいじょーぶですか?」
「ああ。これで終わりみたいだから、手分けして持っていこうぜ」
「わかったですっ」
人間サイズとはいえ小柄なピピナは、よいしょっとかがむとせっせと巨大キュウリを集めて抱えてみせた。有楽も数本の巨大キュウリを重そうに抱えて、俺も地面に置いていた巨大キュウリを集めてからゆっくりと抱え上げると……おお、結構な重さがあるな。スーパーでよく買う5キロの米袋といい勝負だ。
「サジェーナ様、穫れどきのキュウリは全部穫り終わりました」
「お疲れ様。みんなが手伝ってくれてとても助かったわ」
「時計塔に泊まらせてもらってるんですし、俺たちが手伝えることなら手伝いますって」
「田植えだって手伝ったことがあるんですから、これくらいへっちゃらですっ!」
「珍しいわね、若い子たちがそう言ってくれるなんて。さあさあ、こっちに座って一休みしちゃって」
「ありがとうございます。それじゃあ、失礼します」
「あたしも、失礼します」
サジェーナ様のすすめに応じた俺はスニーカーを脱ぐと、敷物に上がって大量の巨大キュウリが入った水桶を挟んで真向かいに座った。続いて有楽が左隣に座って、ピピナがサジェーナ様の右隣に座る。
満足げに俺たちのことを眺めていたサジェーナ様も、茶色のスカーフをほどいてふうっと息をついた。肩まで伸びた銀髪が太陽の光でふわりと淡く輝いて、穏やかに笑う姿は母娘ってこともあってかルティとそっくりで……きっと、ルティがもっと成長したらこういう風に笑うんだろうな。
「お母様~、トマトの収穫が終わりました~」
「大量です。大収穫ですっ」
後ろからの声に振り向くと、サジェーナ様と同じ服装に麦わら帽子を被ったフィルミアさんと、俺と同じ学校指定の青ジャージを着た中瀬がそれぞれ竹カゴを持ってゆっくりとした足取りでこっちへ向かっているところだった。
「ミアもミハルちゃんもお疲れ様」
「いえいえ~。今年で3回目ですから、さすがに慣れました~」
「みぃさんが教えてくれたおかげで、とても穫りやすかったです」
麦わら帽子を脱いだフィルミアさんも、肩からかけたタオルで顔をぬぐった中瀬もサジェーナ様からのねぎらいの言葉に満足そうな笑顔を浮かべる。ふたりが下ろしたカゴをのぞき込むと、大きくて赤いトマトがたくさん詰め込まれていた。
「わぁ……品種改良でこんなにでっかく育つんですか」
「これでも、ようやく安定して作れるようになってきたのよ。見た感じは完璧に近いわね」
カゴへと手をのばしたサジェーナ様が、ひとつずつ実を手にして水が張られた桶へと沈めていく。ソフトボールぐらいの大きさをしたトマトがぷかりと浮くと、ひとつひとつが水をまとったことで輝いて、
「水で洗って、しっかり拭いて……っと。はいっ、みんなで味見の時間にしましょうか」
ひょいひょいと手渡されたそれは、ひんやりとしてまるで宝石みたいだった。
「いいんですか?」
「いいのいいの。お昼ごはんまでのおやつ代わりに、がぶっと行っちゃって」
「それじゃあ、いただきます」
「いっただっきまーす!」
「いただきます」
口々にあいさつをしてから、一斉に大きめなトマトへとかじりつく。ひと噛みしたとたんに口の中へと甘い果汁が広がって、噛んでいくたびに果肉の酸味と合わさっていって……
「すっごく濃いですよ、このトマト」
「でしょう?」
飲み込んだとたん、そう言いたくなるぐらいに濃厚な味わいだった。先にかじりついていたサジェーナ様も会心の出来だったのか、うれしそうに言葉を弾ませている。
「日本でも甘いトマトは食べてますけど、こんな大きくて美味しいのは初めてです!」
「私は好きこのんで食べないのですが、このトマトなら何個でも食べたくなりますね……んくっ」
有楽もこの味には驚いたみたいで、中瀬に至っては感想を口にしてからすぐにまたトマトにかぶりついていた。
「あむあむあむあむ、あむあむあむあむ」
「ふふっ、ピピナちゃんもお気に入りみたいですね~」
ピピナにいたっては一心不乱に食べてるし、サジェーナ様の左隣に座ったフィルミアさんも大きなトマトにかじりついて頬をほころばせていた。
つられてもうひとかじりしてみると、最初にほんのりと青々しい味がしてからすぐに甘みと酸味が包み込んで、それがいっしょに広がっていって……うん、美味い。めちゃくちゃ美味い。
「よかった。みんな美味しそうに食べてくれて」
「毎年毎年どんどん美味しくなっていきますからね~。お世話をしていた分、わたしもうれしいですよ~」
「親子二代の共同作業って感じですか」
「わたしは、どちらかというとお手伝いと言ったほうがいいかと~。ルティも手伝ってくれていますし~」
「なに言ってるの。普段わたしが中央都市にいる分、畑の世話をしてくれてるのはミアとルティなんだから親子二代で間違いないわよ」
「そ、そうでしょうか~?」
ストレートなサジェーナ様からの物言いに、照れたように頬を染めるフィルミアさん。普段はお姉さんな分、こうした姿はなんだか新鮮だ。
『間もなく、ヴィエルの街は午前10時。次に曲が流れたあとは、レンディアール第5王女のエルティシア・ライナ=ディ・レンディアール様とイロウナ商業会館の会長であるアヴィエラ・ミルヴェーダ様、そしてご友人のアカサカ・ルイコ様とのお話へと交代いたします。私、リリナ・リーナの案内でお送りしてきたこの時間の締めくくりは、2曲続けて――』
「ほ、ほらっ、もうすぐそのルティの出番ですからここまでにしましょ~! ねっ、ねっ!」
「ミアったら、こういうところは相変わらずなんだから」
あわてて矛先をそらそうとするフィルミアさんに、サジェーナ様は苦笑い。そっか、フィルミアさんってほめられることに弱いのか。
「それにしても、こうして聴くと本格的な〈らじお〉としか思えないけど……これも、ニホンでずっと練習していたの?」
「にほんでもれんしゅーしてましたし、こっちでもいっぱいれんしゅーしてたです。さすけがくれた〈らじお〉をほーそーするきかいをつかって、ピピナとリリナねーさまと、ルティさまとミアさまでまいにちそうだんしながらやってたですよ」
「みんなで実際にわかばシティFMとかいろんなラジオ局の番組を聴いて、それをもとにして話し合いながらいろいろ練習してたんです。その結果できたのが、この間サジェーナ様とミイナさんも聴いたあの番組で」
「なるほど、こっちでもニホンでもしっかり勉強してたと」
「あたしたちと遊びながら、いっしょに勉強してたって感じでしたよねー」
「私も、るぅさんたちと遊びながらラジオのいろんなことを知ることができました」
俺とサジェーナ様の受け答えを補うように、有楽と中瀬が言葉を継ぐ。実際、このふたりは用事が仕事がなければよくうちへ遊びに来たり泊まりに来たりしていたし、馬場のじいさんの無電源ラジオの制作講座とか山木さんのアナウンス講座とかもいっしょに受けたりしていた。
「こちらでの練習では、サスケさんが〈そうしんきっと〉の使い方をルティとピピナちゃんにしっかり教えてくださったおかげで、わたしもリリナちゃんもすぐに扱うことができたんですよ~」
「あんな小さな機械がねぇ……わたしがニホンにいたときにその機械のことを知ったら、きっとみんなと同じようにのめり込んでいたでしょうね」
「つかいかたもかんたんですから、たくさんしゃべりたくなるですよ。ねーさまとおしゃべりしたことが、つぎのひにはいちばのおみせやさんにつたわったりしてて」
「わたしも、リリナちゃんと練習しながらしゃべっていてとても楽しいです~。音楽学校でのお話をしたり、わたしたちの好きな曲について話したりして、それを聴いてくださった方々とも学校でのお話が広がって……サスケさんとカナさんにルイコさんが、楽しんでしゃべっているお気持ちがよくわかりました~」
声を弾ませたピピナとフィルミアさんが、くすりと笑っていたサジェーナ様へ応えてみせる。
物見やぐらで受信実験をしたときのように、フィルミアさんとリリナさんは不定期で練習を兼ねた試験放送を行っているらしい。それはピピナもいっしょで、時間に余裕ができたときにはリリナさんとその日あった出来事や雑談を5分から10分ぐらい放送しているそうだ。
「だからといって、フィルミア自身の志学期のことは忘れちゃダメよ?」
「もちろん心得ています~。わたしとしても〈らじお〉で得たことを活かして志学期で得たことを広めていきたいと考えているので~」
「……? どういうこと?」
「志学期を発表する場は、中央都市の議場ですよね~。でも、そこでわたしが演奏したり歌ったりしても、聴けるのは席のある3000人ぐらいしかいらっしゃいません~。ですので〈らじお〉を通じて街の人たちにも、そして国中の人たちにも聴いていただければと思いまして~」
「まさか、それって〈らじお〉を通じて演奏するっていうこと!?」
「その通りです~。なので、わたしもルティの〈らじおきょく〉づくりをめいっぱいお手伝いしますよ~」
フィルミアさんはにっこりと笑うと、胸元できゅっと握りこぶしを作りながらいつものぽわぽわとした口調で宣言してみせた。
いつもこういう口調だからのんびりおっとりってイメージを持ちやすいけど、リリナさんの手で投獄されたときに、見ず知らずな俺のところへ真っ先に会いに来たり、有楽の代打でルティといっしょに赤坂先輩のラジオで手伝ってくれたりととても行動力がある人だし、それに――
「大丈夫なの? その、誰ともわからない人たちにも演奏を聴かせたりして」
「大丈夫ですってば~。〈わかばしてぃえふえむ〉を通じて、たくさんの方へ向けて歌を披露したことだってありましたから~」
「な、なにそれっ!? わたし、初耳よ!?」
突然の暴露に、目を丸くするサジェーナ様。そうそう、赤坂先輩のお誘いでフィルミアさんの歌を流したりもしたっけ。あの時はずいぶん恥ずかしがっていたけれども、今はこうして自信ありげに宣言してみせるぐらいにアグレッシブな面を見せてくれるようになった。
「……そこまで意気込みを見せられたら、わたしも期待するしかないじゃない」
「ありがとうございます~」
「で、ミア。そのニホンで歌ったっていう歌はなんなの? それって、もしかしてニホンに行ったら聴けるの?」
「ジェナさん、ジェナさん。そんなに慌てなくても、あたしが持ってますよ」
「えっ」
「俺もあります」
「私もいただきました」
身を乗り出すサジェーナ様へと緑色のスマートフォンを差し出した有楽に続いて、俺と中瀬も青と黒のスマートフォンを差し出してみせる。
「ど、どうしてあなたたちがその歌を持ってるわけ!?」
「あのっ、その前にっ、どうしてわたしの姿が〈すまーとふぉん〉に映っているんですか~!?」
揃って差し出した3台のスマートフォンの画面には、フィルミアさんが歌っている姿がアートワークとして映し出された音楽プレーヤーが。おお、サジェーナ様もフィルミアさんもさすが親子なだけあって、慌てた姿がそっくりだ。
「いえ、元々は赤坂先輩が録ってたんで欲しいってお願いしたら、こうして見事に加工したのを渡してくれまして」
「私もおねだりしたら、こんなに素敵なものを頂きました」
「ルイコさんってば~……」
「私はとてもきれいで美しいと思うのですが」
さっきの堂々とした意気込みはどこへやら、またまた顔を真っ赤にしたフィルミアさんがしゅんとしぼんだ。それでも中瀬の言うとおり、青空を背にしながら両手を広げて歌ってる姿はとても美しいのには変わりない。
「……その〈デンワ〉で聴けるなんて、本当に不思議よね」
「それもそーですけど、るいこおねーさんがもっているおんがくをならすきかいをつかって、しけんほーそーでながしたりもしてるですよ」
「フィルミアの歌が? ヴィエル中に?」
「まだ無電源ラジオの在庫がないんで市役所と市場や飲食店ぐらいですけど、ちゃんと聴こえてるみたいです」
「このあいだお買い物をしていたら、店のお子さんたちに歌をおねだりされたなんてこともありまして~」
「それって、わたしがヴィエルにいる間に〈らじお〉で聴けたりする?」
「えっと、今聴かなくてもいいんですか?」
「もうすぐルティたちの〈ばんぐみ〉が始まるんでしょう。それに、〈らじお〉で流れたのならやっぱり〈らじお〉で聴いてみたいじゃない」
不思議そうな表情を浮かべていたサジェーナ様が、片目をぱちりとつむると楽しみそうに微笑んでみせた。そういえば、ルティも同じようなことを言っていたことがあったっけ。
「では、次は明後日に試験放送を行う予定なので、そのときにでも流しましょうか~」
「頼んだわよ。あと、その〈シャシン〉も残っててたりするのかしら」
「えっと、赤坂先輩がまだ持ってるはずです。言えば、たぶん分けてもらえると思いますよ」
「いい情報をありがとう。……ルイコちゃんから買って、ラフィアスや子供たちにも見せてあげなくちゃ」
「お母様っ!?」
「だって、とてもいい〈シャシン〉じゃないの。手元に置いておきたいぐらい」
「そ……そう言われたら、何も言えないじゃないですか~……」
「もう。フィルミアったら、〈らじお〉や歌のことだと自信満々なのに、こういうことに関してはほんとに相変わらずなのね」
照れるフィルミアさんの顔を抱き寄せて、ぽふぽふと頭を軽くなでるサジェーナ様。それに抵抗することなく、フィルミアさんも頬を寄せてサジェーナ様の肩へと身を委ねていた。
それから間もなく、無電源ラジオのスピーカーからハンドベルのような甲高い鐘の音がからんからんと響きだした。普段は朝夕の6時と昼の12時にしか鳴らない時計塔の鐘を、ルティが自らICレコーダーを使って時報用に録音・加工したもので、ステレオ録音な上にFMラジオなだけあって、音質もかなりいい。
「ほら、フィルミア。そろそろ始まるわよ」
「は、はい~」
言われてはっとしたように、フィルミアさんが背筋をぴんと伸ばして女の子座りをしてみせる。ほんのちょっと顔が赤いのは、ご愛嬌ってことにしておこう。
『午前10時をまわりました。この時間からはリリナ・リーナさんに代わって、日本という国からやってきましたわたし、赤坂瑠依子がふたりのお客様を迎えておしゃべりしていまいります』
「ん?」
さっきリリナさんがアナウンスした順番だと、ルティがメインで進めるはずなんだけど……朝に見せてくれた台本も、そのはずだったよな?
『それでは、早速ふたりのお客様をご紹介いたしましょう。まずはレンディアール国の第5王女であらせられます、エルティシア・ライナ=ディ・レンディアールさん』
『え、エルティシア・ライナ=ディ・レンディアールだ。……よ、よりょしくたのみましゅ……あう』
「……あー」
赤坂先輩のやわらかい声からルティのガチガチな声へと移り変わった瞬間に、さっき抱いた疑問が一気にして解けた。
あいつ、思いっきり緊張してるな……しかも、思いっきり噛んでるし。
『続いては、イロウナ商業会館の会長を務めておられるアヴィエラ・ミルヴェーダさんです』
『えっと、あの……あ、アヴィエラ・ミルヴェーダだ。よ、よろしく?』
そして、ここにもド緊張してる人がまたひとり。
なんだか、一気に大丈夫なのかどうかって心配になってきたぞ……
『今日はヴィエルの街をよく知り尽くしているふたりをお迎えして、事前に飲食店街で集めた街のみなさんがおすすめのお店について話していきたいと思います』
『な、なあ、ルイコ。これってもう聴こえてるのか?』
『はい。ラジオの受信機を持っている方ならもう聴こえているはずですよ』
『うわ、うわっ、マジか……もう聴こえてるのか』
『あ、慌ててはダメです、アヴィエラ嬢。こういうときは深呼吸をして息を整えて……』
大慌てなアヴィエラさんを、詰まり気味な言葉でなだめようとするルティ。次の瞬間、深呼吸をしているような息づかいが思いっきり聴こえてきて――
『えっと、今はエルティシアさんもアヴィエラさんも深呼吸中なので、もう少々お待ち下さいね』
『……ィシア様、……ィエラ様、お水を……したので、一度飲んで……』
取り繕うような赤坂先輩と、リリナさんのものらしいささやきまでがスピーカーから聴こえてきた。
「ルティちゃん、ガチガチですね……」
「アヴィエラおねーさんもです……」
いつも堂々としているルティと意気にあふれたアヴィエラさんの声はすっかり萎縮していて、それを聴いた有楽とピピナも衝撃を受けていたように呆然としている。
「やはり、いきなり生放送へ放り込むというのはいかがなものかと」
「ルティは経験もあるし、先輩がいるから大丈夫と思ったんだけどなぁ……」
「それはある程度慣れた日本での話です。レンディアールでは初めてのラジオなのに、それを加味しなかった松浜くんのミスでしょう」
「……それは、確かに」
言われてみればレンディアールでは初めの生放送なんだし、前にもルティの課題は生放送ってわかってたんだから、いきなりセッティングした俺のミスと言われても仕方ない。
放送前にも忠告してくれていた中瀬からのド正論に、何も言い返すことができなかった。
「いいわねぇ、初々しいルティもヴィラちゃんも」
「本当ですね~」
サジェーナ様とフィルミアさんはほのぼのしながら聴いてくれてるけど……こりゃあ、なんとかしないといけないな。
* * *
「……あー」
「……うー」
「その、なんというか……ごめんなさい」
俺はテーブルに手をついて、向かいの席で揃って頭を抱えてるルティとアヴィエラさんへと思いっきり頭を下げた。
ゴンッていう音と衝撃は、今のところ気にしないでおく。いや、ちょっと痛かったけど。
「いや、サスケは何も悪くない。舞い上がってしまった我が悪いのだ……」
「アタシもだよ……まさか、あんなにドキドキするなんて……」
「その状況を作ったのが俺なんだし、ふたりこそ何も悪くないって」
「わたしも、ふたりとも慣れてると思い込んじゃって……本当にすいませんでした」
「る、ルイコ嬢も謝らないでくださいっ!」
「ルイコが謝ることなんて何もないだろっ!?」
右隣に座っている赤坂先輩が頭を下げると、弾かれたようにしてルティとアヴィエラさんが頭を上げた。赤坂先輩はふたりをリードしようとがんばっていたんだから、アヴィエラさんの言うとおり何も謝ることなんてないはずなのに……
「私は過信しすぎていたのかもしれません。ニホンで〈らじお〉に出て、多くの人に聴いてもらったのだから大丈夫と思ってしまって……それが〈なまほうそう〉が近づくにつれて、息苦しいほど胸が高鳴ってしまって」
「アタシは、みんなが〈らじお〉をやってる姿を思い出してたら『自分はちゃんとできるのかな』って思っちまって……そうしたら、もうドキドキが止まらなくてさ」
「ふたりとも、極度の緊張状態にありましたからね。慣れないうちは、致し方ないことだと思います」
俺の左隣に座っていたメイド服姿のリリナさんも、なぐさめるようにしてふたりへと語りかける。この人も経験で言えばまだそんなにないはずなのに、その言葉には妙な説得力があった。
「しかし」
「でも、さ」
「まあまあまあ。みなさん暗い顔をしてないで、甘いものでも食べて元気出してください」
それでもと言いつのるふたりへ割り込むようにして、お椀がのったトレイを手にした赤髪の女の子――ユウラさんが個室へと入ってきた。
昼飯が終わっても落ち込んでいるふたりを連れてきたのは、飲食店街にある顔なじみなスープ専門店の「流味亭」。反省会とねぎらいを兼ねてやってきたここには店外の屋台の他に個室つきの店舗もあるから、じっくりと話し合うには最適なお店だった。
畑仕事をしたみんなはルティとアヴィエラさんを元気付けるために夕飯の用意をするって言ってたから、しばらくはここでお世話になるとしよう。
「ありがとうございます、ユウラさん。あと、いきなり来たのに個室を借りちゃってすいません」
「いいんですよ。ちょうどおやつ頃はここも空いていますし、みなさんでしたらわたしもレナトさんも大歓迎です」
「申しわけない、ユウラ嬢」
「ごめんな、気を遣わせちゃって」
「だからいいんですって。今日はおまかせでご注文をいただいたので、甘茶と牛乳の冷製スープにテミロンを入れてみました。のどに優しいですから、〈らじお〉のあとにはきっと美味しく飲めると思いますよ」
ユウラさんはにこりと笑うと、俺たちの前へミルクティーのような薄茶色の液体で満たされたお椀を置いていった。
「テミロン、ですか?」
「元々テミルっていう木があって、葉っぱをじっくりと煮詰めると少し甘酸っぱくてぷるぷるした塊になるんです。それを冷やしてガラス玉のように丸めたのがテミロンなんですよ」
「へえ、珍しいですね」
「それだけでもおやつになりますけど、こうして食べるともっと美味しくて。わたしが作ったのを、レナトさんがおやつ時間限定で採用してくれたんです」
うれしそうなユウラさんの言葉を聞いてると、旦那さんなレナトとは相変わらずアツアツらしい。幸せなのはいいことですよ。
「……ん、これは美味いな」
「へえ、かじるとぷるるんってして面白いな。酸味もちょうどいいよ」
その幸せが生んだ甘い香りにつられたのか、さっきまで暗い顔をしていたはずのルティとアヴィエラさんがスプーンでスープを口にしていた。
「どれどれ……なるほど、ほどよい甘みとレモンのような酸味が合わさってとてもいいですね」
「日本で出せば、評判間違いなしです」
味にうるさいリリナさんと甘いものが大好きの先輩からも絶賛ってことは、相当美味いんだろう。
俺もひとくち食べようとスプーンで底のほうから持ち上げてみたら、ミルクティーといっしょに澄んだ茶色のテミロンが先端にのっかってきれいな色合いを生み出していた。それを口の中に運んでいくと、
「……おお」
ほんのりと甘く、そして濃い紅茶の味わいが広がっていった。その最中にテミロンのゼリー状な粒を噛むと、レモンのような淡い酸味がふんわりと加わって……美味い、これは確かに美味い。
朝に食べた大玉トマトも美味しかったけど、これもまた食後のデザートにはもってこいだ。
「紅茶と牛乳の濃さがよく合ってて美味しいです。でも、砂糖入れたようなとがった甘さとは違うような」
「甘茶の木自体に甘い樹液がたっぷり含まれてるから、茶葉にもその甘みがじっくりと行き渡るみたいなんです。糖蜜いらずの茶葉とも言われてるんですよ」
「なるほど、茶葉自体に樹液の味わいがなじんでいくわけですか」
「サスケ、喫茶店の息子なだけあってこういうのには目がないな」
「そ、そうですか?」
「うむ、さすがはチホ嬢の子息だ」
ふたりしてうんうんうなずきながら、アヴィエラさんとルティがにやりと笑ってみせた。甘いものを食べて、ちょっとは元気になったのかな。
「我もこの味わいが気に入った。テミロンの粒がぷちりと弾けるとほどよい酸味も混ざって、とてもよい変化だと思う」
「テミロンってサラダぐらいにしか使い道がないと思ってたけど、こういう使い方もあるのか……すごいね、ユウラちゃんは」
「たまたま、入れてみたら美味しいのかなって思っただけですよ」
「その思い切りの良さを、私も見習いたいものだ」
「アタシも」
「それって、朝の〈らじお〉のことですか? わたしは、エルティシア様もアヴィエラ様もとても初々しくてかわいらしかったと思いますよ」
「なっ!?」
混じりっ気の一切ないユウラさんの純粋な感想を聴いて、ルティとアヴィエラさんがふたりそろって顔を真っ赤にした。
「そういえば、こちらでも〈らじお〉の試験にご協力していただいておりましたね」
「はいっ。朝の仕込み中に聴こえてきたら厨房へ持っていって、レナトさんといっしょに聴いてるんです。リリナさんがいろんな曲を紹介してくれるの、ふたりで楽しみにしてて」
「ありがとうございます。楽しんでいただけているのであれば、私としても幸いです」
その一方で、リリナさんは落ち着いて応えて……と思ったら、背中の羽がちょっと揺れ動いてるな。うれしいときに見せる動きだってピピナが言ってたっけ。
「リリナちゃんはすごいよなぁ。あんなに落ち着いてて」
「私も最初は手ひどく失敗しておりましたが、『どうせ誰かに聴かれているんだから』と開き直るようになったら落ち着きました。全ては、怪我の功名とも言うべきでしょうか」
「あ、あははははは」
意味ありげに視線を送ってくるってことは、リリナさん、もしかして初めて会った頃の送信機入れっぱなし事件のことを言ってるんだろなうな……アレだったら、確かに怪我の功名と言う他ないだろうけどさ。
「アタシもそう開き直りたいんだけど、〈なまほうそう〉で変なことを口走っちまうんじゃないかって考えたら……なんだか、すっごく怖くなっちゃって」
「我は、どう受け答えをすれば楽しんでもらえるだろうかと思ってしまってな。リリナの思い切りを見習いたいものではあるのだが」
「〈らじお〉って、そういう心構えが必要なものなんですか?」
「例えばだけどさ、ユウラちゃんはこういう会話が数千人に聴こえるって思ったらどう感じるよ?」
「数千人、ですかぁ……」
アヴィエラさんが唐突に問いかけると、あまりピンとこなかったらしいユウラさんはしばらく視線を宙へとさまよわせてからぽんっと両手を合わせて、
「それは、きっと楽しいでしょうね!」
「おおぅ……ここにも大物がいたよ」
満面な笑顔で言い切ってみせて、アヴィエラさんを戦慄させてみせた。
「いえいえ。元々お客さんたちと話すのが楽しみなので、きっと楽しいんだろうなーって」
「それは、たとえば我らのうちの誰かとふたりきりでもか?」
「カウンターを挟んでふたりで話すこともよくありますから、大歓迎です」
「な、なるほど……もしや、サスケもこうやって鍛えられたのか」
「違う違う」
尊敬のまなざしを向けてくるルティへ、手を振ってすぐさま否定してみせる。俺の場合はあんまりカウンターで話したりしないし、そもそも自己流で練習してたんだからどっちにも当てはまらないって。
「でも、だからといって収録放送ばかりってのもなぁ」
「アタシは収録のほうがいい」
「開局の演説を収録で……というわけにはいかないだろうな」
「〈しゅうろく〉? それって、なんなんですか?」
「ああ、すいません」
そっか。ルティとアヴィエラさんは慣れていても、ユウラさんは耳慣れない言葉なんだよな。
「『収録』っていうのは事前にしゃべったことを一旦保存してラジオから聴こえるようにする形式です。それともうひとつ『生放送』っていうしゃべったことがそのままラジオから聴こえるようにする方式があって、これまでユウラさんたちが聴いていたのがこの形式なんですよ」
「事前に保存なんて、そんなことができるんですか?」
「あともうちょっとかな。この魔石が完成すれば、みんなの声を保存して〈らじお〉へ受け渡すことができるようになるんだ」
アヴィエラさんはドレスのポケットから緑と赤に輝くふたつの魔石を取り出すと、テーブルへコトリと置いてみせた。この間イグレールのじいさんが謀ったときのものよりはひとまわり小さくて、2つとも手のひらへのせても余るぐらいだ。
「そんな不思議な石が……」
「まだ開発中だけどね。これで保存できるのは30分ぐらいだし、1週間もすれば中身が消えちまうからもっと精進しないと」
「それってなんだか素敵ですね。レンディアールとニホンとイロウナの人たちが、いっしょに手を取って作っているみたいで」
「よ、よしてよ。イロウナなんて関係ないし、アタシが個人的な興味でやってるだけなんだからさ!」
「じゃあ、わたしの中で勝手にそう思っておくことにします」
「えぇ……?」
さっきに引き続いて、アヴィエラさんはすっかりユウラさんに圧倒されていた。
流味亭の店内を任せられているっていうこともあるんだろうけど、ユウラさんってこんなにもおしゃべり好きだったんだな。
「すいませーん、注文をお願いしたいんですけどー」
「あっ、はーい! すいません、長々と居座っちゃって」
「いや、我こそ引き止めてしまって申しわけない」
「エルティシア様たちとお話できて、とても楽しかったです。ホールのお客様が呼んでるので、これにて一旦失礼しますね」
外から聞こえてきた声に反応したユウラさんは、礼儀正しく言うと深々と一礼して個室から出て行った。
「凄い子だね……ユウラちゃんって」
「こうして面と向かって話したのは初めてでしたが、とても楽しきひとときでした」
さっきまで落ち込んでいたはずのふたりが、感心したように息をつく。確かにユウラさんと話していて楽しかったし、こういう人がレンディアールにもいるなんてな。
こういう人がラジオをやったら、きっと面白いんじゃないか――
「市井の者にも〈らじお〉に協力してもらうのは将来的にと考えていたのだが……将来的でなくてもよいのかもしれぬな」
そう考えていたら、ルティも同じような考えを抱いていたらしい。
「もしかして、ユウラさんをラジオに誘いたいのか?」
「うむ。サスケは、どう思う?」
「俺もいいと思うけど、まだ早いんじゃないかな」
目を輝かせるルティに対して確認するように問いかけるけど、その輝きを曇らせることなく首を横にふってみせた。
「我もそう考えていたのだが、ユウラ嬢のように〈らじお〉に興味を抱いている者が市井にいるのであれば、今からでも誘ってよいのではと思ったのだ」
「私も、エルティシア様の意見に賛成です」
続いて賛成したのは、俺の左隣にいるリリナさん。いつもの凛とした表情を浮かべて、控えめに右手を挙げていた。
「現在〈らじお〉に関わっているのは、私たちの他に誰もいません。〈ばんぐみ〉の数を増やして負担を分散させるという意味でも、門戸を広げるという意味でも今からお誘いするというのはとてもよいのではないでしょうか」
「わたしもそう思います。ラジオのことをヴィエル市内の人たちに広めるためにも、ユウラさんにお願いするのはとてもいいんじゃないかなって」
「広める、ですか」
「うんっ」
赤坂先輩もルティの意見に賛成なようで、俺の問いかけに小さくうなずいてみせる。
「リリナさんの言うとおり、今はレンディアールの王家に関わっている人たちとイロウナの高官を務めてるアヴィエラさんだけがラジオに関わっているでしょ。このまま進めても『偉い人専用』っていう壁ができちゃうかもしれないし、親しい市内の人たちを招くのは今のうちからでもいいと思うの」
「なるほど……そういう意味でも、確かに早めに誘ったほうがいいのかもしれませんね」
「アタシも、今のうちからユウラちゃんを誘っていいと思う。きっと楽しそうだし、ユウラちゃんが〈らじお〉でおしゃべりしてる姿を見てみたいよ」
「私も、ぜひともその姿が見てみたいです」
ここにいるみんなが、ユウラさんを誘うことに賛成らしい。元々俺も時期ことだけを懸念していただけだし、俺だってルティやアヴィエラさんのようにユウラさんのパーソナリティ姿を見てみたいのは確かだったから……
「じゃあ、ユウラさんを誘ってみるか」
「うんっ! ぜひともそうしよう!」
俺も賛成にまわったことで、ルティははじけるような笑顔を見せてくれた。
まったく、俺もルティのワクワク顔と笑顔には弱いよなぁ。
「よしっ、そうと決まったら景気づけに甘茶をおかわりしようではないか!」
「アタシもっ!」
「私も、もう一杯いただきたいです」
「わたしもおかわりしようかなぁ」
「では、皆のぶんを注文するとしましょう。サスケも、おかわりはいるか?」
「ああ、俺ももらうよ」
こんな風に問いかけられたら、うなずく他にないしさ。
さっきまであんなに沈んでいたルティがに元気いっぱいになった様を見て、俺はユウラさんに感謝しながらおかわりをもらうことにした。
というわけで、第5章「異世界らじおのひろめかた、ふたたび」の開幕です。今回はレンディアールへ舞台に移して、ヴィエルでのラジオをどう広めていくかの話になっていきます。
生放送というのはとてもド緊張するものでして、突然放り込まれると意識が遠のくこともあります。ましてや、素人が放り込まれた日には……20年ほど前、某ワイド番組に素人衆を放り込んだ当時のディレクターさんはえらい度胸をしているなと思ったものです。今もそういう番組はあるのかな……(「こども電話相談室」ぐらいしか心当たりがない)
それでは皆様、今章もよろしくお願いいたします!




