第4話 異世界のリスナーさんが、またひとり
「なるほど」
ルティと有楽に連れてこられた場所を見上げて、自然と納得させられる。
「確かに、こりゃ『塔』だわ」
「で、あろう」
「ここをそう表現したかぁ」
俺のつぶやきに、満足顔でうなずくルティと苦笑いする有楽。それと対称的に、
「ここが……?」
赤坂先輩はというと、納得いかなさそうに首を傾げていた。そりゃそうだ、先輩にとって馴染み深いところがそんな風に言われてるんだから。
「瑠依子せんぱい、ここしかないですよ」
「だな……ここしかないです」
「どういうこと?」
「だってここ、『タワー』マンションじゃないですか」
ルティから『塔』と呼ばれていた場所。そこは『わかばシティFM』から徒歩1分ちょっとで、ウチの喫茶店から徒歩3分ぐらいのところにある、20階建てのタワーマンションだった。
「えー……」
「ちょっ、せんぱいっ! なんでかわいそうな目であたしを見るんですか!」
「違うっ、違うのっ、そうじゃないの。だって、自分が住んでいるところが『塔』なんて思ったことなかったから」
ここの住民である先輩につられて見上げると、マンションの上空はすっかり真っ暗で星も少し輝いていた。
結構前に建設されたマンションではあるけど、この辺りにある他のマンションは10階建てぐらいのが多いこともあって、今でもよく目立つ存在になっている。そして、俺や有楽を始めとして『わかばシティFM』全体がお世話になっている場所でもあったりする。
「ここが住まいだと……ルイコ嬢は、どこぞの貴族か大賢者の娘なのですか?」
「ちがいますっ!」
「瑠依子せんぱいは、どっちかというとお姫様って感じかも」
「ほほう、確かにそのような気品が――」
「だーかーらーっ!」
さっきからファンタジーワードが飛び交っているせいか、あんまりサブカル知識が無いらしい先輩は半ばヤケに言い放った。
「はいはいストップ、ストップ。ルティ、ここは何百人の人がたくさんの部屋に分かれて、家賃……まあ、住むための金だな。それを払って住んでいるんだ」
「なるほど。敷地を高くすることで、土地そのものは狭くても住まう場を多くしているのか」
感心するように、ルティが高くそびえ立つマンションを見上げる。ここまでピュアな反応をするとは、なぁ。
「だが、入れないのでは意味がないのではないか」
「そこはだな。あの、赤坂先輩」
「なぁに?」
あ、ちょっといじけてる。そんな姿もまた可愛い。
「どうやって入るのか、ルティに見せてやってください」
「ん、そうだね」
気を取り直した先輩は、バッグからカードホルダーを取り出すとその中から一枚の磁気カードを抜き出した。
「いいですか、ルティさん」
「はいっ」
それをエントランス横にあるカードキーのスリットに通した瞬間、
「おおおおおお!?」
静かな音を立てて、自動ドアがゆっくりと開いた。
「なんなんです、今のは!?」
「魔法の鍵、みたいなものですね」
「魔法……魔術ですか!」
先輩のおどけた言葉を、ルティは真に受けているみたいだ。まあ、詳しい原理とかイチから説明してもわからなさそうだから、その一言で済ませれば確かに便利かもしれない。
「じゃあ、入りましょうか」
「はいっ」
先輩とルティに続いてマンションの中へ入ると、小さなフロントやラウンジがあってまるで小さなホテルみたいな造りになっていた。
「ルティさんは、どうやって下に降りてきたんですか?」
「階段があったので、降りてそこの扉から。とても長き階段でした」
「屋上の非常階段、ですか……大変だったでしょうね」
「かなり」
大真面目にうなずくルティだけど、そっか、エレベーターじゃなくて非常階段と来たか……20階からじゃ、吹きさらしで怖いだろうに。
「でも、今の時間じゃ暗いから、エレベーターを使って行きましょう」
「〈えれべーたー〉とは?」
「乗ればわかりますよ」
にっこりと笑う先輩は、またびっくりさせようと考えてるみたいだ。
「松浜せんぱい」
「ん」
「ルティちゃんのこと、どう思います?」
「どう思うって、なぁ」
こそっと有楽に言われて、キラキラとした目で先輩を見上げているルティを見やる。
「本人の申告通りじゃねえのか」
「ですよねぇ」
まだ小学生だった頃、江戸時代から現代日本にタイムスリップした侍のドラマを見たことがあるけど、それ以上にピュアなルティの反応を見てると、だんだん信じられる気がしてくる。
……ああ、『ピュアな反応』といえば、
「ほぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
エレベーターが上へ昇る感覚で、めちゃくちゃ可愛い反応をしていたのもまたピュアだった。
『20階です』
「はいっ、着きました」
「な、なんなのだ、この箱は」
「ここに住んでいる人を、それぞれの階に運んでくれる機械ですよ」
「機械ですと……ここは、機械と魔術が入り乱れる世界なのですか」
降りてからも震えてしがみつき続けるルティの頭を、赤坂先輩は落ち着かせるように優しく撫でる。有楽も近づいて、反対側をちょいちょいと撫でていた。
「あとは階段を上がれば、屋上ですからね」
「そんな馬鹿な」
「本当ですよ」
「ほんとだよー」
「むぅ」
「まあまあ、行けばわかるから……って、なんで両手を頭にのっけてるんだ」
「サスケも、我の頭を撫でるつもりなのだろう」
「やらないやらない」
手をぱたぱたさせて否定しても、ルティはじとーっとした目つきで手をどかそうとはしなかった。まったく、出会って間もない女の子にそんなことをする度胸はないっつーの。
結局、ルティは赤坂先輩と有楽の間で手を繋いで階段を上り始めたけど、それでもやっぱり不安そうにあたりをキョロキョロと見回していた。
「じゃあ、行くわね」
階段を上りきったところで、先輩がまたカードキーを取り出す。それをスリットに通せばドアが開くのはエントランスと同じだけど、こっちは自動ドアじゃなくてドアノブを回して開ける方式。その向こうは、一面が夜の闇に包まれている……ってわけじゃなく、植物が植えられた庭園の中心にある灯りが、ほんのりとあたりを照らしていた。屋上の縁は高いフェンスで囲われているし、夜でも歩きやすいように作られているらしい。
「ここだ」
相変わらずあたりを見ていたルティが、ぽつりとつぶやく。
「確かに、我はここに降り立ったのだ」
そのままふらふらと灯りの中を歩いていくと、その先に縁とは違ってさらに頑丈なフェンスで囲まれている場所があって、
「あ、あの、ルティさん。なんでそっちに行くんですか?」
「友が、そこで待っているのです」
その向こうは「わかばシティFM」の電波送信用の施設のはず。
今でこそ夜の暗がりで見えにくくなってはいるけど、フェンスで囲われている上に建物自体も鍵がかかっていて、さらに建物の上に昇ってフェンスの鍵を開けないと送信塔には行けないようになっているんだけど……
「ピピナ」
「…………」
「ピピナ、我が戻ってきたぞ」
「ルティ、さま?」
暗がりの向こうから聞こえてきたのは、とても小さな声。
「土産を持って来たぞ。こっちへ来るといい」
「おみやげですかっ!?」
その声が、いきなり俺たちがいるほうに近づいてくる。いや、もしそこに誰かいたとしても、フェンスから出られるわけが――
「ほらっ、パンだ」
「パンっ! パンですっ!」
って、なんでルティのそばから聞こえてくる!?
「今、用意してやるからな」
「はいですっ!」
子供っぽい女の子の声『だけ』は聞こえてくるけど、その姿は見えない。でも、ルティのそばにいるのは確かみたいだから、
「きゃあっ!」
スマートフォンの電源ボタンを押して、それを懐中電灯代わりに照らしてみたら、
「はあっ!?」
「えっ、ええっ!?」
「かっ、かわいいっ!」
てのひらサイズぐらいの青い髪の女の子が、透き通る羽をぱたつかせながら宙に浮かんでいた。
「これって……妖精?」
「なにするですか、このぶれーもの!」
「あいたっ!?」
って、羽でローリングビンタ!?
「いきなりぴかっとしたとおもったら『これ』あつかいだなんて。ぶれーにもほどがあるですよ!」
「いやいや、なんだよお前! いきなりビンタとか!」
「落ち着いてくれ、ピピナ! サスケも、申し訳ない」
ぷんすか怒ってる妖精もどきとにらみ合おうとしたら、ルティが必死になって割り込んでくる。じゃあ、ルティの言う「友」ってのは、まさか……
「なんなんですか、ルティさま。こんなおばかなニンゲンをつれてくるなんて」
「お馬鹿だなんて言うのではない。彼は、我の恩人なのだ」
「おんじん?」
ルティの言葉に、妖精もどきが疑わしそうにジロジロと俺を見る。
「はんっ」
「やんのかコラ、このチビ」
「おうおう、やるよーいはできてるですよっ」
「やめいっ! やーめーれっ!」
必死で止めようとするけど、ルティさんよ、鼻で笑われりゃ宣戦布告もんだよ?
「説明っ! ちゃんと説明するからっ!」
「わ、わかったよ」
「んー、わかったです」
さすがに涙目のルティに言われちゃ、止めざるをえない。目の端っこで見えてるヤツのあかんべーは気にしない。うん、気にしない。
「まずは……そうだな、ピピナ」
「はいですっ」
呼ばれてにぱっと笑うと、チビ妖精はルティの出した両手のひらの上にちょこんと座った。
「我を助け、この世へと連れてきてくれた友を皆に紹介したい。我が生まれた頃から共にいる、妖精の『ピピナ・リーナ』と言う」
「はじめまして、ピピナですっ」
小さいなりではあるけど、チビ妖精が元気いっぱいで自己紹介する。
「ピピナには、我をこの世で助けてくれた友を紹介しよう。まずは、アカサカ・ルイコ嬢」
「よ……よろしく?」
「よろしくですっ、るいこおねーさん」
理解が追いついていないのか、赤坂先輩はあいまいに返事したままチビ妖精のことを眺めていた。
「そして、ウラク・カナ」
「よろしくっ、ピピナちゃん! ああっ、かわいいなぁ~!」
「よろしくです、なかなかみこみのあるひとですねー」
なんか聞き捨てならないことを言ってる気がするけど、有楽のやつ、ハァハァモードに突入して聞いてねえな。
「最後に、マツハマ・サスケだ」
「…………」
「…………」
「やんのか?」
「やんですか?」
「サスケ、ピピナ」
「じょ、冗談だよ」
「じょーだんですよ、ルティさまっ」
にらみ合っていたところに飛び込んできたルティの低い声に、あわてて笑顔で弁解する。それでも、コイツは油断しちゃいけなさそうだ。
「ルティさん」
「どうかなさいましたか、ルイコ嬢」
「あの……本当に、本当に妖精さんなんですか? ピピナさんって」
「はいっ。私がいた国・レンディアールを守護する『豊穣の精霊』の幼子であり、友でもある妖精です」
「妖精さん……よーせーさん……」
「先輩、大丈夫っすか」
いかん、どうやらキャパオーバー寸前らしい。
「るいこおねーさん、るいこおねーさんっ」
「ふぁいっ!?」
チビ妖精がルティの手のひらから飛び立つと、赤坂先輩の目の前にふわふわ浮いてちょこんとおじぎをした。
「きょうは、ルティさまのことばをきいてくれてありがとーです」
「ど、どういたしまして。って、あれっ?」
「おお、ピピナも聴こえたのか」
「はいですっ」
そして、笑顔でびしっと敬礼。
「ピピナ、そらをとぶ『こえ』がきこえるです。だから、ルティさまとるいこおねーさんのやりとりもきこえたですよ。るいこおねーさんのやわらかいこえ、ピピナもだいすきですっ!」
「あら……まあ」
「へえ。ピピナちゃん、ラジオの音が聴けるんだ」
「〈らじお〉がなにかはよくわからないですけど、ピピナのはねをぴぴっとしたら、すぐそこのたかーいとうからぴぴっときこえたです。るいこおねーさんのまえにすっごくこわいことをいってたのが、かななのですよね」
「そうそう! えへへっ、妖精さんにあたしの演技を聴いてもらえるなんて、夢みたいだなぁ」
「と、ゆーことはぁ」
うれしそうに身もだえしてる有楽から、チビ妖精が振り返ってにんまりと笑う。
「……『こえぇよ! このしんにゅーせーこえぇ!』」
「っ! こんにゃろっ!」
「くすくすぷー」
一回おしおきしてやろうと両手を伸ばしたけど、俺の手をすり抜けてルティの肩の上へ逃げやがった。
「あははっ、さるすけのなさけなーいこえもたのしかったですよー!」
「誰が『さるすけ』だとコラぁ!」
「ピピナ」
「はわっ!?」
そのルティが、ケタケタ笑うチビ妖精の首元をつまんで顔の前へ持って行くと、
「そろそろ、おしおきが必要だな」
「ふにゃぁぁぁっ!?」
空いていた右手で、チビ妖精のほっぺたをぐにゅぐにゅとつまみだす。
「初対面の相手に、無礼は厳禁だ」
「でもでもっ、あいつだってもぎゅっ!」
「くふっ、ふふふっ」
「赤坂先輩?」
笑い声がしたほうを見ると、隣にいた赤坂先輩がこらえるようにして身を震わせていた。
「ごめんなさい。ピピナさんと松浜くんのやりとりを見てたら、つい」
「やーいやーいわらわれもがっ」
「ピピナも含めてということだろう」
「ふたりとも、だね」
「えー」
「せ、先輩」
「当然だ」
情けなく声を上げる俺とチビ妖精を、ルティが一刀両断で締める。情けない姿を先輩に見られるとは……不覚。
「でも、ちゃんと現実だってわかったわ」
笑いが収まった赤坂先輩は、ルティのほうへ近寄ると手のひらの上でほっぺたをさすっているチビ妖精の顔をのぞき込んだ。
「わたしたちの世界には妖精さんがいないから、どう接すればいいかわからなかったんです。ごめんなさい、ピピナさん」
「いーのですよ、るいこおねーさんっ」
先輩が差し出した人差し指を、にぱっと笑ったチビ妖精が両手で握手っぽくにぎる。背中の羽と、ちょこんととがった耳以外は俺たち人間とあまり変わらないけど、ルティの手のひらにおさまる姿はラノベとかに出てくる妖精そのものだった。
とんでもなく生意気だってことは除いて、だけどな。
「ねえねえ、ルティちゃん。ピピナちゃんとはいつ頃ここに来たの?」
「おそらくではあるが、だいたい二日ほど前だろうか」
「二日前かぁ」
「うむ、これが三度目の夜となる」
「じゃあ、ふたりともそこで野宿してたんだ。着替えとか食事は?」
「全部向こうに捨て置いてきた」
「えっ」
なんか今、さらっととんでもないことを言いやがった!
「先ほども話した、賊に追われたときに目くらましになるかと思い投げてしまったのだ。執拗に我らを追ってきたので、無駄になってしまったがな」
「あのおばかさんたち、ルティさまをさらってひともーけとか、ふてぇことをかんがえてたみたいです」
「ということは、ルティちゃんがふらふらになってたのって」
「二日間、何も食べるものは無かったもので……」
「おみずだけは、ここにくるひとたちのみずまきをこっそりまねしましたけどねー」
「……ふたりとも、ずいぶん大変な目に遭ってたんだね」
「だが、そなたらや〈らじお〉に出会えたのを考えれば、全てが悪いことばかりとは言えまい」
からからと笑って言うルティだけど、なんつーハードな経験をしてるんだよ……
「じゃあ、ルティは今晩どうするのさ」
「再び、ここで野宿するしかなかろうな」
「ルティさんとピピナさんが元いた世界には、戻ることは出来ないんですか?」
「そのようなことはないのですが、ピピナの力が元に戻るには時間が必要でして」
「ルティさまのたましいがぺこぺこにならないようにしたり、ここでピピナとルティさまがのすがたをかくそうとしたりすると、どーしてもピピナの『ぴぴっとぱわー』がたらないんです」
隠れようとしたというのはわかるが『たましいがぺこぺこにならないよう』って、これまたずいぶん物騒なことを言いやがる。それに、春の屋上で野ざらしだなんて、いくらなんでも無謀すぎだろう。
かといって、泊まる場所……なあ。
「あの、ルティさん、ピピナさん」
そう思っていると、軽くうつむいていた先輩が顔を上げてふたりに話しかけた。
「ここで寝泊まりを続けるのは身体に悪いですし、もしよかったらわたしの家に来ませんか?」
「ルイコ嬢の、家に……そんなっ、我々がいてはルイコ嬢の御家族の邪魔になってしまいます」
「そんなことはありませんよ。父と母は今、ポーランド……えっと、遠くに住んでいますし、ルティさんとピピナさんが寝るところもすぐに用意出来ますから」
「しかし」
「それに、ですね」
続いて先輩は、人差し指をぴんと立てて、
「もっと、おふたりの話を聞きたいんです」
「ピピナたちのおはなしですか?」
「はいっ。それには、もっと落ち着いた場所のほうがいいじゃないですか」
名案とばかりに、にっこりと笑った。
夕方、ルティのジングルを録りたいって言ったときもこんな風に笑っていたけど、楽しそうなことを思いついたときの先輩の表情はいつ見ても可愛らしい。
「そこまで、仰るのでしたら」
「ピピナ、よろこんでるいこおねーさんのとこにいくですよー!」
「ピピナ!」
「ふふっ、いいんですよ」
ルティもチビ妖精も、その笑顔を見て納得したようだ。
「いいなー、瑠依子せんぱい」
「有楽も誘うつもりだったのか」
「いえいえ。うちは妹がいっぱいいますし、無理は無理なんですけど」
そこまで言って、有楽がぎゅっと拳をにぎる。
「異世界の子を家に泊めるとか、ロマンのカタマリじゃないですか!」
「……俺にはそのロマンはわからん」
時々、コイツのサブカルトークにはついていけなくなるときがある。
俺ん家の場合だと、母さんはともかくとして、父さんがアニラジのパーソナリティ経験者……だとしても、いきなり現物のチビ妖精を連れて行ったりしたら卒倒するだろうな。
「ねえねえ、松浜くん、神奈ちゃん」
「なんすか?」
「ふぁい?」
呼ばれたほうを向き直ると、相変わらず先輩がうれしそうに笑っていた。
「ふたりも、これからどうかな?」
「これからって、なにがです?」
俺が聞き返すのと同時に、先輩がぽんっと手のひらを合わせる。
「わたしの家で、ルティさんとピピナさんといっしょにお話しするの」
「はいっ!?」
「いいんですかっ!」
「うんっ」
有楽は即食いついてるけど、待て待て、ちょっと待て! ちょっとだけ年上だけど、女の子の家だよ!? 女の子の家!
「せ、先輩っ、もう夜の7時過ぎですし、そんな時間におじゃまするわけには」
「大丈夫だよっ」
ああっ、そのキラキラした笑顔で言わないで下さいっ!
「おばさまにはわたしから電話するし、それにね」
その上、近づいてこられたりなんかしたら、
「会わせてくれた松浜くんと神奈ちゃんとも、たくさんお話ししたいから」
「じゃ……じゃあ、喜んで」
陥落以外の選択肢が、あるわけないじゃないですか。
「ほんと? ありがとっ!」
「あはっ、あははは」
この瞬間、俺の人生で初めての女の子部屋行きが決定した。
……どうするよ、俺。
新しく出来るコミュニティFMの電波を拾おうとしたら、ベランダでしか出来ませんでした。
……本当は圏外だからね。ちかたないね。






